フィンの過去17
この一撃は……!?
そんじょそこらの攻撃では無い。あまりの力にアルファディウスの腕が砕け、内側から破壊される。
「手加減など……せんからな」
普段は穏やかなフィンの心は形容できないほどに怒り狂っていた。
ゼリルダ以外の兄弟たちは、もう既に息をしていなかった。
ふざけるな……。誰が……誰が一体こんなことを?
答えは明白だろう。目の前のお前だ。
あの太陽よりも明るい笑顔で住処を出ていった彼らの笑顔が……あれが!生きた彼らの最後の姿だったなんて……!
「全員……生きて帰れると思うなよ……!!」
「怯むなぁ!こんなガキ1人……障害になどならん!やれぇ!!」
ハインリーは砕けた腕を抑えながらも部下たちに指示を送る。
「おおおおおおおお!!!」
フィンの姿を見て、ヴルガルド兵達は油断した。
何だこのガキは……と。こんなガキが来たところで何も変わらない。
ファーロールによって龍の一族が蹂躙されている姿を見て、彼らは錯覚した。人が龍を超えたのだと。
こんな小さな竜人など、恐るるに足らず。革命は成功した。我らならこんな小さな竜人など簡単に……。
「【龍の掌】」
ザシュッ!!
ヴルガルド兵がフィンに飛びかかるや否や、フィンはその両手に龍の手を召喚。数十人のヴルガルド兵を一瞬で肉塊にしてみせた。
「終わりか……?」
フィンの冷酷な目がハインリーを見る。
「な……!?」
アルファディウスの身体を乗っ取ったハインリーは言葉を失った。
何だ……あのガキは?確か……6年前に来たあのガキではないか?
だ、だが!それが何だ!?今の私はアルファディウスの身体を持つ最強の存在!
こんな小さな子どもなどに、負けるわけもないだろう。
「この……クソガキがぁぁぁあ!!!!!」
ハインリーの口から風の咆哮が放たれる。【龍王の咆哮】。父の最強の一撃。
「【龍電】に【防御】2乗のマナ……」
放たれる風のブレスは確かに強力だ。だが……フィンには全く脅威と思えなかった。
「【龍の領域】」
ゴッ!!!
三角の雷の結界がフィンの身体を包み、ハインリーの攻撃を弾く。
風撃は後方に流れ、王の間とヴルガルドの兵達を破壊していく。
フィンはただゼリルダにだけそれが当たらないようにした。
「な、何だ貴様は!?私はアルファディウスの力を手に入れた最強の存在だ!!」
「下らん。だからどうした?」
「私に……逆らうことが!どういうことが分かっているのか!?私に逆らえば死あるのみ!」
「そーか。じゃあ……」
その瞬間。ハインリーはフィンの姿を見失う。
どこに!?
そう思った時。
「【龍電】に【黒龍】と【拳】のマナ。【龍乃神拳】!!」
ズンッ!!
ハインリーの腹に再び重い衝撃が突き刺さる。
「ご……はぁ……!?」
口から大量の血を吐き出しながら、ハインリーは床に倒れ込む。
「……こんなに斬られて。さぞ苦しかったよな」
何かに斬り刻まれたであろう傷を眺めながら、フィンはそう呟く。
そして、王の間に倒れた兄弟達に目をやった。
怖い……思いをさせたな。
オイラが……一緒に来ていれば。オイラがもっと早くに駆けつけていたら。
オイラが……ゼリルダの代わりに王になる道を選んでいたのなら。
大切な兄弟達は、死ななかったのかもしれない。
涙でフィンの視界が滲んでいた。
理不尽に与えられた家族の死。
そんな時に、自分が何もしてやれなかった屈辱。
ここにいる奴らと、自分自身への怒りで身体がどうにかなってしまいそうだった。
「とーちゃん。安心しろ。せめてオイラがちゃんと送ってやる」
こんな、ハインリーのような低俗な男に支配されたままにはしておかない。
必ず……必ず、解放してやる。
「ぐ……おおおおおお!!!」
ハインリーはフィンに向けていくつもの風撃を飛ばしてくる。フィンは翼を広げ、それを回避。その懐めがけて一気に加速。
「く、くるな……!」
止めろ……!
「【龍電】に【黒龍】と【衝撃】のマナ……」
フィンの手の平に小さなビー玉ほどの雷が灯る。
弾ける破裂音は龍の体へと昇華したハインリーを討つ一撃。
「引け……!私はこの世界の王だぞ……!?」
私は……超えたはずだ!龍の支配を!この身に刻まれた恐怖の楔を!
「とーちゃんの身体を……返してもらおうか」
「来るなぁぁぁぁあ!!龍!!!」
また我に……!恐怖を与えるなぁぁぁぁぁぁぁあ!!!
トン
フィンの手がハインリーの身体へと押し込まれ、その手の平のエネルギー体もまたハインリーの身体へ。
「【龍頭衝撃波】」
バリバリバリバリバリィッ!!
そして、偽りの竜王の身体を内側から破壊。
アルファディウスの身体が爆ぜ、赤い血飛沫がフィンの体に飛ぶ。
偽りの龍は内側から弾け飛び、その身は雷の龍に食い破られた。
「ぐ……ぞ……がぁぁあ……」
断末魔の声を上げて、ハインリーは倒れる。雨のように降り注ぐ血潮を、フィンはただ浴びるだけだった。




