第8章「竜の見る夢」第8話
「お待たせしました」
賓客用ラウンジでは、すでにメリド星の評議員12名と副長ダークネスが艦長を待っていた。
「ガイヌン議長、お話とは何でしょう?」
スペースは早速話を促すと、ガイヌンはすぐに口を開く。
「単刀直入に申しましょう。我々メリド星は連邦に加入することに決めました。どうか、手続きを取ってもらいたい」
ダークネスは目を見開いて、少なからず驚きの表情を見せたが、スペースは至極当然といったようにニッコリと微笑んだ。
「よく決心してくださいましたね。お任せください。絶対に悪いようにはいたしません」
「お願いします」
ガイヌンは困り果てたような表情を浮かべ続ける。
「我々も今度のことでやっと目が覚めました。これからは我々の科学技術を連邦に惜しみなく捧げるつもりです」
「そのお言葉、本当に有り難く頂戴いたします」
そして、ガイヌン以外の評議員たちは母星に戻り、ガイヌン議長はファイヤーバードのスペースシップに乗り、地球へと向かった。
「キャプテンは彼らの申し出を当然のことと思ってらしたようですね」
ガイヌンを見送りながら、ダークネスが言う。
「うん、まあね。君にだって想像できたと思ってたんだが。君のあの時の顔、ちょっとやそっとじゃ忘れられんなあ」
からかうような口調にダークネスの顔が強張った。
「君も人の子だったんだな」
「……キャプテン、お言葉が過ぎます」
「おっと。さて、ブリッジに戻るとするか」
トラベラーはさっとばかりにエレベーターに乗り込んでしまった。
あとに残ったダークネスはしばらく困惑したような表情を浮かべていたが、自分もエレベーターに乗り込む。
彼がブリッジに戻ってみると、すでにトラベラーは艦長席に座っており、ビリーに命令を出しているところだった。
ダークネスはそれを一瞥すると、通信席のテレサに視線を向ける。
先程見られた動揺はもう見られなかったが、それでも何かあるような表情が彼には見て取れた。
他の者にはわからなかっただろうが、精神感応能力のある彼には他人の心の機微が何となくわかるからだ。
とはいえ、それが何なのかはもちろん彼にもわからない。知りようがない。
気にはなるが、彼女が相談でもしてくれない限りはどうしようもない。
「………」
ダークネスはひとつため息をつき、艦長席に向うと後ろで手を組み、傍らに立った。
「副長、次の任務は連邦の貨物船バッファローの消失現場だったな」
「その通りです。ビラン帝国と銀河連邦の中立地点の宙域ですが、バッファローの消失地点は帝国の支配下にあるバルジー星系があります。もしかしたら、帝国の関与も考えられるとのことです」
「そうか。だが、バッファローはごく普通の物資を運ぶ貨物船だ。それを帝国が狙うというのもおかしな話だ。さすがに帝国側であっても、そこまであからさまなことはしないとは思うんだがな」
「そうですね。私もそう思います。それでも実際に貨物船は跡形もなくなっています。消失するまでは存在が確認されていました。本当に文字通り、一瞬のうちにレーダーから消え失せたということなので、何らかの攻撃を受けたと思うのですが、物理的な攻撃であれば、感知されるはずです。それが全く感知されないということで、連邦も困惑しているようですね」
ダークネスは淡々と報告する。
すると、いまいましげにチャーリーが吐き捨てた。
「絶対ビランの奴らだよ!」
「チャーリー・マック中尉、滅多な事は言うんじゃない」
スペースがそうたしなめると、チャーリーは慌てた。
「すみません、艦長」
「キャプテン」
すると、まるで助け船を出すかのようにテレサが口をはさむ。
「そろそろバルジー星系の近くにきますが、コンタクトを取りますか?」
「あ、ああ、そうだな。そうしてくれ」
「了解」
彼女はポンポンと通信機器を操作すると、程なくして艦長席を振り返る。
「キャプテン、出ました。メイン・スクリーンに映し出します」
「うむ」
ブリッジ内の者達がスクリーンを見つめる。
すると、そこに年若い青年の顔が映し出された。
肩まで垂らした白金の髪は真っ直ぐで、キリッとした眉は綺麗な弧を描き、口元や鼻筋は整っており、ぱっちりと開かれた瞳は黒緑、全体的に神々しいまでの気品を湛えたその姿は、まるでどこかの王女と言っても過言ではない。王子ではなく、王女というのもどうかと思うのだが、ファイヤーバードの面々は皆そう思ったのだった。それほどスクリーンに映った人物は美し過ぎた。ブリッジ内の者達はその人物に魅了され、言葉を失っている。
そんな中、スペースはスクリーンに映る人物に声をかける。
「私は宇宙戦艦ファイヤーバード艦長スペース・ドラン・トラベラーと申します。この度は急な訪問に応じていただき、有り難く存じます」
「ようこそバルジー星系にいらっしゃいました。私はこの星系を統括しているバルジー星の王太子アンドルーです。父王のドルーゴ・バルジーは病床に伏しており、現在私が代わりに執政を任されております。それで、早速ですが、どんな御用件でこちらへいらしたのでしょう。御存じの通り、この星系はビラン帝国の管轄となっておりますが」
澄んだテノールの声だ。
声まで麗しい。
「率直に申しましょう、アンドルー王太子。我々、銀河連邦の物資を運ぶ貨物船バッファローが、今現在、私どもの停泊しているこの場所で突然消失してしまったようなのですが、何か御存知ではないでしょうか?」
「トラベラー艦長!」
すると、突然、スクリーンに映ったアンドルーの顔色が変わり、叫んだ。
「艦長、早く、そこから離れるんだ!」
「えっ?」
「あいつに……あいつに飲みこまれてしまう!」
アンドルーがその美しい顔を歪ませて叫ぶと、テレサの叫び声が上がった。
「キャプテン! 2時の方向から何か得体の知れない物体が迫ってきています!」
「なんだと!」
いつの間にか、スクリーンから若き王子の顔は消えていた。
「テレサ! メイン・スクリーンにそれを映せ!」
「はいっ!」
そこに映し出されたものを見て、一同驚愕した。
スクリーンいっぱいにブクブクした泡のようなものが映し出された。それがのたうちまわって蠢いている。
「な、なんだぁ、ありゃあ。生きてんのか?」
チャーリーが素っ頓狂な声をあげた。
「全員、戦闘配置につけ! ビリー、ありったけのフル回転で逃げるんだ。副長、あいつをスキャナーにかけろ!」
「了解」
「キャプテン!」
ダークネスが答えたのと同時にテレサがありったけの声を張り上げた。
「バルジーから入電です!」
「わかった、わかった、わかったからそう怒鳴らんでくれ」
「申し訳ありません。ええと、貴艦は直ちにバルジーに着陸するように、とのことです」
それを聞いてすぐさまスペースはビリーに命令する。
「ビリー、バルジーに針路を取れ」
「了解!」
こうして、ファイヤーバードは惑星バルジーに緊急着陸を果たすこととなった。




