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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第11話

 ノンと、そしてアドルフはギョッとした。

 あまりにも突然だったので、二人は固まって動けなかった。

 その間、カプセルが軋んだ音とともに開いていく。

 普通、コールドスリープから目覚めるためには、そんなふうにいきなりカプセルを開くことはない。

 身体に負担がかからないように、バイタルチェックをしてから目覚めさせるのだ。

 しかも、カプセルを管理しているはずの者が何もしていないのに、勝手にカプセルが開くなんて、どう考えても異常だ。

 さすがのノンもアドルフも固唾を飲んでこの異常事態を見守った。

 カプセルは完全に開き切り、温度差からか、周囲に冷たい蒸気が立ち込めた。

 そんな中、横たわって目を閉じていた人物はゆっくりと目を開ける。

(あ、髪の色と同じなんだ)

 ノンは開かれた目の色を見て、心で呟いた。

 茶髪であるから、それと同じ色の瞳はそれほど不自然ではなかったが、何となく青い瞳のような気がしたからだ。

 なぜだろう。

 まったく見覚えのない顔であるのに、何となく懐かしい感じがするのは。

 そして、瞳が青くないのが、どうしてか違和感を抱いてしまうのだ。

 そんな不可思議な気持ちのままその人物を見つめていたら、その人はゆっくりと身体を起こした。

 動きは緩慢でぎこちなかったが、顔色は悪くなかったし、状態は悪くなさそうだ。

 すると、アドルフが声をかけた。

「君、気分はどうだ? 声は出せそうか? 僕の言葉がわかるかい?」

 茶髪の青年はゆっくりアドルフに顔を向けてから、それからゆっくりとノンにも視線を向けた。

「だい…じょう…ぶ、です」

 それから彼はノンをじっと見つめてからこう言った。

「あなた、が…ノリコ、ですか?」


 それから、その青年はアドルフにバイタルチェックをされる。もっとも、機械を使ってというより、アドルフは神の一員でもあるので、何も使わなくてもチェックはできるのだが。

「驚きました。何も問題なし、です」

「そう。それはよかったわね」

 弟の言葉に頷くと、ノンは再び青年に目をやるとニッコリ微笑む。

「私はあなたの言う通り、ノリコです。ただ、今はその名前ではなく、ノンという名前を使っています」

「ノン……」

 緩慢な物言いで彼は呟く。

「あなたのお名前を聞いてもいいかしら。自分の名前、憶えてますか?」

「僕は……ロビン、ロビン・ワタナベ……」

 アリテレスの姓を名乗った。

 やはり彼はアリテレスの養子なのだ。

「僕は、義父の代わりに眠りについた。いつか、彼の義娘に会えることを願いつつ……そうか、やっと……やっと僕はノリコに会えたんだな」

 彼は、ロビンは、泣きそうな表情で、ノンを見つめた。

 そんな彼を憐みのこもった目でノンは見返した。

 義父の願いを叶えるためにコールドスリープをすることに異存はない。

 だが、義父の願いは無謀だった。

 それは全力で止めるべきことで、いわんや、叶えるために自分の人生や命まで犠牲にすることではない。

 こうやって無事に目覚められなかったかもしれないのだ。

 そうだった場合、完全に犬死だ。

「義父の気持ちはとても嬉しいとは思うけれど、自分の命をそんな無謀な賭けに使って欲しくなかったし、ましてや、それを養子であるあなたにさせるべきじゃなかった。あなたも、義父に諦めさせるべきだった。もしかしたら、あなたは死んでたかもしれないのよ」

「でも、死ななかった。そして、あなたにも会えた」

「それは結果論よ!」

 ノンは思わず声を荒げる。

「僕はね…」

 ロビンが静かに立ち上がる。

 ノンの前に立つ。

 かなり背が高い。

 頭一つ分は高いだろう。

 おかっぱの茶髪は肩の上でゆらゆら揺れている。

 茶色い瞳が強い意志を感じさせるように光り、ノンの目を射抜く。

「幼い頃から義父にあなたのことを話されて、ホログラフは残っていたから、どんな容姿か声かはわかってはいたし、義父からあなたの性格や細かい仕草とか、そんな話をずっと聞かされて、まるで刷り込まれるようにあなたという人に興味を持つようになっていったんだ。今思うと、義父は妄執に取り付かれていたのかもしれないね。けれど、それを不思議にも思わず、僕もノリコという人物に惹かれていった。この人にどうしても会いたい。会いたくて会いたくて、とにかく、もう限界がきていたんだ。そんな時に義父がコールドスリープをすると言い出した」

 そして、ロビンは義父のためではなく、自分がノリコに会いたい一心で、義父の代わりをかってでたのだ。

「そんな……死ぬかもしれないのに…」

「義父も僕もそんなことはわかっていたんだ」

 眉を下げて泣きそうな表情を見せ、ロビンは続ける。

「それでもいい。ノリコに会えないのなら生きていてもしょうがない、そこまで思うようになっていったんだよ義父も僕も」

 そして、コールドスリープをしたら確実に死ぬであろう博士を説得して、自分をコールドスリープさせることに成功したのだった。

「そうまでして……」

 話を聞き、ノンは感動した。

 そこまでの執着を向けられることは、確かに自尊心をくすぐられる。

 それは人間であろうとも神であろうとも変わらない。

 ましてや、この世界の神はもともとが人間だった者たちだ。

 人間が特殊な能力を持ったというだけに過ぎないのだから。

「それで、そうまでして会いたかった人に会えた君は、これからどうするつもりなんだい?」

 ノンとは違い、蚊帳の外であるアドルフは何の感動もなくロビンに問う。

 そんな彼に真面目に頷いて見せてからロビンは答えた。

「ノリコと一緒にいたい」

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