第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第1話
「ねえ、ノンナ、あなたはスメイルに滅ぼされた惑星から魂だけ地球に持ち込まれて、そこでとある人間の身体を使って生まれてきたよね」
「ええ、そうね。もっとも、あれはスメイルに滅ぼされたとはちょっと違うとは思うけれど」
ノンは苦笑しつつ、一応は血を分けた姉をかばった。自分でも甘いよなあと思いつつ。というか、ロビンはなぜその話を今蒸し返すのだろうと不思議に思う。
「本来なら、あなたを生み出した母体は別の人間が生まれるはずだったんだよ。そこで、その生まれるはずだった人間がどうなったか知りたくない?」
「…………」
ノンはニコニコしている弟を眇めた目で見た。
「ロビン、あんたってほんっと人間達が好きよね」
「うん、好きだよ。そこらへんは父上に似たかな」
いや、そこらへんだけじゃないでしょ、とノンは思う。
まるで父のミニチュアみたいだ、と。
「もっとも、見守るには多過ぎるから、どうしても気になった人しか干渉しないんだけど」
「いやいやいや、干渉はダメでしょ。基本は手出ししちゃダメなはずよ」
「スメイルは干渉しまくってるよ。僕だけダメっていうのも、ねえ」
「はぁ…」
やはり、血は争えないということか。
もともとは父親の血のなせる業だ。
これはもうどうしようもない。
ただ、創造主から何のお咎めもないということは、これは暗黙の了解ということなのかもしれない。それが救いと言えばそうなのかも、とノンは思った。
「でね、その人間の動向を見守ることにしたんだ。ノンの代わりに本来とは違う母体から生まれてきたわけでしょ。だから、不幸にしちゃいけないなあと思ってさ。何かあれば助けようと思って」
「はいはい、わかったわかった。で、またしても長い物語が始まるわけね」
「そうそう」
まるで「聞いて聞いて」と無邪気に話してくる子供のようだ。
そうして、始まる、物語。
それが、とある美女二人の波乱な人生だった。
西暦1982年夏、ここはフランス、パリ。
二人の日本人女性が、エッフェル塔の下で手を取り合っていた。
「小池さん!」
「黒田さん!」
二人はそのまま同時に叫ぶ。
「とうとうやってきたのねっ、私たちフランスへ!」
そして、エッフェル塔を見上げた。
黒田満、年齢20歳、赤毛の美人である。そして、小池愛、同じく20歳、黒髪の美人である。
二人はとある女短の卒業者で、卒業後にとある会社に一緒に就職した。
以前から二人は親友として常に行動を共にしていたのだが、最初のボーナスでかねてから行きたいと思っていたフランスに二人で休暇をもぎとりやってきたのだった。
「さて、これからどうする?」
愛は突然振り返ると言った。
「もちろん、景色のいいところ」
満はピクニック用のバスケットを掲げる。
それにはワインとサンドイッチ等軽食が入れられていた。
「フランスでも有名なサイレーンのワインと軽食がゲットできたのはラッキーだったわよね」
日本にまでその名前が知られているカフェであるサイレーンは、カフェであると同時にとても良質なワインを提供しているので有名だった。
アーシェラ・サイレーンという女性が始めた小さなカフェが数年も経たないうちに大繁盛、最近では世界中に支店ができるほどにもなっていた。
「そういえば、アーシェラの故郷ってここらへんじゃなかったっけ」
「そうだったわね。それにしても、景色のいいところって、やっぱり田舎がいいわよね」
「そーゆーこと!」
愛がそう言うと、満は嬉しそうに答える。
そして、二人は楽しそうに笑いながら駆けだした。
それからだいぶ経って、太陽が西に沈もうとしている小高い丘で、二人は夕焼けをバックに再び手を取り合っていた。
ここはフランスのランス近くの片田舎。
目の前に広がる草原を二人は手を取り合って見つめていて、今まさに太陽が沈もうとしているのを感動とともに見守っていた。
「素敵なところね、黒田さん」
「でしょう? こんなところ大好きなのよ、小池さん」
そして、二人は美しい景色を堪能すると、いざ、自分達が泊まる予定のホテルに向かった。
そのホテルはホテルというより民宿のような建物で、木造建築と装飾が何ともいえない情緒を感じさせた。
「観光ですかのぉ、お嬢さん方」
ホテルの主人の白いひげのおじいさんがニコニコしながら二人を部屋まで案内してくれた。もちろん、フランス語だ。
「ええ、そう、なん、だす」
満がたどたどしいフランス語で答えた。語尾がなまっている。
「ここらへんはなんもありゃせんがのぉ」
「あたし、たち、こんな、ところ、大好き、なんだす」
「そうか? そうじゃろうて。ここの景色はフランス一じゃからのぉ」
ホテルの主人は満面の笑みで喋り始めた。
満と愛はそんな彼を微笑んで見守っていた。
それから二人は夕食を食べたあと、部屋に戻ると、さっそくベランダに出てみる。
すでに夜は更け、空は満天の星空だ。
ここらあたりは都会のようなギラギラとした灯りはなく、ポツンポツンと灯された民家の灯りがあるのみ。なので、星空がかなり美しく見られる。それも観光のポイントにもなっていた。
「すごいわねえ、小池さん」
「そうよねえ、黒田さん」
二人はうっとりとして星空を眺めていた。
「そうでしょうそうでしょう」
その時、いきなり第三者の声があがった。
二人が出ていたベランダの隣の部屋のベランダに、いつのまにか誰かが立って、同じように星空を眺めていたのだ。
しかも、その人は日本語で当たり前に語りかけていた。
「驚かせてごめんなさいね」
その人は女性で、うねるような赤い髪の持ち主だった。
満と愛はその女性の顔に見覚えがあった。
ごく最近、雑誌で見かけた顔だったから。
「日本の女の子なのね。ちょっとお話しない?」
そう女性は言うとニッコリと微笑んだ。
その人はサイレーンの創設者、アーシェラ・サイレーン、その人だったのだ。




