第8章「竜の見る夢」第7話
「移送室よりブリッジへ。キャプテン、これ以降、一切通信はいたしませんので、よろしくお願いします」
「わかった。健闘を祈る。トラベラーより以上」
頑張ってくれよ、そして、くれぐれも気を付けてな、と、彼は心の中で祈った。
間もなく、ブリッジのインターコムが鳴った。
「グレイトよりキャプテンへ。ダークネス副長の移送、完了しました」
「そうか、御苦労だった、機関長」
スペースは指令席に座ったまま、神に祈るような気持ちで手を組んだ。
その祈りのポーズは、地球に限らず、不思議と全宇宙で同じようなポーズをしている。
「神よ。彼を無事我々に返して下さい」
スペースは目を閉じて祈った。
一方、ファイヤー・バードはダークネスを移送と同時にエール・ドラに攻撃をしかけ、副長の移送の痕跡を誤魔化す。今まで静観していた敵艦がいきなり攻撃すれば不審に思われるが、現在、メリド星は攻撃され、その援護という形で連邦軍が攻撃してくることは向こうも承知しているはずだ。なので、ダークネスはエール・ドラのハッチ近くに身を寄せ、ハッチが開いて戦闘機が出てくるのを待った。
間もなく、ハッチが開き、戦闘機が飛び出してきた。
彼はスルリと中に潜入を果たす。
そして、魔性の箱を探し始めた。
「さて」
彼は考える。いったいどこに隠したか。
すると、その時、誰かがやってきた。
ダークネスは物陰に身を隠す。
「……あれは機関室に……艦長は返せって言ってたが、もったいない。あんな便利なもの返すなんて。だいたい、俺がどんな苦労して盗んできたか、わかってないんだ……」
ぶつぶつ呟きながらやってきたのは、副長のヴォルドウだった。
ダークネスは魔性の箱が機関室にあるのだと知った。
恐らく、この男がやってきた方向に機関室はあるのだろう。
男が通り過ぎてから物陰から出ようとしていたのだが、立ち上がり、歩き出そうとした時に、何を思ったのか、ヴォルドウは戻ろうとして振り返ったのだ。
「き、貴様は誰だっ!」
奴はレーザー銃を取り出すと叫ぶ。
「おっおまえはっ連邦軍だなっ! どうやって潜り込んだんだっ!」
そして、レーザーをぶっ放す。
しかし、それはまったく見当違いの方向へ向けられており、ダークネスを傷つけることはなかった。
みると、ヴォルドウはガタガタと震えている。
それに気づくと、ダークネスは素早く動いて、ヴォルドウに当身を食らわせ気絶させた。
「ビランの軍人にしては臆病者だな。下級士官だったのか?」
まさか、エール・ドラの副長とは思わない。
ダークネスは倒れたヴォルドウに同情の視線を向け、踵を返すと機関室へと急いだ。
機関室の一画にその箱はあった。縦横30センチほどの正方形の箱だ。色は銀色。何の変哲もないただの箱のように見える。
「さて、これをどうするかが問題だな。できれば持ち出したいのだが……」
その時、人の気配を感じて、ダークネスはハッとその場から飛びのいた。
すると、レーザー光線がダークネスの傍をかすめ、魔性の箱を直撃したのだ。箱は見事に粉々に破壊されてしまった。
「ぎゃあっ!」
ヴォルドウの叫び声が上がる。
そして、ダークネスのことなど目もくれず、一目散に壊れた魔性の箱に駆け寄った。
「ああ、ああ…どうしよう……こ、殺されてしまう…今度こそ、ヴェウン様に…ああ、ああっ!」
ヴォルドウは壊れた魔性の箱に覆いかぶさって泣きわめいた。
「なんだ、この男は…」
ダークネスは呆れ果てた表情を浮かべる。
「この艦の艦長も気の毒に。こんな無能な部下を持って」
彼はそう呟くと、素早く機関室を抜け出した。
それに気づかず、ヴォルドウはまだ泣きわめいていた。
ダークネスはハッチにやってくると、戦闘機の陰に隠れながら開閉レバーへと近づいていった。
「何者だ!」
しまった、みつかったか、と彼は思ったが、だっとばかりに駆けだすと、レバーをいっぱいに押し上げた。
「やめろー!」
一気にあたりは真空状態になり、叫んだ者もダークネスも宇宙空間に放り出されてしまった。だが、ダークネスも叫んでいた者もスペーススーツを着用していたので、命に別状はなかった。敵艦の者も収容されただろうが、ダークネスも無事、ファイヤーバードに収容された。
それから、ダークネスが着替えを済ませてブリッジ内にやってきた時。
「キャプテン、敵艦がコンタクトを求めてきています」
「よし、メイン・スクリーンだ」
スクリーンにはヴェウンの精悍な顔が映った。
だが、彼の顔は怒りからか表情が強張っていた。
「私はエール・ドラの艦長のヴェウンという。貴殿がファイヤーバードの艦長か?」
「ええ、そうです。トラベラーと言います」
ヴェウンは頷くと、続けた。
「では、トラベラー艦長。ゴーランド星人にお伝え願いたい。お借りした魔性の箱は、此方の艦の副長の不注意で大破してしまった、と。貴殿が仲介してくださると有り難いのだが」
「………」
あれは副長だったのかとダークネスが表情を変えずに驚いていたところ、スペースがヴェウンに応える。
「よろしいでしょう。それが我々の仕事の一つでもありますからね」
「痛み入る。賠償など話が決まったら、こちらに連絡を頼む」
ヴェウンが通信を切り、スペースは傍らのダークネスに視線を向ける。
「どうやら君が潜入したことは不問に付すようだな」
「そのようですね」
「まあ、それはそうだろうな。魔性の箱を破壊したのは向こうだしな」
スペースはニヤリと笑う。
すると、その顔が不審そうに変わった。
「どうした? テレサ中尉?」
スペースの言葉にダークネスもテレサへと視線を向ける。
彼女の目は大きく見開かれ、瞳は一層赤さを増し、身体はまるで硬直しているかのように動かなかった。
そして、今は何も映していないスクリーンをじっと見つめていたのだ。
「テレサ!」
スペースが叫んだ。
「あっ…はっはいっ、なんでしょう、艦長!」
「大丈夫か?」
「ええ、はい、大丈夫です、ご心配おかけしました」
弱々しく笑う彼女を、恐らくスペースは心配していただろうが、それでも何も言わず、彼女に命令した。
「そうか、それなら、メリド星を呼び出してくれ」
「は、はいっ!」
彼女はもうもとに戻っていた。
それをダークネスはじっと見つめている。
それに気づいているのか気づいていないのかわからないが、テレサは通信機をいじくる。
「キャプテン。メリド星からこちらへの移送許可の要請が出ています」




