第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第9話
ギャラクティック・ドリーム・カンパニーと肩を並べるほどのカンパニーであるネビュラ・カンパニーの社長がスタージョンと呼ばれる不思議な色合いの髪の青年だった。そのスタージョン・ネビュラの興したカンパニーは最初はそれほど盛況なカンパニーではなかったが、ある時からめきめきと頭角を現すようになっていった。それが、かつて絶大な人気を誇ったミュージシャンの再来とも言われる歌い手達が次々とデビューするようになったからだ。そのかつての人気者たちはすでに亡くなっており、誰もがその死を悼んだものであったので、その再来とも言われる歌い手が世に出てきたということもあり、次々と多くのファンたちがつきだしたのだ。それがネビュラ・カンパニーが成功をした要因となっている。
「冗談じゃない。せっかくここまでやってきたというのに。だがしかし…」
表情を歪ませて呟きつつ、スタージョンは廊下を歩いていた。
「……彼女は人間じゃない。私がどうこうできる存在じゃない。とすれば、しかたないか。まあ、いい。彼女はジェイク・ダレンを召喚してくれた。ジェイクは稀代の天才シンガーだ。彼以上の歌い手は宇宙の何処を探してもいないだろうからな」
くくく、と含み笑いをしつつ、彼は歩き続けた。
ジェイク・ダレン。故郷の星は天変地異で失われ、ほとんどの人間が死に絶え、僅かしか生き残った者はいなかったらしい。そのうちの一人が彼だった。その彼の才能を知ったマインドが自分のカンパニーから彼をデビューさせた。千年に一人という歌い手、それがデビュー当時の彼の肩書だった。
そのジェイクはライブの最中に投身自殺をした。
それはとても衝撃的な出来事で、ライブを観覧していた何人ものファンたちが後追い自殺をしたものだった。
そして、それだけでなく、彼の最後の歌となった「永遠の果てに」も、楽曲を聞いただけで自殺をしてしまう者達が出て来てしまい、その歌を封印されることにもなったのだ。
そんな彼であったが、人外の存在によって死した魂が召喚され、人造人間に魂を定着され、現世に戻されてしまった。
そう、ネビュラ・カンパニーで人気を博している歌い手達は、その召喚された死せる魂が現世に甦ったからだったのだ。
「ジェイク・ダレン。私の為に歌ってくれ」
スタージョンは所在無くベッドに座る青年に跪くとそう言った。
のろのろとした動作でジェイクは目の前の男に視線を向ける。
「……歌えと言われれば歌いますが、きっともう誰も僕の歌なんて聞かないと思いますよ」
ジェイクはまるで無機質で感情の見えない声音でそう言った。
だが、スタージョンは信じない。
「そんなことはない。君だけじゃなく、他のスターたちもちゃんと多くのファンがついた。むしろ、生前よりももっと多くのファンが…」
「あなたがそう思うのなら別に否定はしませんが、でも、今まではそれでよかったのかもしれませんが、これからはたぶんそんなにファンはつかないと思います」
「そんなことはない!」
スタージョンは切羽詰まった表情を見せる。
そんな彼にジェイクはゆっくりと首をふる。
「僕は感じたんです」
すると、スタージョンは神経質そうに眉間に皺を寄せた。
それを見て、思わずといったふうにジェイクは口の端を微かにあげると言い切った。
「今にわかります。本物の歌神が現れたのだと」
そのジェイクの予言通り、宇宙中にその歌神の降臨の一報が轟いた。
「千年どころか一万年に一人の歌姫が降臨した!」
「彼女の歌声はまるで神がその場で歌っているかのようだ!」
「聞いた事もない言語なのにその歌詞が全ての人に理解される不思議な体験!」
という風に、とにかく宇宙中が絶賛の嵐だった。
初めてのライブ以来、ひっきりなしにいろいろな場所でライブが開催され、そして、全ての人々が彼女の歌声に魅了された。
特に彼女の歌声にはある特徴があり、そのおかげでさらに人気はますますうなぎ上りで上がっていったのだ。
「どうして……」
スタージョンは頭を抱えて悲痛な声を漏らした。
これから、ジェイクの歌で宇宙中の人々を魅了させるはずだったのだ。
「社長…あなたはどうしてそんなにギャラクティック・ドリーム・カンパニーに対抗していたのですか?」
ジェイクは感じていたのだ。
スタージョンが許されざる禁忌を犯してまでも魂の召喚をして肉体に定着をしていたのは稼ぎたいが為だけではないのではないかと思ったのだ。
「…………夢を見たのだ」
彼は小さく呟いた。
彼は玉虫色の髪の毛に両手を絡めて頭を抱えたまま俯いてソファに座っていた。
その姿勢からゆっくり顔を上げて少しふてくされたような表情で話し始める。
「私は夢でマインドと話していた……」
「マインド……ギャラクティック・ドリーム・カンパニーの社長のことですね」
スタージョンはふてくされたままの表情で遠くを見るような視線を向ける。
「今まで何度か彼とは話したことはある。互いに同じようなカンパニーのトップだからな。だが、夢の中ではどうやら他の仲間みたいな者達に私は蔑ろにされていたようで、それを夢の中のマインドは庇ってくれていた。だが、私はそれが本心から庇ってくれていると信じていないようで、かなり鬱屈した気持ちを抱いていた。だから、マインドに対していつもケンカ腰だった」
どうしても叶わない。
心の底では彼を尊敬しているのに。
だがどうしても素直になれず、自分の方が偉いんだ、どうしてこっちが庇われないといけないんだ、と。
「今までの自分はどうして彼に対して対抗心を燃やしていたのか、実のところ理解できてなかったように思う。それが、そんな夢を見て、ああ、これだったのかとわかったんだよ」
「もしかしたらそれ、前世と関係してるかもしれませんね」
静かに聞いていたジェイクがぽつりと言った。
「前世?」
「はい。詳しくは言えないんですけど、一度死んで甦ってきた今なら、僕にはわかります。それは間違いなく前世が関係していると思いますよ」
ジェイクは頷いて続ける。
「恐らく、社長とあちらの社長さんは前世で近しい関係だったのでしょうね。それが今世で再び関係し、試されているのだと思います」
「試す?」
「はい。神が仲良くなれって言ってるんじゃないでしょうか。僕はそう思います。一度、あちらの社長さんとじっくり話し合ってみてはいかがですか?」




