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解放軍

 扉をくぐると、中は暗い洞窟のようになっていた。


 切れかけた魔石灯がチカチカと点滅して今にも暗闇になってしまいそうだ。


「何だ?ここは」


「ここは、かつての大戦時代につくられたと言われてる抜け道だ。ところどころ修復したり、増築したりしてるけどね」


 セオドアは振り返りもせずに歩きながら答える。


「ほー。んじゃあそんな大それた抜け道を使ってお前ら一体何やってんだ?」


「おおよそ君の予想通りだと思うけど……まぁそれはいいか」


 すると、通路の向こうから数名の屈強な男達がドタドタとこちら目掛けて走ってくる。


 彼らの腕には何やら黒い岩のような手枷が嵌められているのが見えた。


「ボス!入り口を閉めてきやした!」


「次は何をしやしょう!?」


「そうだなぁ……取り敢えず食いもんと飲みもんをくれ。味はいいや。分からなさそうだし」


「失礼なやつですね」


 隣の男2人と同じような扱いをされることに一定の不服があるモニカだった。


ーーーーーーー


 彼らの拠点の一室へと通されたギド達は取り敢えず運ばれてきたパンだの萎びた野菜だのの質素な食事をとった。


 ソウルの作った食事に口が慣れていたモニカにとっては正直苦痛なものがあったが、バカ2人はお預けされていた獣のように食らいついていた。


「あーあー、いい食いっぷりだなぁ」


「お、俺らの食料……」


 物悲しそうに呟く男達にモニカの罪悪感が募る。だが、丸一日何も食べていなかったのだから不味かろうが気まずかろうが、モニカも食べることにした。


「んじゃ、早速。たらふく飯も食ってもらったことだし……本題に入ろうか」


「んだよ。休ませてもらってからでもいーだろ?」


「君が良くても他の2人……特にそこのチビ……お嬢ちゃんが怖がるだろ?」


「おい、今私のことをチビと言ったか?」


 モニカの不服を聞き流しつつセオドアは語る。


「改めて。ようこそ我らが産業区解放軍【ディア・ゼリルダ】へ」


「【ディア・ゼリルダ(親愛なるゼリルダ)】?」


「そう!この僕の忠誠はヴルガルド国女王、ゼリルダ様に捧げた!僕の存在意義はゼリルダ様の幸福と!その輝かしい未来のためにあるのさ!!」


 セオドアは勢いよく立ち上がったかと思うと、気持ち悪く体をクネクネと捩らせてそんなことを叫ぶ。


「セオドアの悪い癖が始まったか……」


 遠くの方で諦めにも似た顔でため息をつく解放軍の男。


 どうやら彼はこういう人間らしい。


「気持ちわりぃ奴だな」


「何とでも言え。僕の生き方を変えるつもりがなければ何か口出しされるいわれもない!」


 ライの辛辣な言葉も彼には効いていないらしい。


「…………んで?お前は一体どこの何もんで?なーんでそのゼリルダ様万歳なおめーがこんな所で解放軍なんてもんを仕切ってやがんだ?」


 ギドの問い。


 セオドアはどうやらゼリルダに忠誠を誓っているようだが、ここはシュタールの街。


 この街もゼリルダが管理するもののはず。それが何故この街の解放軍とかいう抵抗戦力になっているのだろうか。


「簡単な話。ここで行われていることをゼリルダ様は知らない。知れば必ず悲しみ……いや、怒り狂われること間違いないだろう」


「ここで行われてること?何ですかそれは?」


「ここの産業区は現在、レイオスとか言う【北斗七帝】の1人が支配している。あぁ、ゼリルダ様の隣に立つなんぞあんな干からびたじじいのくせに生意気だ……!」


 レイオスの呪詛を撒き散らしながら、セオドアは再びソファにその身を投げる。


「この街では、昼夜問わずに黒断石を加工し魔封石を作りそれを武器として加工したりしている」


 魔封石。


 魔法の力を奪い、無力化する魔石の一種。確かにその原料となる黒断石はギド達が抜け出してきた迷いの石窟にも腐るほどあった。


「んじゃあ、その原料の黒断石はどっから持ち込んでんだよ」


「シュタールの地下だ。この街は巨大な黒断石の上に建国されているからな。ここの地下を掘れば掘るほど採掘は可能だ」


 それならば、わざわざ街の外から黒断石を持ち込まなくても問題はない。ここで採掘、加工まで完結してしまえると言うこと。


「でも……何でそんなことを?」


 そんなことをして、一体の目的があると言うのだろう。


「そこは僕達にも分からん。レイオスが何のために魔封石を作り出し、その魔封石をどうしているのかもな」


「じゃあ、何でおめえらは解放軍なんてことをやってんだ?」


「魔封石などどうでもいい。だが問題はそのやり方だ」


 そう言ってセオドアは近くの解放軍の兵士を呼ぶ。


 呼ばれた兵の手首には重々しい黒い岩でできた手錠がはめられている。


「産業区は今や牢獄だ。レイオスの息がかかった連中が街に住んでる男達を言われのない罪で捕らえてここに放り込む。後は魔封石の手錠で魔法という反撃の芽を潰して死ぬまで不眠不休で働かせるって訳だ」


 見ると、男達の体には拷問の後のような傷がある。あぁして痛めつけられて従わされてきたのだろう。


「それに……何やら人体実験のようなものも行われているとか」


「人体実験?何のだ」


「そこまでは分からない」


 セオドアは肩をすくめてそう告げる。


 つまり、今の産業区では人権を無視した所業が好き放題行われていると言うこと。


 過剰に働かせ、弱って使い物にならなくなった者は人体実験で文字通り死ぬまでこき使われる。まさに非人道的な行為だ。


「……でも。それをゼリルダが指示してる可能性は」


「ない!絶対にない!!」


 モニカが疑問を口にした瞬間。セオドアが再び立ちあがる。


「彼女は……希望だ。泥の底辺にいたこの僕を救いあげてくれた女神だ。ここにいる者たちも皆、同じ気持ちでここにいる」


「そうは言ってもなぁ……女王だろ?それをゼリルダが把握して無いわけが……」


「いいや。それはない。何せ一度産業区はゼリルダ様によって解放されている」


 どうやらセオドアの話では以前にも同じような状況に陥っていたようだが、ゼリルダがそれに気づき阻止したのだという。


「最もその後はレイオスがあの内壁に関所を作り、中に入れないようにしたせいでゼリルダ様は再びレイオスが悪事を働いていることには気がついていないがな」


「あのなぁ……女王のくせに、国はおろか街で起こってる事態にも気が付かねぇなんて胡散くせぇじゃねぇか」


「ちょ、ちょっと、ギド!」


「だーってろモニカ。大事な事だぜ?」


 モニカの異議を切り捨てながらギドは続ける。


 だが、正直モニカとしても同じ疑問を持っていたのでそれ以上は何も言えなかった。



「本当は、レイオスとゼリルダが繋がってんじゃねぇのか?飴と鞭を上手い事与えて国民をいいようにしてるとかな。それに例えそうじゃなかったとしても、正直女王としてお粗末過ぎんだろ」



「……仕方ない部分もある」


 ギドの疑問を、セオドアは否定しなかった。



「何せ……ゼリルダ様が王位を継いだのは10歳の時だ。レイオスは右も左も分からぬゼリルダ様を担ぎあげて王にした。黒き龍鱗を持っていたしその前王は真っ二つに引き裂かれていたからな。誰も異を唱える者はいなかったった。当然レイオスの都合のいい駒として動くように教育され、洗脳されて彼女はそこにいる」



 幼いゼリルダが突然王になるなど、できるはずがない。そして、不自然な前王の死。確実にレイオスが何か噛んでいる。


「だが、僕は……いや、この国民も知っている。ゼリルダ様はまるで太陽のような方だと。この国に暗き影が落ちるその時にはその身を捧げてもなおこの国を……そして民を守ってくれる優しい女王なのだと」


「おいおい、イーリスト国に散々小競り合いを仕掛けてきてるくせに……よく言うぜ」


「正義なんて立場が変われば変わる。それだけの事だろ?」


 国を守る英雄も、対する相手からすれば死神のようなもの。


 イーリスト国からすれば厄介な女王でも、ヴルガルド国から見た時には英雄なのだろう。


「でも、あなたは何故そこまでこの国の……ましてやゼリルダのことに詳しいんです?」


 まるで、ゼリルダのことを近くで見てきたような話をするセオドアにモニカは尋ねる。


「そりゃそうだ。僕は【北斗七帝】が一角、【天機(てんき)】こと【指揮官(コマンダー)のセオドア】だからね」

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