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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第10話

「驚かせて申し訳なかったわ」

 ノンが苦笑しつつそう言った。

 あれからティム、アドルフ、ノンニーナ、ハーケン、カイム、そして、ノンとトミーはティムたちの自宅にやってきていた。

 カイム以外の男たちは、それぞれの自宅にいったん戻ることになった。

「まず、何から話せばいいかしらね」

 ノンはソファに座ったみんなを眺め渡してからそう言った。

「姉さん、僕のことから話したほうがいいのでは?」

 それへ黒髪のアドルフが口を開く。

 彼に頷いて見せるとノンは語り始めた。

「アドルフは私とトミーの弟になります。信じられないかもしれませんが、私達はこの世界をより良く保つ為のいわゆる神のような存在なのです」

 その話はティムとノンニーナはアドルフから少し聞いていたので吃驚こそはしなかったが、改めて聞くとやはり信じられない話だと思ったようだ。いわんやカイムは初めて聞く話であり、アドルフが自分の息子ではないという話はなかなか信じられることではなかった。

「世界はある時、突然生まれるのです」

 ノンは続ける。

 最初はどのようにして生まれたのかは、さすがのノンたちにも、そしてノンたちを産みだした者達にもわからないことではあったが、わかっているのは、既存の世界で普通に生きていた一組のカップルの間にある時突然世界は生まれるのだという。それが、アドルフなのだった。

「私たちの父と母が世界を産みだしたのです。その時から私の親とその親族は神となり、世界をより良く導く責務を担ったのです」

「その世界であるところのアドルフは、どうして人間の姿で俺の息子として存在しているんだ?」

 カイムが納得いかないという表情で言った。

「お父さん……あ、いや、もうお父さんじゃないのか…」

 アドルフが申し訳なさそうに眉を下げた。

「俺はまだ信じられないんだ。おまえが息子じゃないだなんてな。だから、そのままでいいよ」

「うん。僕にとってもあなたはもう一人の父だと思っているよ。僕はね、どうやらもう長くないみたいなんだ」

「え…?」

 アドルフの言葉に驚くカイム。

「僕の命はもうすぐで尽きる。この世界で新しい命が生まれにくくなっているのもそのせいなんだよ。だから、僕は少しでも多くの人間を生み出そうとして、厳選された人間達を種族を超えて娶せようと画策していたんだ。それがうまくいけば、僕の命ももう少しは長らえるかなと思ったんだよ」



 どこまでも続く荒涼とした風景をノンは見つめ続けた。

 ここはノリコとして過ごした僅かな日々の想い出がある場所だ。

 こちらの方角には半島の山が見えていたはず。だが、今はそれもない。どこまでも青い空が続く。こちら側には海が。確かに海はあった。砂浜もある。

「姉さん、あなたに見てもらいたいものがあるんだ」

 じっと立ちすくんでいたノンに声をかけるアドルフがそう言った。

「あそこに見えるでしょ」

 彼が指し示す場所には朽ち果てた廃墟のようなものがある。

「あれは……」

「うん、そうだよ。姉さんにとってとても思い出深い建物があった場所だよ」

 はるか何万年も前の懐かしい記憶がよみがえる。

 青い空と海に砂浜。

 その場所にその建造物は確かにあったのだ。

 年若い者達のさんざめく笑い声に明るい未来を感じさせ、いつか何者かになっていくであろう子供達の夢と希望が溢れたその象徴として、その建造物は存在していた。

 かつてノンがノリコとして強制的に冷凍睡眠をしてしまったその建物が。

「あれからあまりにも長い時が過ぎ、普通なら朽ちて跡形もなくなるはずのものだったんだけどね。僕が何とか持たせたんだ」

「どうして…」

「中に入ってみればわかるよ」

 アドルフはノンを招く。

 建物の中へと。

 中に入ると意外と清潔に保たれていた。

 今でも本来の機能を有しているように。

 二人は無言で歩き続ける。

 そして、とある扉の前に辿り着く。

「ここは……」

 そう、そこにはこう書かれてあった。

『永久保存 1977年 開閉注意!! 中から閉めること厳禁!!』

 アドルフは頷くと扉を開けた。

「姉さんは地球を離れる時に人々に集団催眠を施していったけれど、後に姉さんの義父になったアリテレス博士は姉さんのことを思い出したんだよ、他の人は思い出すことはなかったんだけど」

「え、お義父さんが?」

「アリテレス博士はこの冷凍倉庫を残すことに尽力を注ぎ、子孫にもそれを課したんだ」

 アリテレスは後に養子を迎え、その養子に懇々と諭した。

 いつか必ずノリコは地球に戻ってくる。

 彼はそれを信じていた。

 それこそ妄執のように。

 最初は自分がコールドスリープでこの倉庫でノリコを待つつもりだったのだが、それを養子に止められた。

 コールドスリープで、いつ戻るかわからない者を待つには博士は年を取り過ぎていたからだった。

 もちろん、年はこのさい関係はない。

 たとえ若者、或いは幼い者であっても、期限付きのコールドスリープならばまだしも、いつ戻るかわからない、無期限の眠りは肉体が持たないだろう。

 だが、博士に多大なる恩義を抱いていた養子は、自分が博士の代わりにコールドスリープをしてノリコを待つと提案したのだ。

「博士は大反対していたがね。それでも養子となった彼は博士から姉さんの話を幼い頃から聞かされて、とても姉さんに興味を持っていたようなんだよ」

 そして、博士を説き伏せて彼はコールドスリープに入った。

 その後、博士は他の養子を迎え、眠りについた彼のことを託した。

 託された者は、自分の子孫にそれを更に託していった。

「それでもこれだけ長く姉さんが戻らないとは皆も思ってなかったし、もう随分と昔にここは見捨てられてしまったんだよ。だから、その後は僕の管理下に置いたんだ」

 アドルフとノンはそのカプセルに近づく。

 そこには流線形のカプセルが横たわっており、様々な機械の管が繋がっていた。

「理論的には壊れない限りは半永久的にコールドスリープができるようになっている。姉さんたちもコールドスリープで旅をしたと思うけれど、姉さんたちは定期的に目覚めて身体的機能を確認しながらだったよね。けれど、この人は数万年間、一度も目覚めていない。目覚めさせる人がいなかったからね。だから、僕にもこの人が無事目覚めるかわからないんだ」

「………」

 ノンは眠る彼をじっと見つめた。

 顔がわかるようになっているカプセルは、一見冷凍されているようには見えない若者の目を閉じた姿を見せていた。

 目を閉じているので目の色はわからない。しっかりとした眉毛にサラサラな感じの茶髪で口元も意志の固そうな唇の厚い精悍な顔立ちをしている。

 と、その顔をじっと見つめていたノンは、ふと違和感を覚えた。

 何だろう、閉じられた瞼が震えたように見えた。

 すると、カプセルの中の若者の瞼が、突然ガッと開かれたのだ。

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