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フィンの過去19

 フィンの顎にファーロールの拳が突き刺さる。


 ゴキリ、と顎の骨が砕ける音がフィンの耳にまで聞こえた。


 フィンの身体は吹き飛ばされ、王の間の天井まで叩きつけられる。そして、ファーロールはそのまま跳躍し、フィンを追撃。



「ここまでか!楽しめたぞ!小僧!!」



 ズシン……!


「ゴ……ハァ!?」


 ファーロールは再びフィンの身体を殴りつけ、地面へと叩き落とす。王の間に巨大なクレーターを生み出しながらフィンは血反吐を吐いた。


 地面に叩きつけられたフィンの骨が砕ける。やられた。


「グ……ガハ……」


 身体を起こすことも叶わず、床にその身を投げ出すことしかできない。


「その歳で……よくぞここまで戦えたものだ」


 ズン、とフィンの傍にファーロールが落下。そのままフィンの小さな身体を持ち上げ、その顔を覗き込む。


「ギ……ギギギ……!」



 まだ、フィンの目は死んでいない。ここまでされても屈さぬ意志を見て、ファーロールの心は踊る。


 1000年の時を超えて……まさかこのような出会いがあろうとは。長生きとはしてみるものだ。


「まだ……楽しめそうだ。お前には王の器がある。間違いなくこの国最強の戦士だ」


 すると、ファーロールはフィンの身体をアルファディウスの骸の上に投げ捨てる。


「貴様は……生かしてやろう。いずれ、また我にかかってくるが良い。その時改めてちゃんと貴様を殺してやる」


 ふざ……けるなぁ!


 叫びたかったが、フィンの身体は声を発することができない。


 もう。流石のフィンも限界だった。


「さて……どうする?ハインリーは死んだが……」


「ふっふっふ……」


 その時。ファーロールの背後。ゼリルダのいる玉座の方に1人の男の影が現れた。


「ギギギ……!?」


 まだ……いたのか!?まずい、このままではゼリルダが殺される、とそう思った。


「ファーロール。貴様は今すぐここから姿を消せ」


「何ぃ……?」


 丸メガネをかけた紫のローブに身を包んだ男。


 ぬるりと体に取り憑いてくるような不気味な声で語るその男が玉座に眠るゼリルダの身体を抱き上げる。


 触るな……!


 そう叫びたかったが、フィンは声を発することができない。


 あの口ぶり……。恐らく、あの男が全ての黒幕。今回の事態を招いた張本人だろう。


 そんな男を見て、ファーロールは呆れたような声をあげる。


「ふん。貴様のことだ。また下らぬ策を弄しているのだろう」


「よく分かっているじゃないか。そのためにお前がここにいては少々問題がある」


「ふん……よかろう。ただし、あの小僧を殺すな」


「何?」


 予想していなかったのだろう。ファーロールの言葉に片眼鏡の男は眉間に皺を寄せた。


「あの小僧はもっと強くなる。真の王たる器を持つ男だ。トレイスと同等……いや、それ以上かもしれぬ。我は奴と再び殺し合いたい。このような不完全燃焼で終わるのは本意では無い」


「トレイスと同じだと?そんな小僧、尚更ここで殺しておかねば……」


「いいか?我が求めるのは血の沸き立つ戦いのみ。それを邪魔してみろ、我が貴様を殺すぞ」


 そう言い残して、ファーロールはシュルルル、とその身体を木の塊のような姿へと変え、窓の外へと飛んでいってしまった。


「クソが……相も変わらず理解の出来んやつだ」


 そう呟いたかと思うと片眼鏡の男が抱き上げたゼリルダに目を落とす。


「ギギギ……」


 何をするつもりだ!?


「ふふふ……目をお覚ましください。ゼリルダ様」


 そして、丸眼鏡の男がゼリルダにそっと声をかける。


「う、うにゅ……?」


 すると、ゼリルダは硬いその瞼を開けて辺りを見渡した。


「こ、ここは……!?父上!みんな!?どうなったのだ!?」


「目を覚ましましたか、ゼリルダ様」


「な、何だ!?誰だお前は!?父上は!?」


「良いですか?落ち着いてお聞きなさい」


 錯乱したゼリルダが叫ぶ。それに対して丸眼鏡の男が……レイオスが諭すような言い方で告げる。



「あなたの兄弟……そして、父は……死にました」



「…………え?」


 レイオスの言葉を聞いて、ゼリルダの身体が固まる。同時に思い出したのだろう。


 先程まで行われていた惨劇と、恐怖の出来事を。


「そ……んな……父上……みんな……!私は……私は……!」


 レイオスの腕の中でガタガタと身体を震わせるゼリルダ。見るも痛々しいゼリルダの姿を見て、フィンは動かない身体を鞭打つ。


 ふざけるなよ……!?貴様が……貴様がやったのだろうが!!


 怒りの感情が、フィンの動かぬ身体を動かす。身体を動かすたびに口から血が溢れてくるが、そんなものも気にはならなかった。


 今目の前で行われていることに比べれば、フィンの身体の1つや2つ、どうと言うことはない。


 あんな侮辱を許せるものか。どの口でゼリルダに語っている!?


 だが、それでもレイオスは止まらない。レイオスの悪魔の謀略は、ここからが本領だった。



「殺したのは彼……そこにいる、あなたの兄上フィンケルシュタインです」



「ガァ!?」


 一瞬、フィンはレイオスが何を言っているのか理解できなかった。


 こいつは、何を言っている?



「見なさい。そこに横たわる父の亡骸と……その血で染められしあなたの兄の姿を!!」



 確かに、今フィンは冷たくなった父の屍の上にいる。そして事実、父の体を殺したのはフィンだ。


 だが、もう既に父の身体は奪われ心は死んでいた。


 そして父を……兄弟を殺したのは貴様らだろう!?ここまでしておいて、よくもそんなホラを吹けたな貴様!!


「う、嘘だ……!?兄者がそんなことをするはずが無い!」


 丸眼鏡の男の腕の中でゼリルダも異議を唱える。当然だ。そんな嘘がゼリルダに通じるものか!


「兄者は、誰よりも優しくて!強くて!かっこいい!最高の兄者だ!そんな兄者が何故家族を殺す!?嘘つきはお前だ!!」


「信じ難いのは分かります。しかし、それはこの国の王位と関係があるのですよ」


 それでもレイオスは止まらない。


 まるで、ゼリルダの心の隙間にするりと入り込むように。彼女の傷ついた心の中を侵食するようにレイオスの言葉がゼリルダの頭を支配する。


「王位……?王様のことか!?」


「そう。黒い鱗を持つ龍は……この国の王になる。しかし今ここには2人の黒龍がいる。そして、王として選ばれたのはあなたでした。ゼリルダ様」


 父の言葉を思い出す。女王になるのは私だと、確かに父は言った。


「しかし、フィンケルシュタインは王になりたかった。きっと貴方様のお父上は見抜いておられたのでしょう、あなたの兄上の悪の心に。故に彼を王にすることを許さなかった。だから、フィンケルシュタインは反旗を翻したのです」


 ファンからすれば、レイオスはまるで道化だった。


 嘘八百で並べられた空想の物語を語る、ふざけた詩人。


「ギギ……!」


 だが、そんなふざけた物語を今のフィンは止められない。止める言葉も力も無いのだ。


 並べられる嘘の物語がゼリルダに吹き込まれるのを見ることしかできない。


「あなたを襲った木の魔獣……あれを寄越したのはフィンケルシュタインです。自身が王になることを邪魔するあなたの父上と、そしてあなたも含めた他の兄妹全てを殺し、この国の王になることが彼の目的だ!!」


「ば、バカなことを言うな!兄者がそんな……みんなを殺すようなことするはずが……」


「ならば、直接フィンケルシュタインに聞いてみなさい」


「ガ……!」


 あの男……フィンの顎が砕けて言葉を話せないことをいい事にやりたい放題だ。


「う、嘘だよな……兄者?兄者が……兄者が、そんなことをするはずがないよな……?」


 震えた声で、ゼリルダはフィンに問いかける。


 だが、フィンはそれに答えない。答えたくても答えることができない。


「な、何とか言ってくれ!『違う』って!『そんなことしない』って!『家族がみんな大好きだ』って!兄者!」


「ガ…グガァ!ギィアア!!」


 違う!オイラじゃない!


 オイラは王なんぞになるつもりはない!こんな国よりも、家族が……お前が大切なんだ!!


 必死の思いで言葉を絞り出すが、それは言葉にならない。


 届かぬ想いと言葉。すれ違う想いと想い。


「グ……ギィィィィイ!!!」


 このままでは……ダメだ!全てあの男のにいいようにされてしまう!


 フィンは動かぬ体に鞭打って翼を広げ、一直線にゼリルダの元へと飛ぶ。


 これでは伝えられない。ならばせめて!ゼリルダを連れてトンズラを!そうして傷が癒えたときに真実をゼリルダに伝える!


 それしか……それしか!方法は……。


 フィンはレイオスの腕の中にいるゼリルダに手を伸ばす。彼女を連れ出し、逃げるため。


 来てくれゼリルダ!オイラを信じて……。


「ひっ……」


「……っ!」


 だが、フィンに向けられたのは畏怖の表情。拒絶だった。

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