第8章「竜の見る夢」第4話
一方スペースの方はというと。
「よくいらしてくださったな、トラベラー艦長」
バリトン星総統がニコニコしながらスペースに話しかけてきた。
それを、スペースは無表情で見つめると淡々とした口調で返す。
「私が何の為にこちらに来たのかよく御存知のはずですよね」
「ああ、わかっとるよ。物資輸入の件だろう。私たちだって苦労してるのだよ。もう少し軍備を拡大したいのだ。宇宙に進出する為にはね」
彼はそこでいったん言葉を切るとあからさまな溜息をついて続けた。
「それなのに、ソプラ星の連中はどうかしているよ、奴隷たちに情けをかけてやるとは。なあ、艦長、君からも彼らに話してくれないか」
それを聞き、スペースは腸が煮えくり返る思いを抱き、総統を睨み付けた。
だが、総統はそれには気づいていないようだ。
「どうかねえ、艦長」
「………総統、お言葉を返すようですが、私には到底、承服しかねることです。あなた方にもわかっていらっしゃるはずだ。宇宙に進出する為には銀河連邦の承認が必要だということを。もし、承認なしで進出を進めようとするならば、連邦は黙ってはいません。ですから、過剰な物資の要求はお控え願います」
すると、総統はチッと舌打ちをした。
とてもこういった場でするような行為ではなかったが、スペースは黙ったまま何も言わなかった。
その彼の態度も気に食わなかったのか、突然、総統は懐から何かを取り出す。
「あっ!」
声をあげたのはスペースが座っている場所の傍らに立っていたチャーリーだった。
総統はビームガンを持っていた。
彼はすかさずそれを発射する。
そんな至近距離から武器を使うとは誰も思わない。というか、対談中にそんな暴挙に出るとは。
幸い、スペースの長いもみあげの髪の毛、右側の一房を飛ばしただけで、身体には傷はつかなかったのだが。
「総統。御自分の要求が通らなかったからといって、暴挙に出るとは如何なものか。これは統治者としては許されざることですよ。あなたも御存じの通り、銀河連邦軍の艦長は先々の惑星での裁判権も持っております。あなたは無防備の相手に何の理由もなくビームガンを発射した。これは殺人未遂罪です。あなたを総統職から罷免いたします。チャーリー、彼を捕縛せよ」
「了解しました、艦長」
それから元バリトン星総統は、この星の司法へと引き渡され、しかるべき処置をされることだろう。もっとも、バリトン星も銀河連邦に属しているので、スペース艦長の下したことがそのまま施行されることだろうことは火を見るより明らかではあるのだが。
その後、新総統が任命されたが、この総統は穏健派で、ソプラ星と手を取り合って両星を盛り上げていくようになっていったという。めでたしめでたし、だ。
が、一人「めでたしめでたし」とはならなかった者がいる。
「ええええーーーー引っ張る髪の毛がないいいいーーーー」
テレサの叫び声がブリッジに響き渡った。
彼女の叫び声にスペースは苦笑しつつ、申し訳なさそうに眉を下げた。
彼の立派なもみあげは元バリトン星総統にビームガンで切り落とされ、片方だけになってしまったために、スペースはもう片方のもみあげも切り取ってしまった。その上、腰まであった見事な銀髪をバッサリ切ってしまい、今では長さは肩よりも上だ。
「そのうちまたもみあげは伸びるかもしれないし、もしかしたら伸びないかもしれない。だが、髪も別に伸ばしたくて伸ばしていたわけじゃないしな。これを機に短くしてしまおうと思ったんだ」
「えええええ……」
テレサは涙目でスペースを見上げた。
その表情は大いに不満げだ。
その姿はまるで子犬のようで、見る者を惹きつけずにはいられないようで、スペースも思わず、かわいいと思ったようだった。
「ああ、こほん、まあ、もみあげは無理かもしれないが、髪はまた伸ばそうと思っているよ」
と、そんな愚にも付かぬことを言っていたら、テレサの通信盤に何かメッセージが入ったようで、情けない顔をしていた彼女の表情がとたんに引き締まった。
「……キャプテン、銀河連邦から命令通信です」
スペースもすぐさま表情を引き締めると答える。
「なんと言ってきた?」
「艦の現在位置から針路117.0の方向へ向かって進行し、生命体、しかも高度な生命体のいる惑星を探すようにとのことです」
テレサは通信文を読み終えるとスペースに顔を向けた。
「正確な位置はわかりません」
「そうか。どうやら今度は和平交渉に行かねばならんようだな。こういう形式ばったことはあまり好まんが…」
彼はやや考え込んだが、航海長のビリーが自分を見ているのに気づいて言った。
「ヤーン中尉。取り舵いっぱい、針路117.0へ、ワープ3」
「はいっ! 針路117.0へワープ3!」
ファイヤーバードはゆっくりと艦体を旋回させると、また新たなる冒険へと向っていった。
それから数日後、ファイヤーバードは未知の惑星を発見した。
その惑星の外見は、ダークネスの故郷の太陽系に属している赤い惑星に酷似していた。いわゆる火星と呼ばれる惑星である。
スペースは副長に声をかける。
「ミスター・ダークネス。感知器に生命反応は?」
「はい。惑星の赤道付近に高等な文明の発達が見られます、それもかなりの、です」
トラベラーは即座にテレサに命令する。
「テレサ中尉。呼びかけの送信チャンネルを開け。知的生命体なら、この送信に気づくだろうからな」
「了解しました」
するとダークネスがスペースの傍らにやってきた。
「キャプテン、さらに感知器はあの惑星の住人は人間型であることを示しています。
それに対して彼が頷こうとすると、テレサの声が上がる。
「キャプテン、送信に反応がありました。コンタクトを求めますか?」
「よし、接続してくれ。スクリーンにもだ」
スペースは目の前のスクリーンを凝視した。ダークネスもそれに倣う。
しばらくして、スクリーンには一人の男が映った。
年の頃は50代。黒い髪にブルーの瞳。彫が深く端正な顔立ちをしている。そして、真っ白でキラキラ輝く研究用白衣のような服を着ている。男のバックは何もないブルーで、どうやら室内を見られないように画像操作をしているようだ。
それをさっと確認して、スペースは口を開く。
「私は銀河連邦所属の宇宙戦艦ファイヤーバードの艦長スペース・ドラン・トラベラーと言います。我々の意図は平和的なものです。どうか平和交渉の許可を頂きたい」
すると、相手の男がにっこりと微笑んだ。
それだけで何も言わない。
「…………」
スペースは傍らに立つダークネスに囁いた。
「宇宙共通語が通じないのだろうか」
「さあ、なんとも言えません」
「心配せずともよろしいです、キャプテン・トラベラー。充分に理解しております」
突然、スクリーンに映る男が言葉を発した。
「だが、あなた方は当分、ここに降り立つことはできないでしょう」
「えっ?」
「艦の後方をご覧なさい」
すると、監視スクリーンを見ていた航海長のビリーが「大変です、艦長!」と叫ぶ。
「ビラン帝国の宇宙戦闘機です!」




