第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第12話
ノンと行動を共にしたいと言ったロビンを「それはできない」とは言えず、ノンはとりあえず彼に「わかった」と承諾した。
それから、かいつまんで自分のことを話しておくことにする。
地球を旅立った後から戻ってくるまでのあれこれを。
そうでなければ、ノンや旅立った仲間たちのことが地球の人々から忘れ去られていたこと、そして、どうして博士だけがノンたちのことを知っていたのかの説明がつかないからだ。なので、神の子であることや、今までの冒険のことも彼には正直に話しておくことにしたのだ。
「そうだったのですか。やっぱり想像した通りでしたね。神だったというのは想定外でしたが」
「ええ…まあ…そうね」
ロビンの言葉に曖昧に笑うノンだった。
「それで、ノリコ。あなたはこれからどうするつもりですか。どこかにまた旅立つのですか?」
そんな彼女の様子に頓着せず、ロビンは問う。
「そうね。地球の様子もこの目で見たし、弟の様子も確認できたので、これから再び、ジルベスターに帰ろうと思うの。約束事もあるし」
そう答えながら、彼女の脳裏には顔に傷のある尊大な男の姿が浮かんでいた。
そんな彼女を意味ありげな視線でジッと見つめながら、おもむろにロビンは口を開く。
「約束事って?」
「ああ、ええ、ここに来る途中で出会った人に戻ったらどんな旅だったか聞かせて欲しいって言われているの。あちらに帰るとしたら、そこに寄ることになるわね」
それからノンとアドルフとロビンは建物から離れ、ハーケンたちのいる村へと戻った。
ハーケンたちは見知らぬ男を連れて戻ったノンたちを不思議に思いながらも、ロビンの発見をノンから説明され納得する。
「それで、私たちはジルベスターに戻ろうと思うの。ハーケンやカインはどうする?」
「自分達はここに残るよ」
そう言ったのはカインだ。
ハーケンの誘いで宇宙に出てみたものの、やはり自分たちは大地で生きていくしかないと気づいたからだ。
「俺はここを離れるよ」
そう言ったのはハーケンだ。
そんな彼にノンニーナは寄り添っていた。
「彼女を連れて行くことになるが…」
「気にしないで」
そう言ったのはティムだ。
「父と話したのだけど、他の土地にもまだ人々はいると知ったので、そういった人たちに会いに行ってみんなで力を合わせていけないかなと思ってね」
そして、まず、ハーケンとノンニーナが地球を離れた。
それを見送ってから、次にノンたちが旅立つことになった。
「姉さん、お元気で」
アドルフはノンに別れを告げる。
ノンは複雑な思いで弟を見つめる。
「本当に私たちと行かないの?」
それにアドルフは首を振る。
「僕はここに残ってみんなを見守るよ」
じっと姉を見つめる。
その瞳には「もう二度と会えないけれど、お元気で」といった思いが込められているようだった。
それからアドルフはノンの横に立つロビンに視線を向ける。
「………彼女をよろしく頼みます」
「………わかった」
ロビンは真剣なまなざしでアドルフを見つめた。
「彼女は僕が全力で守るよ」
アドルフは頷く。
そして、アドルフはノンと別れの抱擁をした。それはトミーに対しても行われる。
「トミーも元気で」
「ええ、あなたも」
そうしてノンたちは希望号に乗り込み、地球を後にした。
地球を離れてからしばらく、ロビンがコントロールルームにやってきた。
「ロビン、どうしたの?」
あれから、ノンは彼と接するうちに、このロビンという人間にとある違和感を抱くようになっていった。この人間はただの人間ではない、と。というか、実は彼の名前がよく知ったある人と同じであるところから、もしかしてという疑惑が拭えなくなってきていたのだ。
そんな彼女の思いを知ってか知らずか、ロビンは言葉を続ける。
「うん、このままジルベスターに行くのではなく、オリオン座に行ってみたいんだよ。ダメかな」
「オリオン座に?」
「そう、オリオン座の恒星リゲルの第三惑星リヴ。僕が眠りにつく頃に地球と交易が始まったんだけど、実は僕もリヴに行くはずだったんだ。あれからどうなったかなと気になっててね。ちょっと様子だけでも見てもいいかなって」
「そうだったの。ええ、そういうことなら寄ってみることにするわ」
すると、そんな彼女をロビンはじっと見つめたまま「リヴ星にはね…」と、もったいぶった口調で話を続けた。
「リヴ星の悲恋といわれるものがあってね」
「え?」
ノンは首を傾げた。
「リヴ星の悲恋?」
彼女が興味を持ったことに満足したのか、ロビンが大きく頷く。
「リヴの女王の悲劇的な愛の物語なんだけれど。あなたは知らない?」
「リヴの女王? 私は知らないわねえ。あとでトミーにも聞いてみようかしら」
「神でも知らないことがあるんだね」
ロビンがボソッと呟くと、それを聞いたノンは不機嫌な表情を浮かべた。
「この宇宙そのもののアドルフであったとしても、自分の身体、つまり宇宙の全てを把握してるわけじゃないわ。人間だってそうでしょ。自分の身体に発病しても気が付かずに手遅れになることもある。それと同じよ。それに、その身体を管理する医者であっても詳しい検査をしない限りはわからないわけだもの。私たち神にだって知らないことだってたくさんあるのよ。神であると同時に私たちはこの宇宙に棲息する生き物たちと変わらないのだから」
「そうだよね。申し訳なかった。生意気なことを言ってしまって」
すると、ロビンは素直に謝った。
「こちらこそ、ちょっと大人げなかったわね。それより、ロビン、ちょっとあなたに聞きたいことがあるのよ」
「なんだろう……もしかして、僕の名前があなたのもう一人の弟とどうして同じなのかってことかな?」
「!!」
ノンの驚愕した表情を見て、ロビンは満面の笑みを浮かべた。
そして、あまりにも驚いた彼女が何も言えないでいるうちに彼はさらに驚くことを話し始めた。
「博士の養子になったことは事実だよ。あなたが集団催眠を施した後、僕は博士に接触し、彼の養子になった。いつか必ずあなたは地球に戻ってくるって信じてたから。アドルフは僕と双子だから、冷凍睡眠から目覚めたあとはすぐに僕の正体に気づいたようだけど」
彼はそこで一息つくと、表情を歪ませる。
「アドルフはもう長くない。というか、彼か僕かのどっちかがどっちかに取り込まれる運命だったようだよ」
「それはどういうことなの」
そこで初めてノンが声を発する。心なしか声が震えている。
「やはり、双子の世界っていうのは歪らしいんだよ。本来は一つの世界として生まれるはずだったらしい。それは創造主から直接聞かされたんだ。そして、僕とアドルフは本来の姿に戻ることになるらしい。つまり、ひとつの世界に、ひとりの人格に」
「そんな…そんなことが…」
「創造主は僕に主になれと言ったよ。僕はアドルフにって言ったんだけど、駄目だって言われた。いつか、僕が誰かとの間に子供ができた時、その時にアドルフは単独の生命体として生まれるから、それまでは僕の中に魂を取りこんでおくようにって。だから、それを聞いて僕は決心したんだ。ノンナ」
「!」
ロビンがノンをノンナと呼ぶ。
そうだ。彼だけは自分を「ノンナ」と呼んでいた。
ということは、やはりこの男はロビンなのだ。弟のロビン・シン。
「僕はね、君にアドルフを産んでもらいたい」
「えっ!」
「ずっとずっとノンナを愛してた」
「………」
「でもまあ、まだいいよ。まだアドルフは生きてるしね。あなたもまだ混乱してると思うし。アドルフが死んで、この世界が消滅して、僕はアドルフの魂を取り込み、彼の世界の全ての魂をぼくの世界に迎え入れる。そして、いつか、あなたを僕に振り向かせる。だから、ノンナ、覚えてて。僕があなたを心から欲してるって。僕は父のようにはならない。正々堂々とあなたに愛を乞うよ」
「…………」
尊大な態度で胸を張って宣言するロビンに対して、ノンは何も言えなかった。
言えるはずもなかった。
そんな彼らを乗せた大宇宙船希望号は、これからオリオン座へと向かうことだろう。
宇宙の運命を引き連れて、希望号はひた走る。
ノンの困惑を嘲笑うかのごとく。




