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フィンの過去18

 そいつは、言葉を失っていた。


 何だ……あの小さな竜人は?


 まさか……まだいたのか?黒い鱗を持つ龍が。しかも、あの身体でこれほどの強さを持つ奴が?


 これでは、男が弄した策が全て水の泡だった。


 ハインリーがアルファディウスの身体を奪い、黒龍の王としてこの国に君臨。そうすれば何人たりともこの国の玉座を奪えやしない。


 つまり、協力関係にあった我の思いのままのはずだった。


 それが……まさか、あんな小僧に全て覆されるだなんて。我の計画が……全て破綻するだなんて……!


「くそ……!」


 このままでは、ヴルガルド国はあのガキの手に堕ちる。どうすれば……何か、何か策は……。


 王の間を見渡した時。ふと、小さなゼリルダの身体に目が止まる。


「……待てよ」


 男の頭に1つの案がよぎる。悪魔の計略。この国を支配する、もう1つの策を。


ーーーーーーー


 フィンはゼリルダの元へと歩み寄る。


 ゼリルダは……ゼリルダだけは、無事だった。


 せめて、彼女だけでも安全な場所へ。欲を言えば、他の兄弟と父の亡骸も連れて帰ってやりたいところだが、悠長もしていられないだろう。


 最優先はゼリルダの安全を確保すること……。



「ファハハハハ!!!まだ貴様のような奴が残っていようとはな!!」



「………………っ!」


 その時。フィンの背後に巨大な影が迫る。


 咄嗟にゼリルダを抱き抱え、その身を翻す。


 フィンの頭の上に巨大な腕が振り抜かれ、その三角帽子が吹き飛ばされた。


「これも躱すか!いい……実にいい!!」


「邪魔するな!オイラはお前なんぞと遊んでやるつもりはない!」


「ファハハ!貴様にその気がないのであれば!その気にさせるまで!!」


 そこに現れたのは巨大な木の塊のような化け物だった。


 3本の幹が絡まったような姿をしたそいつの大きな腕の先には龍をも刻んでしまえそうな程大きな大剣。


 父の体に刻まれた刀傷が脳裏によぎる。


 まさか……こいつがとーちゃんを!?


「さぁ見せてみろ!貴様の力を!!真の黒龍の力を我に示せ!!楽しませて見せろ!!」


 そう叫びながら木の化け物はその3本の腕を振り回し、嵐のようにフィンに襲いかかってくる。


「く……!?」


 とんでもなく速い。


 しかもゼリルダを抱えながらの戦闘だ。



「その娘を放さねば!我の攻撃をいなせるものか!!」



 ファーロールの大剣がフィンを捉える。


「【龍乃神拳ドラゴン・ディア・ブレイク】!」


 迫る大剣に対してフィンは自身の拳をぶつける。大剣がバキリと音を立てて砕けた。


「ぬるいわぁ!!」


 だが、ファーロールは止まらない。砕けた剣を手放し、拳を叩き込んでくる。


 ゼリルダに当たる……!?


 咄嗟に身体を捻り、フィンはゼリルダを庇った。


 ゴキっ!!


「ごっ!?」


 ファーロールの拳はフィンの体に炸裂。


 そのままフィンはゼリルダを離さず抱き止めて床を転がった。


「ぐがっ!?」


 殴られた黒い鱗が砕けた。


 鱗の剥がれた部分から流血しながらフィンは息を呑む。


 まさか……大剣だけではなく、あの拳ですらフィンの鱗を砕く威力があるのか……!?


「ファハハハハ!!!さぁ!どうする竜王の息子よ!!このまま無様に死を選ぶか!?」


「………トンズラもできんか」


 ダメだ。やはりあいつを何とかしないと逃げられるものも逃げられん。


 ヴルガルドの兵達はあらかた片付けた。少しの間ならゼリルダをここに寝かせても問題はないだろう。


 ゼリルダを側にあった王座にそっと寝かせる。


 まずは、あいつを何とかする。そして、ゼリルダを連れてここからトンズラ。それしかない。


「なら……お前をぶっ飛ばしてここからトンズラさせてもらうぞ」


「ふ……できるものなら」


 完全に臨戦体勢となったフィンが再び自身の体にマナを溜める。


 それを見たファーロールの血が騒いだ。


「やってみせるがよい!!」


 フィンは、ファーロールの挑発に電光石火の加速で答えた。


 真っ直ぐに、ファーロールへと飛び込む。


 そして超高速の撃ち合いが始まる。


 ズドドドドドドドドドドドッ!!!


 太い腕から放たれる巨大な剣撃と、大剣を捨てた拳による打撃。フィンはそれに対して2本の小さな腕で対抗。拳を覆う黒の龍鱗でファーロールの攻撃を受け止めるのではなく受け流していく。


 重い……!しかも速い……!


 一撃一撃が、必殺の拳。


 この攻撃を1つでも防ぎ損なった瞬間。フィンは死ぬ。


「どうしたどうしたぁ!?動きが鈍くなっているぞぉ!?」


「ふ…ざけろぉ!?」


 流石のフィンも疲労の色が隠せなくなってきていた。


 無理もない。何せフィンは棲家からここまで最大加速で駆けつけた。それに加えて父の身体を奪いしハインリーも倒し、ファーロールの一撃を受けている。


 だというのに、ファーロールは疲れるどころか更に動きのキレが増していく。


 だが、フィンもこんなところで負けられない。


 ゼリルダを守る。ただそれだけのために。


 こんな戦闘狂の遊びになど付き合っていられるか!まずはこのやばい剣から何とかしなくては……!


「【龍電】に【黒龍】と【拳】のマナぁ!【龍乃神拳ドラゴン・ディア・ブレイク】!!」


 フィンの拳に稲妻が灯る。


 ゴッ!!!


 そして、それをファーロールの剣へと叩き込むと、大剣を破壊した。


「ほぅ……」


 剣を振り抜いたファーロールの隙。フィンはその隙間へと自身の身体をねじ込む。


 戦いを引き伸ばしても不利になるだけ。なら、短期決戦だ。


 これで……決める!今練り上げられるだけのマナを、全て込めて。込めるマナは【龍電】に【黒龍】と【衝撃】のマナ。


「【龍頭衝撃波(ドラゴン・インパクト)】!!!」


 フィンの必殺技。


 フィンが今持てる全ての力を乗せた、最強の一撃。


 父の体を奪いし、ハインリーをも沈めて見せた、竜王の稲妻。


 確実に当たる。


 フィンは手の平に生み出したビー玉サイズまで凝縮させた力を全てファーロールの身体へと叩き込んだ。


 ファーロールの体に流し込まれる龍の稲妻。それがファーロールの身体を泳ぎ、全身に走る。


 そして内側からファーロールを破壊し、その身を食い破る。



 ミシィッ



 そのはずだった。


「……その程度か」


「なっ……!?」


 フィンの必殺の一撃は、ファーロールの身体を砕ききれない。その強靭な身体。そのたった1つの武器で、真っ向から無力化される。


「良い一撃だが……我を殺すにはまだ足りぬようだな」


 最強の一撃を叩き込んだフィン。だが、それは意味をなさなかった。そして最強を叩き込んだフィンの身体は無防備。


 ファーロールの反撃を許す、最高の隙となってしまった。


「ぬぅん!!」


 超至近距離。大剣では威力を乗せきれないので拳。


 ファーロールはフィンに大木のような拳でアッパーを叩き込んだ。

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