第8章「竜の見る夢」第2話
「テティとは草原に住む謎の住民たちのことですね」
苦渋の表情で語っていた総統を同情の目で見つめながらスペースは言う。
「そうだ。彼らはいつのまにか草原に住み始め、最初は言葉も通じず、なかなか意思の疎通ができなかったが、互いに諦めることなく交流を続けていくことでやっと手を取り合うことができた。それでも彼らは我々の都市ではなく、自分達で暮らしていきたいと草原で生きていくことにし、その草原で採掘される鉱物を生活の糧として細々と暮らしていくことになったのだ。その鉱物をバリトン星が欲しており、今までの採掘以上を求めてくることになった。だが、テティたちも人口は多くない。要求された採掘量は無理なんだよ。それを先方に訴えたのだが、まったく受け入れてはもらえなかった」
「わかりました」
話を聞き終ると、スペースは頷いた。
「私が話し合いに参りましょう」
「そうか、行ってくれるか、すまない」
スペースはもう一度頷くと、ソプラ星総統は「期待しています」と破顔した。
「総統は臆病なところがあるのですね」
スクリーンから総統の姿が消えると、後ろで手を組んで直立していたダークネス副長が無機質な声音で言った。
すると、スペースが表情を歪ませる。
「ああいった話し合いは当人同士よりも第三者の方が拗れないものなんだよ。決して彼が臆病者というわけじゃない」
彼の声には怒気が滲んでいた。
「君の言い方だと相手は侮辱されたと思ってしまうぞ」
「侮辱するつもりはまったくありません。私は総統をむしろ尊敬していますよ。どこの誰とも知れない民族をも受け入れ、優遇しているのですからね。それは尊敬に値しますから」
「では、なぜ…」
「私は真実を言ったまでです」
「………」
スペースはまだ何かを言おうとしたが、何も言えなかった。
ダークネスはそんな彼をじっと見つめると、目を伏せながら言った。
「失礼します、艦長。部屋で調べ物がありますので」
そうして彼はブリッジを出て行った。
「ダーク……」
すると、テレサは心配そうに副長の名を呟くと「艦長」とスペースを振り返る。
「私も少し席を外していいでしょうか」
スペースは無言で頷く。
テレサも彼に頷いて見せてから静かにブリッジを出て行った。
ダークネスは自室で様々な書類に目を通していた。
すると、部屋のブザーが鳴り、訪問者を告げた。
彼は自室のドアをデスクのスイッチで開ける。
入ってきたのはテレサだった。
彼はそちらに目もくれず、黙々と書類に目を通す。
すると、テレサは彼の座るデスクに近づくと、赤い液体の入ったコップを置いた。
「ダーク、あなたの好きなトマトジュースよ」
「ああ、ありがとう」
彼は置かれたコップにチラリと視線を向けると、再び書類に目を通す。
そんな彼をじっと見つめていたテレサは口を開いた。
「ダーク、どうしてあなたは艦長にいつも反抗的なの?」
彼はそこで、おもむろに書類から顔をあげた。
「反抗的に見えるかい?」
彼女はゆっくりと頷いた。
ダークネスは書類を脇にどけると、コップを手に取った。
そして、彼女に座るよう促した。
「私は何も好き好んで艦長にあんなことを言ってるんじゃないよ。そのことはわかってほしい」
彼の言葉に彼女は頷く。
それを見て、彼も頷く。
「私は艦長を心の底から尊敬している。あの人には私にない行動力というものがあるからね。それに人間性にしてもあの人はとても優しい人だ。しかし、その優しさが時には仇となる時があるんだ。私はそれを危惧しているんだよ。私の父のようになってほしくないんだ」
彼は手にしたコップの赤い液体を一口飲む。
トマトジュースはダークネスの故郷のトマトという野菜のジュースだ。
それはかつて彼の父親が好きだったものだと聞いた。
たから、テレサはよくこのジュースを作って彼に持ってくるようになった。
「あなたのお父さん、旧宇宙戦艦ファイヤーバードの艦長だったわね」
「そうだ。星間戦争に巻き込まれ、その優しさ故に敵に憐れみを見せてしまったがためにファイヤーバードごと破壊され、命を散らしてしまった。自分だけでなく、多くの部下まで犠牲にしてしまったのだ」
あれで、地球人は軍人に向かないとまで言われてしまい、銀河連邦内でも地球人を入隊させることに及び腰になったという。
だから、新ファイヤーバードには地球人はダークネスただ一人しか乗艦していない。ダークネスは地球人の汚名を雪ぐために、あえて厳格で理論的に物事を進めていくようになっていった。裏では「アンドロイド副長」とまで言われている。副長の心臓には機械が詰まっているとまでも。
そんなダークネスをいつも心配していたのはテレサだけだ。
彼女はただ一人の地球人である彼に深く同情していた。
それは男女の愛情と違っていて、姉が弟を心配するのにとても似ている。
そして、ダークネスの方はというと、彼はテレサと接すると何かしら心の安らぎを覚えていた。
艦内には彼の心を理解する者はおらす、どうしても疎外感を拭い去れなかったので、そんな彼に優しく寄り添ってくれるテレサは心の癒しとなっていたのだ。
その後、スペースがバリトンへ向かうにあたり、艦長に同行する者をチャーリーが指名された。そこで、副長であるダークネスは移送降下を願い出た。本来ならトップである艦長がいない間は副長が艦の指揮を取らねばならないので、艦長がいない時に艦を離れることはほとんどないはずなのだが。
「どこに行く気だ?」
スペースはダークの顔をじっと見つめて聞いた。
「ソプラ星で少々調べたいことがあるのです。どうか御許可願います」
スペースは少しの間考え込むと口を開く。
「いいだろう。だが、単独行動は駄目だ。誰か助手として連れて行きたまえ」
「ありがとうございます」
それからすぐに艦長とチャーリーはバリトン星総統の待っている中央会議堂まで直接、移送降下していった。
(どうか御無事で)
二人を見送った後、ダークは心で祈る。
彼には何となくスペースに悪いことが起きるような気がしてならなかったからだ。
「何事も起きなければいいのだが…」
彼がそう呟くと、傍らにテレサがやってきた。
「ダーク、ソプラ星に降りると聞いたわ」
それに頷いてみせる。
「助手をつれていくことになってるみたいね」
彼女のその言葉に彼は表情を崩さず「ついてくるかい?」と言うと、テレサは無言で頷いた。




