第8章「竜の見る夢」第9話
「説明していただきたい、王太子」
スペースとダークネスは通された謁見室にて開口一番そう言い放った。
アンドルーはその美しい顔を歪ませた。
「申し訳ないと思っています、艦長。ですが、我々にもあれの正体がわからないのです。バッファローはあれにあっという間に飲みこまれて消えてしまったのです」
「でしたら、その時にでも事情をこちら側に報告して下されば……」
「私もそうしたかったのですが、帝国に……エール・ドラの艦長に止められて……」
「エール・ドラ艦長……あいつか…」
スペースは浅黒い肌と、テレサと同じような大きな耳を持つ男ヴェウンを思い浮かべた。
その時、謁見室に侍従がやってきた。
「アンドルー様、ヴェウン様がいらっしゃいました」
「お通ししなさい」
「かしこまりました」
侍従が丁寧に頭を下げると静かに出て行った。
程なくして、ヴェウンが謁見室に入ってきた。
彼は室内にスペースとダークネスを見つけるが、知っていたのか驚きもしなかった。
「久しぶりですな、トラベラー艦長。そして、ダークネス副長でしたか」
「そうですね、ヴェウン艦長」
スペースはそう答え、隣のダークネスは軽く会釈だけをした。
「早速ですが、ヴェウン艦長にお聞きしたい。なぜ、バッファローの消失経緯を我々に黙っていたのですか?」
スペースが淡々と問いただす。
そんな彼に対して、ヴェウンはひとつため息をつくと苦悶の表情で言った。
「それについては大変申し訳なく思っている。だが、こちらも多大なる被害を被っていて、早急にこの問題を解決したいと思っていてね、それで、貴殿を、まあ、言ってはなんだが、誘い込もうと王太子には連邦には黙っていてほしいと進言したのだ」
「………」
それなら素直に事情をこちらに回してくれれば早急に対処したのに、とはスペースも思ったのだが、そこはそれ、賢明にも黙ったまま何も言わずにいた。下手なことを言うと、このヴェウンという男はどう出るかわからないからな、ということで。
「今度ばかりは私もお手上げなのだ。キャプテン、力を貸してくれないか。あれを退治するために。あれにはどんな武器も通用せんのだ」
スペースもだが、ダークネスもビランの鬼艦長とまで言われた男が頭を下げているのを少なからず驚いていた。
だが、これは好機だと思ったスペースは心でニヤリとすると言葉を発した。
「よろしいでしょう、ヴェウン艦長。私たちでよければ日頃の敵対関係を水に流して手を結びましょう」
多少皮肉も混じっていたのだが、どうやらそれにはヴェウンは気づかなかったようだ。なので、差しのべられたスペースの手を握り返した。
「恩に着る」
「できましたら、今後も友好な関係となれればいいのですがね」
スペースは意味ありげな表情をする。
それに対してヴェウンは苦笑しつつ答えた。
「私の一存では決められないことだがね。だが、そうなればいいとは実は思っているのだよ、艦長」
その答えに少なからずスペースは驚いた。
だが、それについて詳しく話したいと思っていても、今はそれどころではないと思い直し、何も言わなかった。
と、そんな時、スペースの携帯通信機が鳴る。
「失礼」
彼はそう言うとすぐさま通信機に応える。
「こちら、キャプテン」
「キャプテン、テレサです。ビランのエール・ドラが現在、射程距離内に停泊しています。指示を願います」
「ああ、そのまま待機でいい。今、ヴェウン艦長と話し合いをしているからな」
「えっ?」
テレサの驚いた声が上がり、スペースは彼女のびっくりした顔を思い浮かべ、笑いそうになった。
「ん? どうした、テレサ中尉?」
「い、いえ、なんでもありません。わかりました、次の指示を待ちます」
その時、ヴェウンが「テレサ」という言葉を聞いたとたん、その目が驚愕に見開かれるのをダークネスが目撃した。
そして、テレサがヴェウンの姿をスクリーンで見た時に彼女が異様な態度を見せたことを彼は思い出した。
いったい、テレサとヴェウンはどんな関係があるというのだろう。
「トラベラー艦長」
「はい、なんでしょうか、ヴェウン艦長」
ヴェウンの表情は強張っている。
「その、今のテレサという名の女性はあなたの部下かね?」
「そうです。私の艦の通信士兼レーダー係でテレサ中尉といいます」
彼は不思議そうにそう答えた。どうしてテレサのことを聞くんだと言わんばかりに不審そうな表情で。
すると、ヴェウンはさりげなくといった体でさらに聞く。
「テレサ中尉……テレサ…どこの出身なんだ?」
「リゲル星系リヴの出身ですよ。それがなにか?」
「えっ!」
ヴェウンが驚愕して声をあげた。
「テレジーナ・スレンダ・ラビリンス!」
彼はそう叫ぶと、スペースの両肩をつかむとさらに続ける。
「たのむ! 会わせてくれっ! 彼女に! テレサにっ!!」
「何しにきたんですか。あなたとは話すことなどありません」
テレサの聞いた事のない冷たい声が、ここファイヤーバードの賓客室に響いた。
同席していたスペースとダークネスは驚いた目をテレサに向ける。
「ええと、我々はここにいないほうがいいのか、な?」
スペースは少し自信なさげにそう言った。
ダークネスも軽く頷く。
すると、ソファに座っていたヴェウンが立ち上がる。
「すまない。君たちもここにいてくれ」
スペースとダークネスは顔を見合わせると頷く。
そして、ヴェウンはテレサに向って話しかけた。
「私はおまえのことを忘れたことはなかった。いつか、おまえに会える時がきたら許しを乞おうと、そればかり考えていたんだよ」
そこで、初めてヴェウンに顔を向け、キッと睨み付けるテレサ。
「許す、ですって? 許せるわけがない。あなたは私の両親を殺し、私の……」
彼女は立ち上がると、三人に背中を見せると制服を脱ぎ捨て、上半身裸になった。
スペースとダークネスは驚いて目を剥いたが、ヴェウンは視線をそらすことなく、彼女の背中を凝視した。
そこには、右肩から左腰までにサーベルか何かで切りつけられたかのような傷が走っていた。
「この傷はあなたのしたことの証。傷跡を消すこともできたのだけど、私はあなたへの憎しみを忘れないためにもこの傷をあえて残したの。私はあなたを絶対に許さない」
彼女はそう叫ぶと、制服をはおるとそのままラウンジを飛び出した。
あとには首を項垂れたヴェウンと、複雑な気持ちを抱いたスペースたちの三人が残された。




