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厄災1

 シュタールの地下。


 アリの巣のような張り巡らされた地下道を2人の獣人は進んでいた。


「そろそろ城の地下か?」


「そのようですわね」


 ソウル達と別れてから約3日。思ったよりも城に辿り着くのに時間がかかってしまった。


 今は約束の宿屋へと集まる日の夕暮れ時になっていた。


「もう今日の夜には例の宿屋についていませんと……」


「仕方ねぇ。こんな地図じゃそううまくはいかねぇってことだ」


 フィンから預かった地図を雑に折りたたみながらノエルは告げる。


 複雑な地下通路。しかもところどころが崩れたり塞がれて思うように進めなかったせいでアルとノエルは迷っていた。


 予想以上に時間がかかってしまったが、ようやく城の地下へと辿り着く通路に入れたような気がする。


「はぁ……陽の光が恋しいですわ」


「まぁ、お前はそうだろうな」


 地下暮らしが長いノエルはともかく、アルは迷いの石窟やら地下道やらで陽の光を浴びない生活で辟易していた。


「とりあえず……城についたら少しはマシだろ。がんばれや」


「……そうさせてもらいますわ」


 とにかく、この地下とももうすぐお別れ。名残惜しさも何も感じない。


 とりあえず、城の内部へと向かう通路さえ見つけてしまえば、あとは潜入するだけ。今はそこの場所だけ把握してソウル達と合流すべきだろう。


 そう思ってただ目指す場所に向けて足を進める。


「「…………っ」」


 その時。アルとノエルが同時に立ち止まる。


「…………何です?」


「お前も聞こえたか?」


 地下の向こうから、何かの気配を感じた。


 2人は互いの武器を構えて警戒を強める。


 こんな地下に……何者?



 ザッ

 


「ほぅ……わざわざこんな地下から城を目指すということは、盗人か?それとも何か別の目的があるのか?」



「「〜〜〜〜〜っ!?!?」」



 背後から、突如投げかけられる第三者の声に、ノエルは背筋が凍った。


 ばかな……。気配がした方を警戒していたはずだ。それなのにどうやって背後に回った?


 しかも2人は感覚の鋭い獣人。当然見逃すはずがない。


 だったら……瞬間移動……?いや、そんなマナの気配は感じなかった。


 まさか……俺達にも見えないほどの速さで……背後に回られたと言うことか!?


「あ…あなたは……何者ですか?」


 アルは体を震わせながら、背後に立つ存在に問いかける。


 本能が叫んでいる。後ろの存在は、危険だ。


 気を抜けば一瞬で命を狩られると。


「背後を取られてなお……気丈に振る舞うか。それ相応に武の心得はあるようだな」


 背後の気配が笑うのが分かる。


「そうだな……ならば手合わせ願おうか。このまま貴様らの命を狩るのは楽だが、我もずっと退屈していたからな」


 そこで初めてアルとノエルは振り返る。


 立っていたのは3本の木の幹を絡めたような化け物。1つの大きな目玉がこちらを見下ろしている。


 地下の中心部に立っていた木と同じ物だと言うことに気がついた。


「まさか……あれが生き物だとは思いもしませんでしたわ」


 アルは手に2本のナイフを顕現させながらそう告げる。


「ファハハハ。そうだな、生き物とはまた少し違うのかもしれぬ。我は魔人ファーロール。生物の理を外れし存在だ」


 魔人……!


 と言うことは、こいつは覇王陣営の何かということ?


「あなたは一体、何者ですか?どうしてこんな地下にいるのです?」


「ファハハ……何。我は待っているのだよ」


「待つ?一体何を……?」



「我が、魂の乾きを満たしてくれる強敵を……!あの男が再びこのシュタールに戻ってくるのを待っている!それまではこの地下で城の番人をしているという訳だ」



 そう言った魔人は太い3本の腕を構える。するとその腕の先に巨大な大剣が顕現した。


「さぁ、それまでの暇つぶし。我を楽しませて見せよ。2匹の獣よ」


「ほざけ……!」


 これ以上の問答は無意味。どうやら、やるしかないらしい。


 それを察した2人の獣人は同時に地面を蹴る。


 方や足に氷結を纏い、方や足に桜色の炎を纏う。


 左右に別れ、同時に攻撃をお見舞いする。


「【雹牙】!」


「【千本桜】!」


 ノエルの蹴り、アルの斬撃がファーロールに襲いかかる。


「ぬん!」


 ギィン!!


 2人の攻撃は大剣で止められる。


 まるで大樹を相手にしているように、止められた攻撃はびくとも動かない。


「氷結の蹴りに……珍しい、質量を持った火炎か。稀有な能力だな」


「お褒めに預かり光栄ですわ……!」


 このまま力比べをしていても意味がない。この感じでは力で敵わないのが分かる。


 ならば、獣人の強みを活かす。


 鍔迫り合いの体勢からアルはスルリとファーロールの懐へ飛び込むとそのまま素早く魔法を展開。


「【桜火】のマナ!【花炎】!」


「ぬ?」


 桜色の炎がファーロールの身体を焼く。


「よし……!いいぜ、アル!」


 それを隙と見たノエルもまたファーロールの懐へ。


「【雹牙】!」


 ノエルはガラ空きとなったファーロールの腹目掛けて氷の蹴りをお見舞する。


 ドスン!


 入った。見事なまでの直撃。


 上半身はアルの炎で焼き払われ、腹部から下はノエルの氷結で凍りついていく。


「どうですか!?私達はノーデンスの従獣をも倒しましたわ!そう易々と負ける物ではありません!」


 そう、あの地下の魔獣だって倒して見せた。今のアルはかつてのように己の非力さを嘆くだけのアルじゃない。


 あのノーデンスの駆る魔獣を倒したのは彼女にとって1つ大きな自信となっていた。



「……狭いな。童ども」



 ビシリ


「な……!」


 だが、そんなアルの自信をへし折るようにファーロールはため息をつく。


 アルの炎も、ノエルの氷も。ファーロールは身体を1つ振るうだけで消し飛ばしてみせた。


「ノーデンスなどという下等な魔獣と比べてくれるな。あんな獣を狩ったとて、大したこともないだろう」


 ファーロールの1つ目がギョロリとアルを睨む。


 そんな……!?通じていない!?


「チィッ」


 アルの思考が固まる。そんなアルを見てノエルは舌打ちした。


 バカが……!確かにお前は覚醒して強くなった!


 だが、流石に浮かれすぎだ!こう言った駆け引きは本来お前の得意分野だろう!?力に溺れてそれを見失いやがって!


 そう、確かにアルは覚醒し強くなった。


 だが、同時に覚醒した自身の力を過信した。無理もない。自身の魔法を覚醒させた者によくあること。


 ましてや、これまで魔法の弱さに劣等感を抱いていたアルには無理もないことだった。



 シュンッ



「なっ!?」


「井の中の蛙。世界の広さを知らぬ獣人よ。その程度では我の渇きを満たすに足らず」


「アル!後ろだぁ!!」


 獣人にすら知覚できぬ速さ。


 目の前の魔人は人智を超えた存在。


 だからこそ、油断も過信もあってはならない。


 常に敵の方がこちらの想像を遥かに超えてくるのだから。



「足らぬな、小娘。お前では役不足だ」



 次の瞬間。アルの頭上にファーロールの大剣が振り下ろされた。

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