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ヴルガルド革命【筋書き】

 関所だった場所。モニカとカミラ、そして解放軍の兵士達。


 彼らの周りにも突然黒い人の姿をした何かが湧いたように現れる。


「な、何ですかこいつらは!?」


「ねー、セオドア。こいつら何?」


 先程突然交信が途絶えたセオドアに再び声をかけてみるが返事はない。まさか……襲撃された?


「うーん……流石にちょっと簡単だなぁとは思ったけど……」


 金棒を構えながらカミラは黒い人の形をしたそれを睨む。


「ゴ……ゴゴ……」


 何か呻き声のような声をあげたかと思うと、そいつらはカミラ達を無視して崩れた壁の残骸を飛び越え、一斉に商業区へと流れ込んでいく。


「ちっ……」


 この感じ……多分、やばい奴らだ。カミラに向かってくるのであれば全員叩き伏せてやるがこの無数の奴らを逃せば街に被害が出る。


 ズガガァン!!


 取り敢えず金棒に黒炎を纏わせて手近な化け物達の頭を殴り飛ばす。


「グ……」


「ゴゴ……」


 鈍い呻き声を漏らしながら黒い人型のそれは地に伏す。だが、それでもこいつらは止まらない。再び立ち上がって商業区の街を目指す。


「しぶといなぁ……!【鬼火】!」


 カミラは自身の炎を飛ばし、黒い人影を燃やす。


 全てを喰らい尽くす魔の炎が全身を覆いつくすと、ようやく黒い人影は動かなくなった。


 ここまでやらなきゃ止まらないのかこいつらは。一体これはなんだ?こんなヤバい奴らを街中に放つなんて……イカれてる。


 きっと、こんなことをやらかす奴なんてあいつ以外にいないだろう。


「こんな趣味の悪いこと……あんたの仕業だよね?レイオス」


「………………ふっふっふ」


 関所を見下ろす1つの建物。その屋根の上から姿を現す紫のローブに身を包んだ男。


 レイオス。この国を蝕む元凶がまさにすぐそこに現れたのだ。


「あんたが何企んでるか知らないけど……もう僕らの勝ちだよ」


 趣味の悪い下卑た笑みにカミラは言い放つ。


 産業区の解放は成した。


 ここで行われてきたことはすぐにゼリルダ様の耳に知られる。そうなればレイオスはゼリルダ様からの信頼を失う。


 そして後はフィンとの確執を取り除けばこの国の実権はゼリルダ様に戻る。


 それがカミラ達の筋書き。ヴルガルド革命だ。


 つまり、レイオスにとってはまさに絶体絶命。チェックメイト。革命はほぼ成された。


 これでレイオスは全てを失い、この国を追われることになるだろう。


 カミラの言葉を聞いて、レイオスは自身の顔を抑える。その肩は何やら震えているように見えた。


「あんたが負けたから泣いてんの?自業自得だし、むしろこれまでよくもまぁ好き勝手してくれたもんだよ。これ以上好きになんてさせない。この国の女王はゼリルダ様だ。潰されたくなければとっととこの国から出ていきな!」


 勝利を確信したカミラは金棒を向けてレイオスに言い放つ。


「ふっふっふ……いやはや、まさかここまで」


 カミラに金棒を向けられたレイオスは肩を震わせ……そして……。



「ふははははは!まさかここまで貴様らが手の平の上で踊ってくれるとは……!愚か……いや、もはや滑稽ではないか!!ふはははは!!!」



 レイオスは高笑いした。


「何がおかしい?状況はあんたにとって最悪でしょ?負け惜しみのつもり?」


「まさか!貴様らの行動は私の描いた筋書きの通りだ!」


「あんたの筋書きだって……?」


 レイオスの言葉にカミラに嫌な悪寒が走る。


 分からない。だが、何を今更……ゼリルダ様がこれでもお前についてくるとでも思っているのだろうか。


 例えゼリルダ様を言いくるようとしても、こちらには兄であるフィンがいる。彼の言葉ならきっとゼリルダ様にも届くはず。


「ふ。フィンケルシュタインの言葉ならゼリルダが揺らぐと?」


「……っ」


 そこまで読まれているか。


「確かに、フィンケルシュタインならばゼリルダをかどわす可能性がある。だが……それが分かっていて私がその対策を打っていないとでも?」


 ヴルガルド国の1番の懸念はフィンの存在。だからこそ、その対策もまた忘れてはいない。


「冥土の土産に教えてやる。筋書きはこうだ。私は産業区を守るためにこの壁を建造し、ここを守ってきた。フィンケルシュタインがこの国を乗っ取る為に産業区を支配、この国の国民を攫って化け物に作り替えていた。この壁はその進行を食い止めるための防壁だった!」


「……はぁ?そんなホラ話、ゼリルダ様が信じるとでも?」


 解放軍の兵士が実情を話せばそんな嘘話などすぐに覆るだろう。


「僕ら側の陣営がゼリルダ様に接触したら誤解なんて解けるね!」


「ならば、接触させなければ良い」


 確かにゼリルダ様にここの実態を伝えられなければここを解放した意味はない。


「でも、これだけの人数がいる。それを全部止めるなんて無理だね!」


「それはどうかな?」


 カミラの言葉を切り捨てながらレイオスは続ける。


「この防壁を突破するために、さぞ戦力を投入したようだな。貴様らの陣営は消耗し、そしてここに集結している。それが何を意味するか分かるか?」


「…………」


 この産業区の壁を破壊すれば国が覆る。


 それ故に、この壁を破壊するのに全戦力がここに集結している。


 逆のことを言えば、つまりレイオスに反旗を翻す勢力は全てここに集結しているということ。逃げ隠れする解放軍どもを一網打尽に潰す絶好の機会というわけだ。


 つまり、産業区解放を逆に利用されたわけだ。


 セオドアも今頃レイオスの放った追っ手にでも襲われたということか。


「……そう簡単に僕らがやられるとでも?」


 だが、ここにはカミラもいるし、ソウルくん達の仲間もいる。そう易々と負けるはずもない。


 だが、それすらもレイオスは折り込み済み。


 勝てる勝負しかしない主義のレイオスは、ここで必ず勝利するための切り札を切る。



「さぁ、仕事だ!ファーロール!ここに集まった反抗勢力を全て消しされ!そうすれば貴様の望む奴との一騎打ちが実現する!1匹たりとも逃すなよ!?」



 ズンッ!!



 空から飛来する木の塊のような物体。


 それはすぐに形を変えて3本の木の幹が巻きついたような姿になる。


「ファーロール……!」


 まずい。こいつは確かアルファディウスをも殺して見せた10の邪神の一角。本当にこの国に潜んでいたのか。


「ちょーっと……ヤバいか……?」


 カミラはまだ充分にやれる。だが、この人形使いの女の子はかなり消耗してる。


 セオドアは交信が途絶えているし、向こうで戦っていた解放軍も同じく消耗しているだろう。


 だが……。


「ふん。でもまだフィンがいる。彼がゼリルダ様と接触すれば……」


「それももう、手を打ってある。お前も分かっているだろう?」


 レイオスの言葉を聞いて頭をよぎるのが【龍の休み場】に訪れた1人の獣人。


 あれだけ傷ついてなおあそこに辿り着けたのはこいつの差し金か。


「愚かな男だ。ただの猫1匹のために、妹を……この国を取り戻すチャンスを棒に振るなんてな。これだから感情で生きる奴らは嫌いなんだ」


「ソウル君達に何をしたの?」


「何、少々地下で大人しくなってもらっているだけだ。地下の動力を落とし、出れる手段を奪ってな。空気穴は空いているだろうから死にはせんだろうが」


「当然だ!貴様らを大人しくした後で我があの竜王と戦うのだからな!」


 目の前のファーロールが高らかに宣言する。


 なるほど。じゃあフィンを地下に閉じ込めているうちに産業区で行われてきた悪事を全てフィンになすり付け、反抗勢力が集まったここで全てを終わらせる。


 相変わらず汚いことを考える。


「ゼリルダが街に出てこようともあの人造魔人を街に解き放てばゼリルダは奴らを止めるために戦うだろう。さすればゼリルダがあいつらを始末し終える頃には全てが終わっている」


 人造魔人……?


 それがあの黒い奴らの名前か?


 確かにそれほど強力な化物ではないが、しぶとさだけは一級品。そんな奴らが街を襲えば優しいゼリルダ様はあいつらを止めるために戦うだろう。


 ゼリルダ様がここに来るかどうかは分からないが、万に一つもゼリルダ様とカミラ達を接触させないためにレイオスは動いている。


 状況が一転。一気に窮地に立たされたカミラ達。


「やるしか……ないよなぁ」


「ファハハ……鬼の娘か。貴様は少しは楽しませてくれるんだろうな」


「……セオドア。起きてんなら1つポピーに言って欲しいことがあんだけど」


 そう呟きつつカミラは金棒を構え、自身の黒炎を纏わせる。


「さぁーて……やるとしますか」


「わ、私も手伝います……!まだやれますね?ロベルト」


『もちろんだよ、モニカちゃん。久々の戦闘なんだから、まだ暴れたりないな』


 そしてカミラとモニカは臨戦体勢をとる。


「おいおい、随分とまぁヤバそうな奴がいんじゃねぇか」


「あの壁の奴より骨がありそうだな。少しは楽しませてもらうぜ」


 そこに合流する別働隊の解放軍たち。


 ギドとライもまた自身の武器を構えてファーロールを睨む。


 対するファーロールは3本の腕を振るいながら歯向かう戦士達を迎え撃つ。


「来い、羽虫ども。あの竜王との戦いの前に軽く準備運動をしてやろう。全員まとめてかかってこい」

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