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フィンの過去16

 ファーロールはハインリーに乗っ取られるアルファディウスを見上げていた。


 これで終わり。


 因縁の深いアルファディウスがこうもあっけなく死ぬ……。


「もう、この世に我の喜びを満たす存在はないのかもしれぬな」


 ファーロールは求めていた。


 好敵手を。アルファディウスはそれに足る存在だと期待もしていた。


 だが、1000年前の戦士はこうもあっけなく死んだ。


 平和ボケしたこの世界はファーロールを満たしてはくれぬ。ただ漠然と仕事をこなすだけ。何の熱もなく、無感情に。


「後は貴様らを殺せば仕事は完了か……」


 この3匹の龍を屠れば全てが終わる。奴の描いたシナリオが完成する。


「ひ……」


「カタリナ……!」


 フラーは青い自身の鱗にマナを通す。


 水の膜。それで防御力を高めるフラーの魔法。


「ふん」


 ザシュッ


「ぎゃん!?」


 だが、そんな抵抗も虚しくフラーの身体は引き裂かれる。


「そのような小細工は通用せん。我の刃はあらゆる魔法を無力化する」


「フラー!?しっかりしてヨ、フラー!?」


 固く目を閉じたフラーを抱えながらカタリナは叫ぶ。


 そんな絶望を目の前にして、ゼリルダは何もできなかった。ただ、恐怖が身体を縛るように支配して目の前の現実がどこか夢のように感じられた。


 何で……?何で、こんなことになったのだ?


 なんで他のみんなはあの化け物に引き裂かれ、肉塊へと姿を落としていく?


 どうして……私は何もできない?


 迫る死の使者に、ゼリルダは呆然と立ち尽くすことしか出来ない。


「うわぁぁあア!【ドラゴニック・ボルテックス】!!」


 カタリナの身体から弾ける電光が走る。しかし、もはやファーロールは防御すらしなかった。


「黄の鱗か。どれ程の硬さか見てやろう」


 バキィ!


 まるで、武器の試し斬りでもするように。ただの作業のごとくファーロールは刃をカタリナへと落とし、カタリナもまた血飛沫をあげて崩れ落ちた。


「あ……あぁ……」


「最後は黒か」


 最後の1匹。残された子ども。


 この娘が育てば……多少面白くもなるだろうか。


 そんな期待が頭をよぎるが、すぐに首を横に振る。


 ないな。この娘に王たる資質はない。


 この娘には覇気も気高さも感じぬ。ただの凡人だ。ただ黒い鱗を持っただけの存在。こやつは王などではない。


 飾られただけの異端の存在にファーロールの興味はすぐに尽きる。


「散れ。黒龍の娘よ」


「ひぃっ!」


 ファーロールは刃を振るい、ゼリルダは堪らず逃げるようにして手で顔を庇う。


 ガギン!!


「あううううっ!?」


 黒い龍の鱗がファーロールの攻撃を弾き、ゼリルダの身体を刻むことは無かった。だが、その勢いで王の間を吹き飛ばされて床に頭を強打する。


「流石は黒の鱗。刻みきれぬか」


 本気の一撃ではなかった。人で言うのなら邪魔な羽虫を払うような一撃だった。


 それでもファーロールの馬鹿力はゼリルダの身体を玩具のように吹き飛ばす。


 ゼリルダは地面に倒れ、意識を失ってしまった。


 さて……トドメと行こう。


「待て!ファーロール!」


 その時。アルファディウスの身体を奪ったハインリーが声を上げた。


「その娘は私が殺す!ふざけた黒い龍の因縁は……この私が引導を渡すのだ!」


「……ふむ」


 構わぬか。所詮こんな娘に我の興味はない。


「好きにしろ。ならば我の仕事はもう終わりだな。下らん戦いに、我は飽きた」


 そう言ってファーロールはその刃を下げた。


 ハインリーは全てに勝利した気になって高笑いする。


 王の間に立つのは黒き龍へと昇華したハインリーとその部下。そして……。


「いよいよだ……!この黒龍の娘の死をもって!我らの革命は終わる!」


 この娘さえ殺せば全てが終わる。龍に支配された歴史も、この私の心に刻まれた心の傷も。


 全て……全て!私が変える!


 グググ……と、その大きな腕を振り上げてゼリルダの身体を狙う。この娘が黒龍だろうと、今の私は始祖龍アルファディウス!


 こんな生まれたばかりの黒龍とは訳が違う。簡単に殺してくれる!


 そう思って、その黒く大きな腕を振り下ろした。


 





「おい」





 刹那。


 ハインリーの背後から、幼い声が聞こえる。



「誰に断って……うちの妹に手を出してやがる?」



「……っ!?」



 どこからともなく聞こえる幼い声。


 何だ……!?まだ何かいたのか!?


 だが、もう遅いだろう。


「ふ、ははは!今の私は全ての存在を超えた存在。何人たりとも私を止められるものかぁ!」


「……とーちゃん、そーいうことなんか」


 父の身体から放たれるハインリーの声。


 あれは、父ではない。あの大きな体躯の中に父を感じない。


 そもそも、あの優しい父が家族に手をあげることなどあり得ない。


 父の身体から感じるのは薄汚れた矮小な魂。偉大な父の気配は微塵も感じられない。


 父のさっきの言葉と今の状況だけで、フィンは全てを察した。


 どういう手段を使ったかは知らない。だが、ハインリーが父の身体を奪い……殺した。


 せめて……せめて、オイラがとーちゃんの望みを叶えてやる。


 フィンはゼリルダに振り下ろされる腕を受け止める。そして同時に魔法を発動させた。



「【龍乃神拳ドラゴン・ディア・ブレイク】」



 バリバリバリバリッ!!!



「が……!?」


 勝利を確信していたハインリーの腕に激しい痛みが襲いかかった。

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