フィンの過去21
フィンはボロボロの翼でとにかくシュタール城から離れる。
フラフラと真っ直ぐに飛ぶこともままならない。
そんな調子だったせいで、シュタールの方角からちらほらと小さな豆粒のような影がどんどんこちらへと迫ってくる。
追手の騎龍兵だろう。このままでは追いつかれてしまう。
どこか、身を隠せる場所はないかと目を凝らすと岩肌に亀裂が入っているのが見えた。
夜の闇よりも暗い洞。あそこなら身を隠せるかもしれない。
フィンは墜落するようにその穴へと飛び降り、そしてそのまま吸い込まれるように洞の中を転がり落ちていく。
暗く冷たい地の底をまるでボールのように転がっていき、やがて氷のように冷たい地下水の中へフィンは落ちる。
激しい水の流れは無情にも傷ついたフィンの身体を押し流し、光の届かぬ地の底へと引き摺り込んでいく。
フィンは朦朧とする意識の中、冷たい水の流れに身を任せる。まずいか……このまま地の底から戻ってこれなくやるかもしれない。
だが、それでも傷ついたフィンの身体は言うことを聞いてれない。このまま深い深い洞の底へと飲み込まれていくだけだった。
ーーーーーーー
どれほどの時が流れたのだろう。
気がつくと、フィンの身体は地底湖のほとりに流れ着いていた。
そして……。
「こ……れは……?」
そこでフィンは出会った。
地の底に咲く、クリスタルの花。地下を蠢くもの達にとっての希望の光。
息を呑むほど美しいそれに目を奪われた。
「あら」
そして、フィンの背後から1つの声が投げかけられる。
「また、新たな来訪者ですね」
「お、お前は……?」
慌てて振り返ると、そこに立っていたのは人ではなかった。まるで、職人が磨き上げたような人の形をしたクリスタル。
「初めまして。私はニケと言います。あなたは?」
これがフィンとニケの出会い。
フィンがアンダー・リグルとなった日だった。




