第8章「竜の見る夢」第6話
赤い惑星がスクリーンから消えると、かわりにガイヌンが映った。
彼は困惑した表情で口を開く。
「何事ですか、トラベラー艦長」
「突然、失礼します、ガイヌン議長。ビラン帝国があなた方の星に何らかの危害を加えようと、こちらに向かっています。私どもに手助けをさせてください」
彼はそう言うと、スクリーンに映る初老の男を真剣な眼差して見つめた。
すると、議長はひとつため息を吐くと答えた。
「キャプテン、ご厚意は大変嬉しいのですが、どうか、我々のことは捨て置いてください。あなた方の助けはいりません。我々の力をお忘れになったのですか?」
「いいえ、いいえ、それはもう承知しております。そうですね。では、私どもはこちらで待機しておりますから、もし、もしも、あなた方に危険が迫れば、その時は手助けさせて下さい」
スペースの必死の説得に、ガイヌンは苦笑する。
「わかりました。その、もしも、が本当に起こった場合には、よろしくお願いします」
「ありがとうございます、ガイヌン議長」
スペースは深々と頭を下げた。
一方こちらはメリド星を目指すビラン帝国第一艦隊リーダー・シップ「エール・ドラ」のブリッジ内。
「どうだ、ヴォルドウ副長、例の物は手に入ったか」
「はっ、キャプテン、おまかせください。ちゃんと盗んできました」
「言葉に気をつけろ!」
とたんに叱責が飛ぶ。
「盗んできたのではない、借りてきたのだ。もちろん、あとでおまえが返しに行くのだぞ」
「そ、そんな……」
「返しに行くのが嫌だというのなら、それはそれで別にかまわないが。その時は覚悟はできているな?」
「こ、心得ております。ちゃんと返しにいきます」
「よろしい」
キャプテンと呼ばれたその男は、エール・ドラの艦長でヴェウンという。
彼はメインスクリーンに映るメリド星を指令席からじっと見つめた。
年の頃は40代、ビラン帝国の人間らしい、やや黒めの肌、輝く銀髪、すらりとした、それでいて逞しい身体を持ち、瞳は燃えるような赤色だ。
「副長、一時間後には総攻撃を開始する。それまでに例の装置を使えるように準備しておけ」
「はっ、わ、わかりました!」
ヴォルドウが顔色をなくしてそう答えると、ヴェウンはレーダー係に問う。
「連邦軍は?」
「動く気配はありません。どうやら手出しはしないつもりのようです」
「うむ…しかし、この作戦が成功すると、奴らは一斉に攻撃してくるだろうな」
そう考え込んだヴェウンに、いまだにブリッジから出ていないヴォルドウが「心配なさることはないでしょう。我々には例の…」と言いかけたところ、ヴェウンの怒鳴り声が轟く。
「阿呆!」
ヴォルドウはギャッとばかりに飛び上がった。
「連邦軍を甘く見るな。それに、よく見てみろ。あの艦は何に見える?」
ヴォルドウはびくびくしながら、スモール・スクリーンに目を向けた。
「ひっ…あ、あ、あ、れ、あれは…ファ、ファイヤーバード!」
ヴォルドウは今にも泣き出しそうだ。
(まったく!)
ヴェウンは心で舌打ちをする。
よくもまあこんな無能な男が副長になったものだ、と。
親のコネで出世した奴は自分にはいらない。
エール・ドラの艦長ヴェウンはギッと弱虫男を睨み付けた。
「いいから、早く準備してこいっ!」
「は、はいぃぃぃ」
ヴォルドウは這う這うの体でブリッジから出て行った。
それからずいぶんと時間が過ぎ、ファイヤーバードのブリッジには重苦しい空気が流れていた。
「まだなのかよぉ。待たせやがるなぁ」
ついに我慢しきれなくなったチャーリーが呻いた。
ダークネスがそんな彼に何か言おうとすると「始まったぞ!」と、ビリーの声が上がる。と、同時にエール・ドラから放出されたレーザーが、なんと、信じられないことにメリド星の一画を破壊した。
「どーいうことだ!? なぜ彼らはじっとしてるんだ?」
ビリーが叫ぶ。
その間にも、レーザーはメリド星に降り注ぎ、破壊される。
スペースは叫ぶ。
「テレサ! メリド星だ!」
「はいっ、すでに出ております。スクリーンを!」
メインスクリーンがパッと輝くと、見るも無残なガイヌンが出てきた。
髪は乱れ、真っ白い服はボロボロになっている。そんな彼の後ろは炎の渦だ。
「どうしたんです? 議長! これはいったい…」
「キャプテン、す、すべての武器がきかないんだ。動力もすべてストップのまま動かない。どうにかしてくれ。このままでは我々は滅んでしまう。助けてくれ、キャプテン!」
スペースは、やれやれと思った。
自信過剰がこんな惨めな結果を招くのだ。
「わかりました。みなさんは、安全なとろこにできるだけ早く非難してください」
「頼みますぞ、キャプテン」
彼はそう言うと、スイッチも切らずにそのまま駆け去った。
「ミスター・ダークネス。どう思う?」
傍らに立っているダークネスにスペースは聞いた。
「なぜ動力が止まったのかはわかりかねますが、攻撃は微妙に被害を最小限にするような攻撃の仕方をしているようです。恐らく、あちらの艦長はメリドに脅しをかけているだけでしょう」
「やはりな。それにしてもどうして動力が止まってしまったんだろう」
「あれじゃないですか、副長が超能力使ったんじゃないんですかい?」
チャーリーが冗談交じりにそう言った。
そう、ダークネスには多少の感応能力があるといわれている。
それはそれほど特別な能力というものではなく、彼に限らず、特に地球人にはそういった能力を持った者が多いということだ。
「感応能力程度で物の動きを止めるなんてことはできないのだよ、マック中尉」
ダークネスが不本意な表情でそう言う。
すると、スペースが突然、座席から立ち上がり「そうか! その手があったか!」と叫んだ。
周りの者たちが目を丸くして自分達の上官を見つめる。
「そうなんだ、そうそう。ああ、なんということだ。あいつらめ、大変な物を持ちだしてくれたな」
彼はブリッジ内をウロウロと歩き回った。
「キャプテン、キャプテン・トラベラー!」
「うん? ああ、ダークか」
「どうしたんですか? 何かわかりましたか」
「それがな…」
スペースはもったいぶった物言いで続けた。
「君も知っているだろう? 魔性の箱を。ゴーランド星の秘宝だよ」
「ええ、話には聞いています。テレパシー増幅装置だとか。あ、そうですか。そういうわけなんですね」
「そう。そうなんだよ」
「キャプテン! 副長と二人だけで納得しないでくださいよ!」
ビリーがたまらなくなって叫んだ。
すると、ダークネスが訳知り顔で説明を始めた。
「ゴーランド星の秘宝、魔性の箱はいわゆるテレパシー増幅装置のようなもので、その昔、ゴーランド人が創りだした文字通りの箱なのだ。中の構造がどうなっているのかもわかっていない。調べようにも現在のゴーランド人は、それを神のように崇め祀って、絶対に他星人には触らせないのだ。魔性の箱は超能力のない人間でも、思ったことを増幅させ、超能力と同じような力を促進させると言われている。わかったかね、ヤーン中尉」
「ええ、ええ、よーっくわかりましたよ、ミスター・ダークネスっ」
そんなビリーの嫌味にも特に何も返さず、ダークネスはスペースを振り返った。
「で、どうなさいますか、キャプテン?」
「うむ。そうだな。下手に近づくと我々もドカーンだ」
「では、私が敵艦に潜入しましょうか?」
「は?」
ちょっとそこまでといった雰囲気で言ったダークネスに、スペースはポカンとした表情を見せた。
「ステルススーツで敵艦に潜入します。できれば魔性の箱を持ち出せればよいのですが、恐らく破壊することになるでしょう。まあ、もしそうなったとしても、非はビラン帝国にあります。我々には咎はないでしょう。なので、キャプテン、潜入の許可を願います」
スペースは頭を抱えたが、それ以外に策はないと思い、許可を出すしかなかった。
「わかった。潜入したあとは副長の判断に任せる」
ダークネスは静かに頷いた。




