ヴルガルド革命【産業区解放戦4】
産業区、関所。
【寄生獣】ロイガーは高笑いしながらその触手をモニカに向けて振り回していた。
「ふはははは!どうした!?さっきまでの強気な態度はどこへ行ったぁ!?」
「く……!」
触手を躱しながら、モニカは自身の頭から噴き出す血を拭う。
「ほら、行けよスプリング!巴!お前の主を引き裂き殺せぇ!!」
スプリングを奪われたあと、モニカは巴を展開。だが巴までもがあのロイガーに奪われてしまっていた。
「ひ、卑怯者……!」
「何とでも言え。勝てばいいのだ」
スプリングと巴の首の後ろから伸びる一本の細長いキノコ……名前をつけるとするなら「チョビノコ」とでもいいましょうか。あれが2人の身体を支配し操っているようですね。
状況を分析しながらモニカは迫る2体の人形から逃げ回る。
この調子では新たな人形を出しても奪われるだけ。それに残された人形はハロルドと小さな兵隊さん達。ロイガーと撃ち合うには火力がどうしても足りない。
それに加えてスプリングと巴が敵の手に堕ちている。はっきり言ってモニカにはもう太刀打ちする手がなかった。
「逃げるか?逃げてもいいぞ?」
「……逃げる?そんなことできるはずがないじゃないですか」
けれど、このまま逃げ出すつもりはない。このままではスプリングと巴が奪われ、どうなるかも分からない。
「彼らを置き去りになんて、決してできません!」
だから例え打つ手が無かったとしても。それでもモニカに後退の2文字はなかった。
「ふはは……じゃあ死ねよ。お前のたーいせつな家族の手で……八つ裂きにされちまいな!!」
ロイガーの言葉と共に襲い来るスプリングと巴。
対するモニカはその2体の人形目掛けて走り出す。
「あのチョビノコさえとってしまえば……!」
恐らく、彼らの身体に生えたキノコが寄生の力の源。あれを何とかしてしまえば2人は解放されるはず。
「【分霊】のマナ!」
スプリングと巴に自身のマナを送る。すると、一瞬だけ人形達が体の動きを止めた。
その隙にモニカはスプリングの身体に飛びつき、スプリングの首元に生えたキノコに手を伸ばす。
「チョビノコさえ……取ってしまえば……!」
『いかん!モニカ、離れよ!!』
その時。巴の切羽詰まった声が響く。
「え……?」
人形達はまだ動けない。
だが、敵はそれだけじゃなかった。
「甘いな、ドミニカの末裔。私のことを忘れるとは……」
モニカの頭上。そこには緑色の触手が醜く口を開けながらモニカのことを見つめていた。
「……あ」
そうだった。敵は奪われた人形だけじゃなかった。
ガブッ!!
「あぁぁぁぁっ!?!?」
触手がモニカの肩に食らいつく。ミシミシとモニカの肩から骨が軋む音が聞こえ、痛みのあまり視界がチカチカする。
「バカだな……そんな人形など捨て置けばよかったものを。そんなガラクタを見限れないから君は死ぬんだよ」
ロイガーの触手がモニカを蔑むように告げる。
「誰が……」
ギリリ……と歯を噛み締めながら、モニカは触手を睨み返す。
「誰が!ガラクタなんかじゃない!みんな私の大切な家族です!」
許せなかった。
モニカにとって、スプリングも巴も。兵隊さん達もハロルドも……そしてまだ和解していない2人の人形も大切な家族だ。
それをガラクタなどと言われてモニカは許せない。
「はっはっは。面白いことを言う。所詮何を言おうが人形だろ?そんなお人形遊びがいいのか、笑わせる」
「何とでも……言いなさい!」
「はっはっは。ならば、お前をミイラにした後、私のお人形にしてやる。よかったなぁ!お前自身がお人形になれて!そんなにお人形遊びが好きなら本望だろう!?」
「こ……のおおおお!!」
ボキリと肩の骨が砕ける。それと同時にモニカの肩から何かが吸い取られていく感覚がした。
途端に生じる喉の乾き。間違いない、さっきの解放軍がやられていた水分を吸い取る魔法だ。
殺される……殺される!
何とかしなければ……でも、新しい人形を出せばまた奪われてしまう。だったらせめて、このまま……これ以上あんな奴に彼らを渡すくらいなら……!!
『モニカ!』
『バカ……!モニカちゃん!おじさんそんなの許さないぜ!?』
巴とスプリングの声が聞こえる。それでもモニカは譲らない。
せめてこれ以上みんなを奪われる訳にはいかない!
『相変わらず、モニカちゃんは馬鹿なんだね』
バカンッ
その時。モニカの収納鞄が大きく開かれる。
ザシュッ!!
それと同時。モニカを捕まえる触手が断たれ、赤い血を噴き出しながら地に落ちた。
「え……!?」
そして、中から現れたそいつはモニカを抱えてスプリングの体から飛び降りるとそのままモニカを地に転がす。
「ど、どうして……?どうしてあなたが……!?」
モニカは目の前の光景が信じられなかった。
声を震わせながら、そこに立つ少し背丈の小さな木彫りの人形に語りかける。
『……だってね。僕らがこの身に堕ちてから、誰も僕らを人として扱ってはくれなかった。モニカちゃんだっていずれそうだ、どこかで僕らを裏切るとそう思っていたんだよ』
彼は振り返りもせずに語る。
『命を投げ出してまで僕らを守ろうとするなんて。こんな人形のために……本当に馬鹿な子だな。でも……』
背中に背負った木の鎚を構え、モニカを庇うように立つ一体の人形。
『家族だって……人として扱われちゃったら……もう僕だって下らない意地なんか張っていられない。たぎっちゃうな』
そして、彼は言う。
『だから……僕も君に力を貸す。僕も君のために死力を尽くすと約束するよ。この僕……ロベルトがね』




