指揮官
「お前が……【北斗七帝】だぁ?」
「な、何でそんな人がこんなところで解放軍なんてやってるんですか!?」
ギドとモニカがそんな声をあげる。
ちなみに、ライはソファに身を放り出していびきをかいて眠りこけている。難しい話は苦手だし、疲労の色も大きいのだろう。
「当然、ゼリルダ様の為だ」
2人の問にセオドアは一言そう答えた。
「正直、今のヴルガルド国は気に食わない。ゼリルダ様の威光を利用して悪行働くレイオスに……妙に気に入られてずっと隣にいるアイザック……クソがァ……ゼリルダ様の隣は僕のものなのに……」
若干の私怨が混じっているような気もするが、それに触れる元気もないのでセオドアの言葉を待つ。
「アイザックはいずれ毒でも盛るとして……問題はレイオスだ。あのクソメガネは本当にゼリルダ様のことを道具としてしか見ていない。だと言うのに、ゼリルダ様はそれに気が付かない。ゼリルダ様の過去に原因があるらしいが、僕はゼリルダ様の目を覚まさせてやりたいのさ。あなたが心から信頼できるのはこの僕、セオドアだけなのだとね」
「ほー?ちなみにゼリルダは何歳なんだ?」
「14歳だ」
「えぇ!?若くないですか!?」
「だからだろ」
ギドはようやく腑に落ちたようでため息をつきながら頷く。
「ようは、何も分かってないゼリルダを利用して国を乗っ取ったって訳か。そいつぁクズだな」
「そうだろう。だから僕はここで行われているレイオスの悪事を暴くためにここに乗り込んだ訳なんだが……」
「……逃げられなくなったと?」
「ひ、人聞きが悪いことを言うな!僕の力が少々直接的な戦闘向けじゃないだけだ!」
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべるギドにセオドアは頭を抱えながらそう反論した。
「だが、よーやく色々と繋がったぜ。何でおめぇが俺らを助けたのか……そんで俺らに何を求めてんのかがよ」
この産業区で行われている事態を明らかにするためにここに来たセオドア。そして、彼は今ここから逃げる術を失っている。
つまり……
「こっからの逃走……もしくは、あの産業区を隔てる関門を破壊して、産業区を解放。俺らをその戦力として加えたいって話だろ?」
「その通り。君は面白いな、ギド。どうやら君も日陰者の部類か?」
正直、ギド達としてもこの話は悪くない話だ。何せギド達もセオドア同様この産業区から逃げる術を持っていない。
ここで解放軍と協力し、あそこを突破できるのであればソウル達とも合流できるだろう。
「協力してもいーんだがよ、俺らからも1つ条件を提示させてくれや」
「条件?」
「え?言っちゃっていいんですか?」
「あぁ。多分セオドアにとっても悪い話じゃねぇはずだ」
ギドもまた、ここにやって来た経緯をセオドアに説明する。シンセレス国からやって来た使者であること。10の邪神。そしてシンセレス国とヴルガルド国の同盟の締結のことを。
ーーーーーーー
「なるほど。つまり協力する代わりに君らの求める同盟の締結に協力しろと?」
セオドアの視線が鋭くギドを見返す。その視線にはギドを信用に足るかどうか品定めしているような感じがした。
そんなセオドアにギドは肩をすくめてみせる。
「そこまでしろとは言わねーよ。あくまで俺らの大将とゼリルダを会わせてやってほしいってだけだ」
あくまで多くは求めない。これも盗賊の流儀。
必要最低限の要求を通せ。お互いに賭けられるものは限られてる。
セオドアは産業区解放のためにギド達に拠点の提供。
ギドは同盟締結のために産業区解放の助力。
2つを天秤にかけて、セオドアは何と言うか……。
「……本当に、君らはシンセレスからの使徒か?それにしては随分とまぁ野蛮なように見えるが」
「野蛮だぜ?何せイーリスト国を捨ててまであのバカについて来たんだからよ」
会話を聞きながらモニカはどうしたものかと2人を見比べる。こう言った交渉ごとは意外とギドの方が得意だったりする。
下手に口を挟むわけにもいかないので成り行きに身を任せるしかない。
「証拠は?君らのその状況を説明できるものはないのか?」
「証明になるかは知らんが、ほれ。イーリスト国の貴族から奪ったお宝だ」
「そんなもんが証拠になるわけないでしょう!?」
前言撤回。
ギドは何をやっているのか。これではギドがとんでもない奴だと言うことにしかならない。
「ふ、ははは。イーリスト国で騎士をやってたくせに、貴族から金品を盗んだって言うのか!?バカな奴だ」
セオドアも呆れたように笑う始末。これでは交渉が上手くいかないのでは……?とモニカの頭が痛くなる。
「まーな。でも俺はこー言う奴だ」
そんな状況でも悪どい笑みを浮かべながら、ギドは告げる。
「俺は、国なんざ信じねぇ。俺が信用するのは個人だけだ。だから俺はソウルのバカを信じてる。あいつなら……まぁゼリルダに会えさえすりゃ何とかするだろ」
「……へぇ」
ギドの言葉を聞いて、セオドアはソファに深く座り込む。
信じるのは国ではなく、一個人。
セオドアも同じだ。ヴルガルド国なんてものに敬意を払ったことなど一度もない。あくまで、セオドアが信じているのはゼリルダ様のみ。
力が全てのこの国で、僕の力を初めて認めてくれた彼女。
暗い暗い路地裏。そこがセオドアとゼリルダの出会いの場だった。
『気に入った!お前は凄いやつだな!』
1人では何もできない僕の力を見て、他の奴らは皆僕をバカにした。だが、彼女だけは違った。
『お前の力は凄い!どうだ!私の部下にならないか!?』
今でも忘れない。あの時の太陽よりも眩しい笑顔と差し出された暖かい手。あの瞬間から僕の忠誠はゼリルダ様だけのもの。
日陰で腐っていくしか無かったセオドアの価値を、認めてくれた彼女のためになら、僕はなんだってしよう。
そう、心に決めている。
「ま、ぶっちゃけそこで交渉が崩れたらそんときゃそんときだ。同盟を決めるのも全部ゼリルダだからな。そこまでお前にどうこうしろとは言わねぇ……それでどうだ?」
「…………1つだけ、聞かせてもらおう」
ギドの言葉に、セオドアは1つだけ確認しなければならないことがあった。
「何故……野蛮な獣のような君がそのソウルとかいう奴を信じてる?君のような奴がそう簡単に人のことを信じられるなんて到底思えないんだが」
ギドは盗賊の鏡のような男だ。盗賊なんて互いを道具、利用するものとしてしか見ていないはず。
それなのに、彼はどうしてここまでそのソウルとかいう奴のことを信頼しているのだろう。
「俺はあいつに返しても返しきれねぇ恩があるんだよ」
「恩?」
「俺と……俺の兄貴を解放するために、とある魔獣を潰してくれた。自分の目的のためにあいつを利用したってのに、あいつはそれを咎めねぇどころか笑って許してくれた」
そうだ。俺には返しても返しきれねぇ恩がある。それだけじゃねぇ。あいつは俺にとって仲間で大切な友人だ。
そんなあいつが今、世界の命運をかけて戦っている。だったら俺だって一緒になって足掻いてやる。
ギドらしくはないかもしれないが、それでもこれはギドが自分の意志で選んだ道。兄の背中を追うだけではなく、自分の足で立って歩く導。
「盗られたもんは盗り返す。んでもって、助けてもらった恩だって返してやる。俺なりの流儀だよ」
「……ふ、ははは!そういう事か」
ギドの言葉を聞いてセオドアは笑う。
このギドという人間がよく分かった気がする。そして同時にそんなギドが信用するソウルという男がそれ相応に信用にたる人物だと言うことも。
だったら、どこかのクソメガネと違ってきっと悪いようにはならないだろう。ならばゼリルダ様にとっても悪い話ではないはず。
「いいだろう、乗ってやる。その代わり僕は一切口を出さないしゼリルダ様が断ったならその時は僕だってお前達を敵とみなす。それでいいな?」
「とーぜん。そんぐらいじゃなきゃ面白くねーな」
セオドアの言葉にギドもまた凶悪な笑みで返す。
「よし、野郎ども!今からこいつらは味方だ!どっか適当な部屋を用意してもてなしてやれ!」
交渉成立。
こうしてギド達とセオドア率いる解放軍の協力体制が組まれることになった。




