ヴルガルド革命【産業区解放戦8】
ツァールを斬り飛ばした直後。産業区を隔てる壁はまるで支えを失ったかのように一気に崩壊の一途を辿る。
ギド達が戦っていた戦場はおろか、崩れた壁がまるで伝染するようにガラガラと崩れて瓦礫の山へと還っていく。
「やったぞおおおお!!」
「完勝だぁぁぁあ!!」
解放軍の中から響く勝利の雄叫び。
ある者は拳を高々に掲げ、またある者は涙を流して勝利を喜ぶ。
「……ま、これで万事解決って訳だな」
産業区の解放は成した。後はレイオスが失脚し、ゼリルダとソウルを会わせて同盟の話を進めればいい。
これで全てがうまくいくはずだ。
『…………』
「どーしたセオドア。俺らの勝ちじゃねぇか。もっと喜べよ」
勝利を勝ち取った解放軍の総大将、セオドアが妙に大人しいことに気がつく。
『全く……うちの兵たちをなんだと思って……。いや、それはまぁ置いておくとして』
しばらくの沈黙を保ったあと、セオドアが言葉を続ける。
『妙に……呆気なさすぎやしないか?』
「……呆気ない?」
セオドアの言葉にギドも思考を巡らせる。
「考えすぎじゃねーのか?」
『いや……あの姑息なレイオスが、この程度で終わるものか?』
「んだよ。ちゃんと増援もされてただろうが。そのレイオスの策を俺たちが上回ったんだよ。それ以外にあるか?」
ツァールの討伐を確認したライがギドの側までやって来てそんなことを言う。
「……いや、だが逆のことを言えばレイオスは俺たちがここを攻めることを予測していたってことだ」
わざわざ増援を置いておいたということは、ここを攻められることを予見していたということ。
そして、セオドアの話を聞く限りここを突破されればレイオスにとって致命的なことになると言う話だった。
そう考えれば、確かに事が上手く運びすぎているような気もしてくる。
「だったら何だよ。まさか、わざとここを破壊させたって言うのか?」
「…………どうなんだ、セオドア」
『……いや、正直奴がそんなことをする理由が思いつかない。ゼリルダ様を言いくるめられるとでも思ってるのか?それにしてもそんな不確定なことをレイオスがするとは思えない』
勝利を勝ち取ったはずなのに、不穏な空気が流れる。
「ちょーい!こっちの援護に来いって言われたから来たのに!もう終わってんじゃーん!」
すると、空の方から何やらキーキーとうるさい声が響く。見上げるとそこには小さい羽虫のような人間が羽を羽ばたかせて飛んでいた。
「何だこりゃ?」
ギドは反射的にワイヤーを飛ばしてその小さな人影を捕らえる。
「え?グェボォ!?な、な何すんのぉ!?」
「何だこれ?敵か?」
『あぁ、それは【北斗七帝】のポピー。一応味方だよ』
「ひ、人を物みたいに言うんじゃねー!!」
ギドの腕の中でじたばたと暴れるポピー。そうか、これ妖精か何かの種族か。
「さて、そんじゃどーすっか。取り敢えずソウル達と合流したいところだが……」
ポピーを投げ捨てながらギドがそんなことを口にしたその時だった。
『……っ!何だ!?』
突如セオドアの切迫した声が響く。
「……おい、どうした?」
『ザザッ……』
ギドは交信の向こうのセオドアに尋ねるが返事がない。
「なんかあったのか?」
「…………」
勝利の余韻が冷め、一気に不穏な空気に包まれる。
セオドアの方で何かあったのか?セオドアの方に戻ろうかと思案を巡らせたその時。
「う、うわぁぁあ!?何だこいつらぁ!?」
突然、解放軍の兵士からそんな声が上がる。そちらに目をやるとそこには黒い身体を持った人型の何かが現れてギド達を取り囲んでいた。