第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第7話
シモン&シナモンのデビューライブが開かれることとなった。
そのライブの打ち合わせで彼女たちにシェルが言う。
「歌うのはもちろんシモンなんだけど、シナモン!」
「なあに?」
「君にはカンペ持ちをしてもらうよ」
「そんなこと、言われなくてもわかってるわよ?」
なんだ、そんなことといったような表情をシナモンは見せた。
すると、彼は唇を突き出すと不服そうに言う。
「いや、わかってないよ。君もステージに立つんだからね」
「え?」
シナモンは首を傾げる。
「そんなの、カンペがバレバレじゃん」
シモンが信じられないといった顔をする。
そんな彼女に対して、シェルが人差し指を振ってドヤ顔を見せた。
「ふっふっふー。いい案があるんだなこれが」
だが、シモンもシナモンも疑わしいといった目で彼を見ている。
そして、彼はそれに気づきもせず続けた。
「シナモンには歌詞の書かれた衣装を着てもらい、それをシモンに見せながら踊って欲しいんだ」
「は?」
呆気にとられるシナモン。
「踊るの?」
「それ面白そう!」
信じられないといった顔をしているシナモンに対して、シモンは目をキラキラさせて叫んだ。
「あたし、シナモンの踊り見たい! てか、あたしも一緒に踊りながら歌う!」
「ちょっとぉ…」
シナモンは頭を抱えた。
「歌詞はもちろん日本語で書かれているから、ほとんどの観客にはわからないと思うよ」
「ええーそうかしら」
シナモンはまだ信じられないといった表情だ。
「衣装の模様だってみんな思うから大丈夫!」
シェルは得意げに拳で自分の胸をドンと叩いた。そして、むせた。
「ゴホ…踊りは君の好きに踊ってくれればいいよ」
「丸投げかよ…」
珍しくシナモンが悪態をつく。
「まあまあ、いいじゃないの。あたしはやってみたいわあ」
それを宥めるシモンはすでにもうステージに立った自分たちを想像しているようだった。
「ああーライブが楽しみ!」
「好きにすればいいさ」
ライブ前日、不安に思ったシナモンがアイザックに相談したが、彼は投げやりな答えしか返してこなかった。
社長が何も言わないのなら彼も否やとは言わないつもりのようだった。
ただ、この状況が気に入らないのか、彼の不機嫌さは誰が見ても明らかである。
そんな彼の様子を見て遠慮がちにシナモンは問う。
「えっと…あの歌をやっぱりシモンに歌わせたくないですか?」
「……なぜそう思う?」
逆に問われる。
「うーん、何となくそう思っただけで、別に他意はないんですけど…」
と、シナモンは首を傾げながら答えた。
そんな彼女をじっと見つめながら、彼はふうっとため息を吐く。
「あの歌は呪われてるんだよ」
「え…」
「あの歌は初めて披露されたその時に歌い手であるジェイクが聴衆の目の前で自殺したんだ。だから、その後、そのライブでの映像を見た多くのファンが同じような死に方をして世間を騒がしたんだ。それもあって、ライブ映像も音源も門外不出となってしまった。歌自体も口ずさむと死ぬ者達が出て、歌われることも禁止された」
「そうだったんですね」
シナモンがぽつりとそう言うとアイザックは頷く。
「だから、社長があの歌をシモンに歌わせると知って、正気の沙汰じゃないと思ったよ。だが、彼が何も考えずに言い出すことはありえない。もしかしたら何か考えがあってのことかもしれないとも思う。とはいえ、本当に大丈夫だろうかという気持ちもどうしても拭えないんだ」
「…………」
シナモンは少し考え込むように下を向く。
それからゆっくりと顔を上げると言った。
「もしかしたら大丈夫かもしれません」
「なんだって?」
アイザックが驚く。
「うん…たぶん、ね。あなたも彼女の歌を聞けばわかるかも」
「いや、歌っているのはこの間聞いたぞ?」
すると、まるで悪戯小僧のような表情で彼女は笑った。
「ふふふ、ライブの日を楽しみにしてください」
そのステージはとある惑星の天空都市にあった。
惑星エイドリーの天空都市エイドリアン。
地上から何千メートルも伸びた塔の上にある天空の都市。
その都市は天空ショーが常時開かれ、様々なアーティストが歌声を響かせていた。
都市のある塔より更に上に伸びる塔の天辺にそのステージは設けられていた。
そのステージに歌い手であるシモンとパフォーマンスをするシナモン、そして、ギターのような楽器を抱えたシェルがいた。
シェルは意外にも楽器使いで、いつもはこんなふうに人前で披露するということはなかったのだが、今回は特別に社長からのお達しで伴奏をすることとなった。
「まあ、ないとは思うけど、もしもってこともあるしねってことで」
と、シェルは何でもないことのように言っていたが、やはり、あの歌を歌うにあたっての保険といったことなのかもしれない。
観客の座る観客席はそのステージを囲む形で空中に浮きあがっている。
今回は実に多くの観客が集まっていた。
それもそうだろう。
あの伝説の歌が歌われるのだから。
そして、ステージに一番近い特等席ともいうべき席には社長のマインドとアイザックが座していた。
「………」
アイザックは隣に座るマインドを盗み見る。
それもそのはずで、今までに一度も自社のアーティストのライブに姿を見せたことがなかったからだ。
マインドは座り心地の良いソファに姿勢よく座り、ステージに視線を向けていた。
「恐らく大丈夫だと思う」
唐突にマインドが呟く。
それはアイザックに向けた言葉だと思うのだが、自身に対しても言い聞かせている風にも聞こえた。
「あの歌は埋もれさせるには惜しいものだった。だが、あの歌は彼の歌う音源だけでなく、誰が歌ってもこの私でさえもあの歌を聞く度に死への誘惑が抗えなく、これは歌詞やメロディに問題があるのではないかと思ったのだよ。だから、あの歌は封印せざるを得なかった」
「だったら、何故、シモンに歌わせるのですか!」
アイザックが怒りを込めて叫ぶ。
「彼女がどうなってもいいと?」
「魂だよ」
「え?」
マインドの言葉にアイザックは怪訝そうな表情を見せた。
そんな彼に、マインドは微笑んで見せた。
「!!」
彼は驚愕した。
なぜなら、彼は今までに社長が笑ったところを一度たりとも見たことがなかったからだ。
言葉を失うほど驚いているアイザックに社長は頷く。
「魂で歌うんだ、あの歌は。魂で歌えばあの歌に込められた呪いは解除される。私はそれを彼女の歌声で確信した」
「魂で……」
この人は何を言ってるんだというふうにアイザックは呆然として呟いた。




