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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第8章「竜の見る夢」第1話

 その竜は夢を見ていた。

 目の前に広がる深遠なる宇宙の瞬かない星々。

 そんなどこまでも広がる空間にその竜は目を閉じて漂っていた。

 立派な翼も広げたまま、今はそれを羽ばたかせることもなく、そして、まるで枝のような形をした二本の長い角を生やし、その雄々しい姿を何もない宇宙空間に漂わせていた。

(私は何故ここにいるのだろう)

 自分は何者だろう。

 そして、どうしてこんな場所にいるのだろう。

「あなたは選ばれたのだ」

「!!」

 突然、どこからともなく声がした。

 その声は低く高く不思議な声だった。

「あの世界で少し傷ついたあなたにはこの世界でしばらく別の生き方をすべきだな」

 その声は、なぜかとても優しく聞こえる。

 愛を、多彩な愛を経験しなさい、そんな声とともに、竜は深く深くその意識を沈めていった。



「補助エンジン作動……発進まであと5分!」

「メインエンジン作動5秒前、4、3、2、1、0!! メインエンジン作動…発進まであと1分!」

「メインエンジン、エネルギー増大! 発進まであと30秒!」

「発進レバー用意!」

「発進レバー用意します!」

「ファイヤーバード発進!!」

「ファイヤーバード発進します!!」

 そして、ファイヤーバードは空中に浮かび上がり、あっというまに大気圏を離脱した。

「ふうーたまらんね、この緊張感」

 しし座レーグルス恒星系ガルンダ出身の航海長のビリー・ヤーンが、汗をふきふきそう言った。見事な巻き毛をした彼の髪の毛もいつも以上にくるくるとしているようでもあった。すると。

「ヤーン中尉、もう緊張なんかしなくていい。地上に落ちる心配はないからな」

「はい、艦長!」

 ビリーとは対照的な長い銀髪を背中に流し、なぜか両こめかみから15センチくらいの長さのもみあげが揺れている。それは頭髪の色とは違い金色で、動く度にユラユラと振り子のように動き、人目を引く。そんな目立つ容姿を持つこの艦船の艦長であるスペース・ドラン・トラベラーは青い瞳で穏やかに部下を見つめていた。

 そんな時に艦長の背後にそっと近づく者が。

「いたっ!」

 その人物は艦長のもみあげをいきなり引っ張ったのだ。

「テレサ中尉! また君かっ、人の髪を何だと思ってるんだ」

「だって、艦長さんの髪の毛ってステキなんですもの。引っ張ってもみたくなりますわ」

「お…おう…そ、そうか?」

 テレサは、オリオン座リゲル恒星系リヴの出身だ。見事な赤い髪と浅紅色の不思議な色合いの瞳の持ち主だ。

 すると、操舵席のビリーに戦闘班リーダーのチャーリー・マック中尉が囁いた。

「あの鬼の艦長もテレサ中尉には形無しだよな」

「うん、まったくだ」

 といってにんまり笑っていると「何がまったくだって?」と、いつのまにか二人のすぐ後ろにスペースが立っていた。

「び、びっくりしたなあ。艦長、おどかしっこなしですよ」

 チャーリーは汗をふきふき言った。

 それから、スペースが彼らから離れると、チャーリーたちはホーッと安堵の溜息をついた。

「うー! オレ、殺されるかと思った」と、チャーリーが言うと「オレも…」とビリーも震え上がって言った。


 宇宙戦艦ファイヤーバードは、銀河連邦軍配属の自慢の艦である。

 艦長はさそり座アンターレス恒星系ベル出身の29歳のスペース・ドラン・トラベラー大佐、副長はG5太陽系地球出身の27歳ダークネス・ノブー・アイシックス中佐、テレサは25歳、ビリーとチャーリーは24歳、他にこの大きな戦艦を動かす多くの人々が乗船している。

 銀河連邦軍は近隣の星域の平和の為に尽力をつくしており、星間戦争等、あらゆる諍いを阻止する任務も担っている。

「艦長、ケンタウルス座プロキシマ・ケンタウリ恒星系の第三惑星バリトンと第四惑星ソプラの間に戦争が勃発しそうだという情報が入りました」

 副長ダークネスの言葉にスペースは頷いて見せると、部下たちにてきぱきと指示を与え始めた。

「これからケンタウルス座プロキシマ・ケンタウリ恒星系に向う。面舵10度で速度ワープ5!」

「面舵10度、速度ワープ5にします」

 航海長のビリーが復唱した。

 それからそれほどかからずにプロキシマ・ケンタウリ恒星系に到達した。

「艦長、指示をお願いします」

 ビリーの言葉にスペースは副長を振り返る。

「バリトンとソプラ、どちらと接触する?」

「はい、バリトンは非常に好戦的で、話し合いは無理かと思われます。反対にソプラは穏やかな気性の人々が多く、現在のトップであるソプラ総統は今回の戦争も回避したいとの思惑もあるようです」

 副長のダークネスがそう答えた。

「そうか。ならば、ビリー大尉、ファイヤーバードをソプラ星の周回軌道にのせる。テレサ中尉、ソプラ星を呼び出してくれないか」

「アイアイサー!」

 テレサの美しい指が通信盤の上でしなやかに踊ったかと思うと、彼女は艦長を振り返る。

「艦長、ソプラ星総統が、ぜひ、お話をしたいと言ってきています。メインスクリーンに映します」

 すると、正面のメインスクリーンにスペースとそれほど年が変わらない男の顔が映った。

 短く刈り込んた栗色の髪に意志の強そうな黒い瞳をした堂々とした人物だった。その人物が、挨拶をしようとしたスペースを片手で制して「挨拶抜きで用件を言わせてくれ」と言った。

「銀河連邦も知ってると思うが、我々ソプラ星はバリトン星に色々な物資を送っている。それというのも彼らの星は我々のように豊かではなく、同じ星系の星同士ということで、物資提供は友好の証ということになっているのだ。だが、これは表向きの事情で、正直、我々もあまり彼らに物資提供はしたくないのだ。確かに、多少の物資提供はしなくてはならないと我々も思ってはいる。だがしかし、年々彼らの要求は増加の一途をたどり、断りたくても彼らの強力な軍隊の事を思うと、それもできない。だが、今回、今までの何倍もの物資を要求してきたのだ。そのためにテティたちの苦労を思うと断るしかなかったのだ」

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