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革命の日

 やることは決まった。配置も決めた。あと決めなければならないのは。


「いつ行動を起こすかだナ」


 ソウルは思考を回す。


 なるべく早いほうがいいとは思う。だが、かと言って急ぎすぎるのもいささか危険を伴うような気がした。


 王の間での戦闘を経て、ソウル達だってまだ万全とは言えない。休息をとって力を蓄える必要もある。


 それに現状の戦力はソウル、フィン、シェリー、カミラ、ポピー、アベルの6人。正直心許ない。


 別行動をしている仲間達も多くいる。そんな中で不十分な戦力で行動を起こすのはリスクが伴う。


 レイ達は今、ゼリルダと共に行動している。ここに戻ってくる保証はないだろう。


 アルとノエルは城への侵入が上手くいっているだろうか。上手く行けばレイ達と合流して何か情報を持ってここに来てくれるかもしれない。


 ギド達は、南門……即ち件の産業区へと潜入している。


 だが、中の様子が分からない以上彼らがどうなっているのかは把握できかねる。


 もしかすると、うまく抜け出してここに来てくれるかもしれないが。


 だが、最悪ここにいる6人だけでやらなければならない可能性だって高い。


 そして1番の懸念はやはり奴だ。


「ファーロール……出てくるかな」


「出てくるにしても……恐らく最終手段であろうな」


 ソウルの呟きに答えたのはアベルだ。


「奴は、ゼリルダ様にとってのトラウマだ。もしレイオスとファーロールに繋がりがある事が知れれば、それこそゼリルダ様はレイオスを見限るだろう」


 父と兄弟を殺したのはフィンの仲間であるファーロール。


 これがレイオスが描く嘘のストーリー。


 もしここでレイオスがファーロールと繋がっていることが知れれば、それこそゼリルダに掛けられた洗脳は解けることになる。そう易々とその手はとらないはず。


 つまり、ファーロールはレイオスにとって切り札であると同時にこれまで積み重ねてきたものを捨てる一手。諸刃の剣な訳だ。


 仮にファーロールが出てきたのなら、レイオスとファーロールの繋がりが露見し、産業区の解放を目指す理由が無くなる。


 だから産業区は捨ておいて動ける全戦力を持ってファーロールを潰せばいい。


 そのためにもなるべく仲間達がここに集まってくれるのが理想なのだが……。


「……2日後だな」


 元々、シュタール潜入から3日後に【龍の休み場(ドラゴン・レスト)】に集まる予定にしていたのだ。それが明日。


 だからそれまでソウル達は動きを待つべきだろう。


「……えぇ。私もそれがいいかと思います」


 ソウルの提案にシェリーも頷く。


 最悪ここにいる者だけでやり切らなければならないが……。それでもやるしかない。


「みんな……大丈夫かな」


 閉鎖された産業区へと向かったギド達。地下から城内部への侵入を目指すアルとノエル。


 何事もなく、無事に合流できればいいのだが……。


ーーーーーーー


 ゼリルダの部屋から戻った次の日の朝。シーナとオデットはゼリルダと話をしたことをレイ達に伝えた。


 女子会の中身ことはオデットが語ろうとしないのであくまでゼリルダとフィンを再び会わせることができないか、と言う話。


 もっとも、まだゼリルダは迷っている。その答えが出るまではオデット達も下手に行動は起こせないということ。


「そっか……でも、よくゼリルダとそこまで話ができたね」


 オデットとシーナの話を聞きながらレイが驚いた声を漏らす。


「まぁね。同じ立場の者として、共感できることがたくさんあっただけよ」


 そんなオデットの言葉を聞いて、シーナは苦笑いする。


 シーナはオデットやゼリルダ側の立場に立っていない。どちらかと言えば、アイリスという妹を持った姉の立場だ。


 正直、2人の語る妹談義はシーナの心を抉るものがあった。


「取り敢えず……これからどうする?」


 そう言葉を投げたのはヴェンだ。


 とりあえず、今ヴェン達はゼリルダに招待された客としてこの城に滞在している。


 ゼリルダの返事を待っている以上、ここから立ち去る訳にもいかない。かと言っていつまでもここに残り続けても何の進展もないだろう。


 ソウル達の安否も気になるところだし、いつまでここに残るべきか。


「……明日」


 みんなでどうすべきか考えていると、シーナがポツリとこぼした。



「明日まで、動きを待とう」



「え……」


 みんなの視線がシーナに集まる。


 シーナなりに、考えてみる。


 ソウルなら、どうするだろうと。


「ソウルと、約束した。【龍の休み場(ドラゴン・レスト)】に集合するって。何か始めるにしても、ソウルならきっとそこまで待つと思う」


 シュタール潜入から3日後に【龍の休み場(ドラゴン・レスト)】へ。みんなとそう約束していた。


 きっと、ソウル達もこれだけ大きく状況が動いていく中で無鉄砲に何かしようとはしないと思う。


 ソウルは予想外の行動を取るけれど、仲間のことを蔑ろにしたりする訳じゃない。だったら仲間が集まってから何か行動を開始すると見て間違いないと思う。


 そんなソウルなら……集合する予定の日までは仲間が集まるのを待つはず。そこから何か行動を始めるだろう。


 シーナ達が城にいることは、ソウルも分かっている。きっとこっちが容易にそっちに合流できないことも……分かってくれるはず。


「だから、明後日からソウル達が何かすると思って備えておこう。それでも動きがなかったらまた考えたらいいと思う」


「……そうね。ゼリルダももう少し考える時間が必要だろうし」


 シーナの意見を聞いて、オデットも頷く。


「意外とソウル兄のこと、分かってんじゃない。私もソウル兄ならそうすると思うわ」


 そんな自信満々のオデットの態度が、少し鼻についた。


「……なんか偉そう」


「妹の特権ですから」


「……ブラコン」


「うっさい、メンヘラ」


「「…………っ!」」


「分かった!分かったから!こんなことで喧嘩しないで!?」


 互いに睨み合うシーナとオデットを宥めながらレイは苦笑いする。


「じゃあ、とりあえず僕らは待ちだ。ゼリルダの返事を待つのと街に何か動きがないか……それでいいね?」


 うまく意見を取りまとめながらレイがみんなを見渡す。


 異論を唱えるものは誰もいなかった。


ーーーーーーー


 十分休息をとったギド達の元に、セオドアがやってきた。


「悪い情報だ」


「悪い情報?」


「あぁ」


 苦い顔をしたセオドアは何やら石板のような魔導機をギド達に見せる。


「何やら……壁の向こうが騒がしい。そのせいか、産業区の動きが良くない方向にいっている」


「よくない方向?」


「あぁ。前に話しただろ?人体実験の話。どうも今捕まっている奴らが次々と人体実験の方へと流されているらしい」


 セオドアの石板には何やら円グラフのようなものが絶え間なく動き、産業区の状況を示しているようだ。


「……壁の向こうで何か……か」


 ふと頭をよぎるのはソウルの顔。


 シュタールで何か不測の事態が起こったというのなら、彼が何かしらの形で関わっている可能性が高い。


「だから、すまないがなるべく早くに行動を起こさなければならなくなった」


「ほー。意外だな。もっとお前は冷たいやつかと思ったが」


「このシュタールはゼリルダ様の物。そしてこの街の人々もまた、ゼリルダ様の大切な国民だ」


 石板を目にも止まらぬ速さで叩くセオドア。どうやらあれで他の解放軍に何かしらの指示を飛ばしているようだ。


「それに……まぁ、僕だって彼らに助けられた。頭の足りない奴らだけど、気のいい奴らばかりなんだ。今更見て見ぬ振りしてられるか」


「……ふん」


 セオドアがこれだけ必死になってこの産業区を何とかしようとしているのはきっとゼリルダのためだけじゃないんだろう。


「そーだな」


 そんなセオドアを見て、3人だってそれを簡単に無下にはしたくないと感じた。


 この街にたどりついて、ギド達だって彼らに助けられた。


 国は違えど、大切なものを守るために……騎士として、立たねばならない。


「動くなら、明日の朝だ」


 だが、かと言って軽率に動くわけにもいかない。確実に作戦を成功させるために準備しなくてはならないこともある。


「明日?」


「何故、明日なんだ?やろうと思えば今日からでも動けるぞ」


 モニカとセオドアがギドに尋ねる。


 産業区の動きが怪しい以上、早く動くに越したことはない。こうしている間にも産業区で囚われた者たちは命を落としているかもしれないのだ。


「うちの大将との合流の日が今日なんだよ。どうせあいつのことだ、何かするにしてもそこまで待つだろ。だったら俺らが派手に動き出すのもそっからでいい」


 どれだけ急いでも、ソウル達と集合予定の宿に集まることは不可能だろう。だったら、今の状況を最大限利用してやればいい。


 産業区が閉鎖されているなどシュタールにいなかったソウル達には知り得なかった情報。約束の日にギド達が宿に集まらなければ、ソウルにギド達の不測の事態が伝わるはず。


 それに、壁の向こうの不穏な動き。ソウル達が何かやっているのならば仲間の合流を待つ可能性も十分にある。


「だから、壁をぶち壊すのは明日。一旦それまでは人体実験に回されそうな奴らを何とかしよーぜ。警備の目もそっちに向けられるかもしれねぇしな」


「……なるほど」


 ギドの提案を聞いて、セオドアは魔導機を叩き、あちらこちらへテレパシーか何かで指示を飛ばす。


「いいだろう。今日1日は何とか保たせてみせる」


「おっ、さすが【指揮官(コマンダー)】。心強いねぇ」


「ほざけ。その代わり……明日は死ぬほど働いてもらうぞ?」


「あぁ。そいつは任せとけ」


 ゴキゴキと首の骨を鳴らし、ギドは威圧に満ちた笑みを浮かべた。



「盗られたもんは盗り返してやるさ。全部ひっくるめてこの国……盗り返すぞ?」



 こうして、様々な意図が絡まるヴルガルド革命の日は決まる。


 ヴルガルド国の主権をゼリルダへ戻す為の戦い。各々が思慮を巡らせ、その始まりの日は奇しくも同じ日になった。


 だが、この戦いの火蓋は、地下を散策する2人の獣人から切られることになることを、彼らはまだ知らなかった。

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