第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第9話
「受け入れて…?」
スカウンドレルが不審そうに呟いた。
「キャプテン・キラド。おまえはジルベスター星人ではないのか?」
「ええ、その通りです。もっとも、地球人とも違うのですがね」
「地球人…待てよ。確か、地球人の船のキャプテンは女だったはずだ…」
スカウンドレルの呟きにキラドは目を見張る。
「よく知ってますね。そうですよ。希望号のキャプテンはキャプテン・ノンといい、女性でした。私の母です」
キラドはにっこりすると、傍らのギルに視線を向け、さらに言う。
「このギル・バートはそのキャプテン・ノンの親友トミーの息子になります」
キラドの言葉に鷹揚に頷くスカウンドレル。
それを見てキラドは頃合いだと思ったのか、嘆願してみる。
「私たちは母の故郷である地球に行ってみようと思い、それで旅立ったのです。ですから、できればもう解放してくださいませんか」
「……私もついていってはいけないだろうか」
「………」
キラドは心の中で頭を抱えた。
やはり、そうきたか、と。
すると、ずっと黙ったままスカウンドレルの傍らに立っていた従者があたふたと慌てだした。
「スカウンドレル様、何を言われるのですか!」
キラドは心で「そうだろうな」と至極当たり前のことを思った。
星を統べるトップが何を考えてるんだ、と。
スプリンガーもそうだったが、この世界のトップはみんなこんな子供じみた者しかいないのではないかとまでキラドは思ってしまう。
だが、ダートンはそうではなかった。
彼だけは素晴らしい統治者だった、と。
「スカウンドレル総統。彼の言う通りですよ。あなたは仮にも統治者だ。その責務を放り出して私達についていくなど許されることではないでしょう。というか、なぜ、あなたは私たちについていきたいと思われたのですか?」
キラドの言葉に少し考えこむように俯くと、スカウンドレルは頭をあげた。
「いや、確かにそうだな。いくらワームホールの存在があるとはいえ、500億光年の彼方まで行くとなると、その旅は長きに渡ることになるよな。すまない。考え無しだった。ただ……」
そこで彼はいったん言葉を切ると、さらに続ける。
「ダートンたちが受け入れた地球人の故郷というものに興味を持ったのだ。ただの好奇心だよ。煩わせて申し訳なかった」
「いえ、お気になさらずに。では、私たちはもう旅立ってよろしいでしょうか」
「ああ。許可しよう」
「ありがとうございます」
そして、スカウンドレルは立ち上がると、キラドに握手を求めた。
「またこちらに戻ってくるのだろうか」
「ええ、戻ってくるつもりです…」
「では、もしこちらに戻ったら、その…また寄ってはくれないだろうか。いろいろ旅の話を聞かせてもらいたいのだが」
その容姿に似ず、かなり消極的な様子を見せる。
キラドは満面な笑みを見せ、頷いた。
「もちろんです。たくさん土産話を持ってきましょう」
「何だかギャップのある人物だったね」
スカウンドレルたちが退去し、希望号を発進させた後、ギルが最初に口を開いた。
「…スプリンガーを思い出したよ」
ギルはクスクスと笑う。
それに対してキラドは「そうだな」と言いつつ苦笑した。
「さて、と」
キラドはすぐに真面目な表情に戻す。
「一気に地球目指すぞ」
それに対してギルは深く頷いた。
その後、ハーケンだけでなく、カイムたちにもこれから地球を目指すことを伝え、希望号はワームホールへとその巨体を突っ込んでいったのだった。
「いやー、まさかこんなにあっというまに辿り着くとは思ってみなかったよ」
驚いてそう言ったのはハーケンだ。
彼はキラドとギルのいるコントロールルームにいた。
ハーケン以外のカイムたちはそれぞれの船室から出ないようしている。
ハーケンは宇宙船に慣れているが、カイムたちはトニー号であっても生まれてこのかたそういう乗り物に乗船したこともなかったので、船内をうろつくのも危険だと思ったのだろう。実際は、船内のことはジュークが管理しているので、誰がどこにいようとも把握はできていたし、もし迷子になったとしても、すぐに案内ができるのだが、そういったことは彼らにはわかるはずもなく、よって自分達に割り当てられた場所で大人しくしていようとなったのだ。
「たまたま直通できるワームホールにぶち当たったというだけに過ぎませんよ」
キラドはそう言って薄く笑った。
そんなキラドに対して胡散臭そうな視線をハーケンは向けたが、彼は肩をすくめただけで何も言わなかった。恐らく、何か言ったとしても話をはぐらかされると思ったのだろう。そういったことの勘は彼は冴えていたのだ。
「さあ、着陸しますよ」
しかも、キラドはハーケンに着陸地を聞かなかった。
キラドはどこに停めるのかをわかっているのだ。
それはもう不審に思ってもしかたないことだろう。
そして、トニー号とハーケンたちは、再び地球へと降り立ったのだった。
彼らが旅立ってから、半年も経ってはいなかった。
希望号はその巨体をカイムたちの村の近くに着陸させる。
くしくもその場所は、ハーケンがトニー号を着陸させた場所だった。
「…………」
ハーケンは感慨深く地表に降り立つ。
トニー号の時はタラップから降り立ったが、希望号の場合は、船自体が巨大なため、転送で降りたつ方が便利なので、キラド、ギル、ハーケンは転送で地表に下りた。カイムたちも地表に降りることにしたようだ。
わずか半年ほど離れていただけだったが、彼らは懐かしそうに自分達の故郷を眺めた。
そこへ、ティムとアドルフ、そして、ノンニーナがやってきた。
「おじさま!」
ノンニーナは叫んでハーケンの胸に飛び込んだ。
ハーケンは苦笑しつつも、しっかりと彼女を抱き締める。
「もう、どこにも行かないで。ずっと私の傍にいて!」
彼女の言葉にハーケンは答えられなかった。
傍にいたいという気持ちは確かだが、自分は一つ所に留まれない性質だ。
だから、彼女の願いに自分は応えられないだろうと思ったから、彼女の問いかけに何も言えない。
そこへ、ゆっくりとティムとアドルフがやってくる。
「ハーケンさん、ここに留まれないというのなら、彼女を連れて行ってくださいませんか」
ティムがそう告げた。
「結局、彼女はあなた以外に触れられるのを嫌がっているんですよね。気持ちでは、子作りは自分に課せられた義務であり、それを全うしようと思っているようなんですが、心が、身体が拒絶反応を示すみたいで……」
「安易に娶せようとした私の失態です、姉さん」
ティムの言葉を受けて、アドルフがそう言った。
彼の視線はハーケンの後ろにいた人物に向けられている。
「確かにそうね。人間は駒とは違うんですものね」
アドルフの言葉を受けて、その人物が答える。
それは女性の声だった。
女?
ここにはノンニーナ以外に女性はいなかったはず。
と、不審に思ったハーケンが振り向くと、とんでもない人物を見つけてギョッとした。
そこには二人の女性が立っていたからだ。
先程まで、キラドとギルがそこには立っていたはず。
「え……?」
驚くハーケンに、キャプテン・ノンは嫣然と微笑んでみせた。




