兄貴として1
フィンの過去。ゼリルダとの確執。
いつも飄々としているフィンからは、全く想像もできないほど凄惨な過去にソウル達は言葉を発せられなかった。
「まア……そんなところダ。オイラの昔話は…ナ」
普段、感情を表に出さないフィンが、この時ばかりは感情をこらえきれずに怒り、苦悩、後悔、懺悔。さまざまな感情が混じった表情をしていた。
「レイオス……!」
ソウルは血がにじむほどに固く拳を握り、レイオスへの怒りをあらわにする。
シェリーの故郷を滅ぼしただけでなく、フィンの家族まで……。一体どれほど死と苦しみをばら撒けば気が済むのだあの男は。
「だかラ、迷いの石窟に魔獣が放たれたのも恐らくオイラのせいダ。オイラをシュタールに近づけさせない為のレイオスの策。だからオイラはオイラがゼリルダの兄だということを隠して生きてきた。当然、黒い鱗を持つこともな」
フィンの素性がバレてしまえば、双子の黒龍と同じ凄惨な歴史が再現されてしまうかもしれない。
だからこそ、フィンは母の性を名乗って【アンダー・リグル】の仲間と生きてきた。
「だが、オイラがシュタールに戻れバきっとゼリルダはオイラの元に帰っテ来てくれル。そう思ってタ」
いずれ、全てを取り返す日が来たらゼリルダを連れて山に帰る。そのつもりだった。
きっと真実を告げればゼリルダは帰ってきてくれる。そう信じていた。
「だガ……実際は違っタ。もうゼリルダは完全にレイオスに懐柔されてタ。オイラが付け入る隙もないほどニ。だかラ、もうオイラの負けダ」
ゼリルダはフィンに向けて拳を放ち、殴り倒した。
彼女の中で、フィンはもう既にレイオスの思い描いた通りのストーリーを辿っているのだろう。
きっと、ゼリルダにとって今のフィンは父を殺した諸悪の根源。もう、今更フィンが何をしたところでその事実を捻じ曲げることはできない。
4年。
ゼリルダを無責任に放り出してしまった年月が2人の間に超えられぬ確執を与えていた。
「すまン。黙ってて悪かっタ。ソウル達と一緒にいればゼリルダと再会出来るかもしれんと思っタ。せめて……ソウル達の願いを叶えてやれたらと思ったガ……今のオイラは無力だ」
全ては決した。
もうフィンの言葉はゼリルダには届かない。
ソウルに大見栄切って見せたのに、結果はこのザマだ。
ソウルの願う交渉は完全に決裂。きっともうシンセレス国との同盟は叶わないだろう。
「せめて……お前達がシンセレスに帰れるように手は尽くす……だかラ……」
「フィン」
これまで、ずっと黙っていたソウルがそっと口を開く。
俯く小さな友人に、ソウルは言葉をぶつける。
言いたいことは山ほどある。だが、そんなものはどうでもよく思えた。
「この後……お前はどうする気だよ」
「……さぁナ。取り敢えずソウル達を逃がした後で考えるサ」
イッヒッヒ、と力なく笑うフィンを見てソウルはため息をつく。
「ほんっとに!お前は肝心な時に肝心なことを言わねぇな……!」
「そんなに褒めるなヨ〜」
「褒めてねぇわ!怒ってんだよ!」
フィンの頭を叩きながらソウルはフィンの顔を覗き込む。
顔は笑っているが、目は笑っていないし口角も上がってない。無理をしているのは明白だった。
この態度も、フィンなりの痩せ我慢のようなものか。
「お前、本当にそれでいいのかよ」




