第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第10話
そして、スタージョンはマインドと連絡を取った。
「よく来てくれたね。私も君と話したい事があったんだよ」
マインドは気持ちの良い笑顔を浮かべながら手を差し出した。
「………」
それを一瞬疑わしそうな目で見つめてからスタージョンは握り返す。
マインドは満足そうに頷くとソファに座り、相手にも座るよう促した。
二人の会合はマインドの私室で行われた。
完全に人払いをしての話し合いだ。
実は彼は一人でやってきたわけではない。マインドと連絡を取るように勧めたジェイクが、自分も一緒に連れていってほしいというので、怪訝に思いながらも連れて来ていたのだ。今は別室にいる。
スタージョンは二人きりだと居心地が悪いと思ったので、ジェイクに立ち会ってもらいたがったが、ジェイクが「二人きりのほうがいいと思います」と断ったのでしかたない。なので、居心地の悪さに耐えかねて、マインドが口を開く前に自分から話を振ることにした。
「ええと…私と話したいことがあるって言ったが、それはどういうことだ?」
「…………」
すると、マインドは一層深く微笑む。
「そういうところだよ」
「は?」
スタージョンは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を見せた。
この男は何を言い出すんだ?
そういうところってどういうところだ?
彼は居心地悪さプラス混乱して思考がぐちゃぐちゃになりかけていた。
すると、マインドはゆっくり話し出す。
「君は昔からそうだよね。考え無しというか、有り体に言えば頭が悪い」
「なっ…!」
スタージョンはカッとなって言葉に詰まった。
そんな彼におかまいなしにマインドは続ける。
「もっとも、それも私にとっては微笑ましくて、まあ、出来の悪い弟ではあるけれどかわいいなあと思ったものだったが、君は私の思いには気づかなかったようだしね」
「…………」
さっきからこいつは何を言ってるんだ、とスタージョンは思う。
こいつとは確かに昔からの付き合いはあるが、それもそんなに昔からというわけじゃなく、同じような業界人というだけで、知り合い程度のはずだ。
だが、今の言い方だと、かなり昔からの付き合いのような言い方をしている。
しかも、ヤツはなんと言った? 弟だと?
どういうことだ?
「私にはあんたが言ってることの意味が全然わからない」
「カスタム」
え?
マインドのその言葉にスタージョンの心の奥の何かが反応した。
なんだ?
この言葉に聞き覚えがある。
と、その時。
「すとおおおおおおおっぷ!!」
いきなり私室のドアが蹴破られたかのこどく開け放たれ、一人の女が駆け込んできた。実際はスライド式のドアなので蹴破ることはできないのだが、それくらいの勢いだったということなのである。
ぜぇぜぇと荒い息を吐きながら、その女はマインドに向かって吠える。
「ちょっとっ! あんたそれ禁忌でしょっ!」
指突きつけて非難してくる女に向かってマインドは目を瞠っている。そして、はっとして口を開いた。
「シナモン・リリン、どうした? というか、どうやってここに入室したんだ?」
そう、マインドの私室は施錠されていたはずなのだ。
それをこうも簡単に開けて入ってこれるはずがない。
「そーんなことはどうでもいいのっ!」
そう、入室してきたのはシナモンだった。
スタージョンは訳が分からず、ポカンとした表情のまま、マインドと女の会話を聞いている。
その視線を感じたシナモンは彼に目を向けると居住まいを正して丁寧な言葉で話し出す。
「ええと、ネビュラ・カンパニーのスタージョン社長さんですよね? 私はマインド社長のところの歌手です。シナモン・リリンといいます。申し訳ありませんが、火急の用件でうちの社長と話がありますので、いったん別室でお待ちして貰ってもよろしいでしょうか?」
「え…だが…」
「大変申し訳ありません。お・ね・が・い・し・ま・す!」
畳み込むようにシナモンは彼の言いかけた言葉にかぶせて言った。
彼は不承不承頷くしかなかった。
スタージョンが案内人に連れられて退室したあと、部屋にはマインドとシナモンだけが残された。
しばらく気まずい空気が流れたが、やはりそこはマインドが最初に口火を切る。
「どういうことだ、シナモン・リリン?」
「…………」
彼に背を向けて立っていた彼女は彼の言葉にゆっくりと振り返る。
「!」
マインドは少なからず驚いた。
確かに彼女はシナモン・リリンだ。
だが、彼女から発せられるオーラがそれを否定していた。
姿かたちはそのままだが、今の彼には目の前にいるその存在が人ではなく人外であるとひしひしと感じていた。
「あなたは誰だ?」
「やっぱり、記憶が戻ったんですね」
すると、その声がシナモンの声ではないことに気付く。
口調はそのままだが、声音がまったく違う。
女のような男のようなそんな不思議な声だ。
「あなたは、誰だ?」
今度は強い声音で続ける。
「では、あなたは誰なのでしょう?」
すると、彼女は質問に質問を返した。
「…………仲間、なのか?」
少しためらった末に彼は言った。
だが、すぐにそれを否定する。
「いや、それは違うか」
マインドは困惑して呟く。
「そうであるはずがない。だがしかし…カスタムが私の傍にいたということは、別の誰かもいておかしくないと思うのだが…」
「あなたの仲間ではないことは確かです」
シナモンである誰かが言う。
彼女はゆっくり歩き出すと、先程までスタージョンが座っていた場所に座る。
そして、驚くべきことを話し出した。
「私は、というか、この身体は間違いなく人間の身体です。そして、今まで接してきた私もそのまま私という人格ですよ。ただ、今話している人格は私ではなく、まあ、いわゆる人間流に言えば憑依しているという感じでしょうかね。本来、私は実在して生きている人間には干渉しないのですが、今回は禁忌を防ぐという名目で、こうやって本来の人格を眠らせて表に出てきたということなのです」
「……いったい君は誰なんだ?」
「それはちょっと言えませんね。記憶が戻ったということは、あなたがどうしてこの世界でこうやって生きているのかは理解していると思うのですが、どうなんです? すべて思い出しましたか?」
彼女の問いかけに、マインドは頷く。
それを見て彼女も頷く。
「では、わかりますよね。本来は記憶が戻ってはいけないことも。もっとも、今回のことはこちらの不手際でもあるので、厳しいことは言えませんが。ですが、再び記憶を封印することを了承して貰わねばなりません」
「待ってくれ!」
マインドは叫ぶ。
「確かに記憶の封印はしかたないと思う。だが、ではどうして記憶が戻ったのか、そして、シモン・リリスのあの歌は何なのか、それは教えてもらいたい。私にはそれを知る権利はあると思うのだが」
「そうですね。確かにあなたの言う通りです。こちらの不手際でもあるので、あなたの疑問に答える義務が私にもあります」
そうして、シナモン・リリンの姿をした誰かは話し出す。
シモン・リリスの秘密を。
驚くべき話を。




