第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第8話
呆然としたアイザックの思考を次の瞬間、透き通る歌声が遮った。
僕らはなぜ生まれた
僕らは死ぬために生まれた
どこに身体は流れ着くだろう
どこに心は辿りつくだろう
果てしなく続く星々に
答えを聞いたとしても
星々は答えてはくれない
ただ哀しく輝くだけ
だけど
僕らはここにこうして
泣きながらでも生きている
時が行き過ぎ
いつの日か終わりが来たとして
僕らは悔やむだろうか
僕らは笑えるだろうか
永遠の果てに見るものは
いったい何だろう
しっとりと歌うシモンの横でゆったりとした動きでシナモンが舞う。
カンペ踊りはうまくいっているようで、シモンはちゃんと日本語で歌っていた──が、一瞬、シナモンの動きが止ったかと思ったその瞬間。
シモンが日本語ではない聞いたこともない言語で歌い出した。
歌を聞いていた観客たちにざわめきが起きる。
だが。
「歌詞、一緒よね」
「聞いたことない言語だけど、なんでかわかるよね」
「不思議な歌声…」
「魂が揺さぶられる…」
人々は次々と席を立ち始めた。
その様子を見ていたアイザックが危機感を持ち、隣に座るマインドに目を向ける。
「まさか、みんな飛び降りるつもりじゃないだろうな」
「………」
すると、マインドに目を向けたアイザックが瞠目した。
マインドの表情が明らかに変化していたからだ。
まるで今までずっと別人として生きていて、やっと本来の自分に戻ったかのような、そんなふうに思ってしまうような変貌ぶりだった。
そんなマインドが「これは……第二レベル世界の言語……」と呟き、それを怪訝そうに見つめるアイザックは「それはどういう…?」と聞き返そうとしたその瞬間、またしてもシモンの歌う言語が変化し、彼はそちらに気が取られたのだった。
シモンは次々と同じ歌を違う言語で歌っていく。
それを、恐らく内心ではパニック状態になっていただろうに、楽器を演奏していたシェルは必死に楽器を操りついていく。
その傍ら、踊り続けるシナモンは何もかも承知したという表情で踊り続けていた。
彼女にはシモンがこうなることは想定済みだったようだ。
彼女はうっとりとした表情でシモンを見つめ、踊り続ける。
そして、シモンは次々と聞いた事のない様々な言語て歌い続けた。
だが、それは段々と歌詞の内容が変わっていて、それでも聴衆は気にせずに嬉々として彼女の歌声に酔い痴れていた。
僕らはなぜ生まれた
僕らは生きるために生まれた
どこに身体は流れ着くだろう
どこに心は辿りつくだろう
果てしなく続く星々に
僕は聞いてみたんだ
星々は答えてくれたよ
キラキラと輝きながら
そうさ
僕らはここにこうして
微笑みながら生きている
時が行き過ぎ
いつの日か終わりが来たとして
僕らは微笑みながら
僕らは愛を囁き続けるんだ
永遠の果てに見るものは
いったい何だろう
それは愛
愛なんだよって
すべての聴衆が笑顔を見せながら泣いていた。
それはそれは幸せそうに。
そして、シモンの歌は、まるで永遠に続くかのように様々な言語で歌われ続けた。
それは「永遠の果てに」で何時間も続けられたのだった。
「っ!」
その頃、とある場所で弾かれたように顔を上げた人物がいた。
「……聞こえる。あの歌が。けれど、歌詞が……」
呟く人物は見た目は男性のようだ。輝くほどの金髪と色素の薄い水色の瞳を持つ儚げな雰囲気の彼は、それほど広いわけではない室内のベッドに座って虚空を見つめていた。
けだるい空気が漂うその室内で、まるで人形のようにまったく動かずにずっと座っていた彼は呟きを続ける。
「僕の歌より素晴らしい。きっとアイザックも好きだよね」
その頃、別室でひょろっとしたスレンダーな男性が、絶世の美女と相対していた。そして、その美女が口を開いた。
「スタージョン。我はもう此処を発つ」
声も天上の声とでもいうような響きを持ち、聞いた者を至福に誘うかの如く耳に心地良い。
するとスタージョンと呼ばれた男は慌てたように言い出した。
「待ってください、スメイル様」
スレンダーな身体に似合うその声はかなり神経質な気質のようだ。
顔の造形は醜くはなく、どちらかというと美男子であるはずなのだが、内面が面相に出ているのか、どうもあまりよろしくない性分のようだ。
そんな彼に対して、スメイルと呼ばれた美女は腰まで伸びた金髪を揺らし、軽蔑したような視線を向ける。
「何人かの魂を留めて人造人間に定着させて、かなりお前を儲けさせたではないか。これ以上何を望む」
「まだこれからなんですよ。私はもっともっと稼ぎたい」
「……その向上心は最初は心地よかったんだがな」
ぼそりと呟くスメイルの言葉をよく聞き取れなかったのか、スタージョンが「は?」と聞き返す。だが、スメイルは首を振る。うんざりといったふうに。
「これ以上、我に逆らうな。さすがにこれ以上は人間に手出しは出来ぬのでな。昔であればとっくにお前の命はなくなっていたぞ」
「!」
彼女の放つ禍々しいオーラを感じ取ったのか、彼は絶句した。
「諦めろ。それに最後に特上の魂を定着させたではないか。あれでかなり儲けることができると思うぞ」
そう言うと輝く光を放ちながら、スメイルはその場から消えていった。
あとには呆然とした表情のスタージョンが残された。
彼はいつまでもその場から動けずにいた。




