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フィンの過去15

 家族とアベルが去った後、フィンはボケーっと巣穴の中で寝転がっていた。


「………………暇だ」


 戦いの稽古をつけてくれる父も。それに便乗して立ち向かってくるブラッドも。それを眺めながらニコニコと笑うフラーも。本を読みながら文字を教えてくれとねだるビッシュも。お腹が空いたと言っていつも食べ物をねだってくるカタリナも。


 いつもいつも、背中を追いかけてくる小さなゼリルダも。


 今日は誰もいない。ただただ独りだった。


「…………」


 やがて、これが日常となる日がやってくるのだろうか。


 ゼリルダが王となって、他の兄弟達もまたここから巣立って、思い思いの世界へと羽ばたいていく。


 オイラは、存在が知られてはならない禁忌の黒龍。


 この山奥で静かに、穏やかに暮らしていくことが定められた人生を歩むことになるだろう。


「……嫁さんぐらい、欲しいかもな。大きな乳、大きな尻をした美人がいい。毎日それを眺める日々は楽しそうだ。イヒ、イヒヒヒ。イッヒヒヒヒヒ」


 他の者が聞けばドン引きされてしまうであろうことを言ってもここには誰もいない。何の遠慮もいらない。


 そんな状況を少し楽しみつつも、虚しく感じる。


 予定ではあと2日で帰ってくると聞いた。今頃は王城であのハインリーと謁見している頃だろうか。


 あのハインリーという男。父が黒龍の話をした時の反応が少し気になっていた。


 あまり、あの男はアルファディウスの一族にいいイメージを持っていないようだった。


 無理もない。己の立場を言わばほぼ一方的に追いやられるのだ。


 だが、それはこの国の摂理。ハインリーだってかつての王を下して王になり、その立場を奪ったのだから。


「……うーん」


 この国の在り方。力こそが全て。


 力ある者がこの国を支配する王となる。


 ヴルガルド国建国から決められたこと。


「そんなもん……必要か?」


 誰もいない穴倉でフィンはそんなことを呟いていた。


 本当の強さなんて、奪うためにあるもんじゃない。大切な何かを守るために力は存在する。フィンは少なくともそう思っている。


 正直、今のこの国の在り方は正しいんだろうか。だが、そんなの蚊帳の外のフィンが口出しできるもんではないし、事実そこには1000年という途方もない年月が作り出した歴史というものもある。


 それを教えてくれた父はどう思っているのだろう。


 でも、あの国を作ったのはとーちゃんだったはず……。


「ヴルガルド国って……一体どんな国なんだ?」


 そんなことを考えながらまた意味もなくゴロゴロと棲家を転がり回る。


 ブゥン……


「……ん?」


 そんなことをしていると、ふと机の上に置いていた宝玉が光を放つ。確か、これでとーちゃんと話ができるんだったか?


「おい、とーちゃん。そっちはどうだ?みんな楽しくやって………」


 クネクネと身体をくねらせて家族と話ができる喜びを噛み締めてフィンは宝玉に話しかけた。


 だが、宝玉から返ってきた返事はフィンの予想だにしない言葉だった。



『フィン……私を殺してくれ……!』



 ……は?


「……え?どーした?とーちゃん?」


 切羽詰まった父の声。


 冗談では無い。16年息子としてそばに居たフィンにはそれが瞬時に理解できた。


 のほほんと、穏やかに過ごしていた脳が張り詰めていく感覚を覚える。


「おい、おい!とーちゃん!?みんなは!?ゼリルダは!?何があった!?」


 光を失っていく宝玉にフィンは呼びかける。しかし、やがて宝玉は真っ暗に光を失い、そして……。


 パリィン……


 バラバラに、砕け散った。


「………………っ」


 その瞬間。フィンは住処の穴倉を飛び出していた。


 確実に、何かがあった。まさか……ハインリーに何かしてやられたのか?だが、とーちゃんを殺せとは一体どういうことか。


「待ってろ……!すぐに行くからな!」


 黒い翼を広げ、フィンは空を舞う。


「【龍電】に【疾走】のマナ!【龍翔鳳士ドラゴン・ディア・ブルグ】!!」


 フィンは雷光となって空を飛び、ヴルガルドのシュタール城を目指した。

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