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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第8話

 長い長い話が終わりを告げた。

 もちろん、ハーケンたちが旅立ったあとの出来事は、ハーケンは知らない。

 だから、旅立ったあとの地球のことは何も話してはいないのだが。

「アドルフ……そこにはアドルフがいたのですね」

 すると、キラドが呟いた。

「そうだが。ノンニーナの相手であるティムの双子の兄弟だった。どうして君が彼のことを知っているんだ?」

「………」

 ハーケンの問いかけに彼、いや、彼女は答えず、考え込んだ。

 すると、キラドは決心したような瞳でハーケンに視線を向けた。

「ハーケン船長」

「ハーケンでいいですよ、キャプテン・キラド」

「では、私のこともキラドと」

 彼女がそう言うと、ハーケンは頷いた。

「ハーケン、地球に戻りませんか」

「え?」

 突然、キラドがそんなことを言い出して、ハーケンは驚いた。

「詳しい話は地球に戻ってから話しますが、どうしても今私達は地球に行かなければなりません。このまま私の宇宙船で地球に向いましょう」

 キラドの声にハーケンは否とは言えなかった。

 何故だろう。キラドの声にはそれくらい強いオーラを感じたハーケンだった。

 それから、ハーケンはキラドを伴ってカイムたちに会い、再び地球に戻ることを

伝えた。

「本当に申し訳ありません」

 キラドが頭を下げる。

「いや、それは別にいいんだが……できれば理由を聞かせてはもらえんかね」

 皆の代表でカイムがそう言った。

 それにキラドは申し訳なさそうに答える。

「信用してもらえないのはしかたないと思っています。ですが、できれば地球についてからでよろしいでしょうか。本当に一刻を争うのです」

「………」

 そこまで言われて否とも言えず、カイムも渋々了承した。



 とはいえ、希望号が移動し始めてすぐに問題が起きた。

 今、希望号の目前には一隻の艦船が立ちはだかっていたのた。

「こちらはデイモス星の総統スカウンドレルだ。そちらの宇宙船は何と言う?」

「総統自ら出張ってくるなんて規格外なトップだな」

 キラドの傍でギルがボソッと呟いた。

 それは相手には聞こえていない、はずだ。

「こちらは宇宙船希望号、私はこの船のキャプテンで、キラドと言います。申し訳ないのですが、火急の件により、これから向かわなければならない場所があるのです。速やかに通していただけないでしょうか」

 そう言ってキラドは頭を下げる。

「……希望号、それはジルベスターにやってきた宇宙船じゃないか…」

 スカウンドレルが呟く。

 それをキラドは耳聡く聞きつけた。

「私達の船を知っているのですね。では、この船がここから500億光年の彼方の星からやってきたということも御存知なのですか?」

「もちろん」

「では、話は早いですね。これから私達はその500億光年離れた星へと向かうところなのです。速やかに我々を通してくださいませんか」

「………それには条件がある」

「え…」

 とんでもないことを言い出した、と、キラドは思った。

 彼女は何となくスプリンガーのことを思い出す。

 まさか、またしてもついてくる、なんて言わないよな、と。

「とりあえず、おまえと話がしたい。こちらに、と言いたいところだが、信用してはもらえぬだろうから、私がそちらに出向こう。一人だけ従者を連れて行って良いだろうか」

「いいでしょう。お待ちしております」


 そして、それから程なくして、スカウンドレルとその従者が希望号にやってきた。

 キラドはギルと一緒に二人に対峙した。

 とりあえずハーケンは姿を見せないほうがいいということで、今は彼らの傍にはいない。

 応接室のソファにキラドとスカウンドレルが相対して座り、それぞれの傍らにギルと従者が立った。

「これは私の副官でギャリ―という」

 ペコリと会釈をするスラリと背の高い金髪の美青年。スカウンドレルも美青年には違いないのだが、彼の顔には鼻から右頬にかけて傷があった。何かに切りつけられたといった感じの傷跡だ。そして、髪も瞳も黒々としていて、着ている軍服も黒一色だ。おまけにマントまで黒い。それに比べて金髪のギャリ―は対照的に白の軍服を身に着けていた。まるで悪魔と天使のようだなとキラドは思った。

 それに対してキラドは自分の傍らに立つギルを「希望号の副長です」と紹介した。

「さっそくですが、話というのは何でしょうか」

「………」

 スカウンドレルは少しためてから口を開いた。

「ダートンは結婚したと聞いたが、それは本当か」

「え…ダートン総統ですか。ええ、希望号でやってきた人々の一人と結婚し、今はお子さんもいますよ」

「……そうか」

 黙ってしまった彼を怪訝そうに見つめるキラド。

「総統」

 傍らに立つギャリ―が心配そうに声をかける。

 スカウンドレルはそれに手を振ってこたえ、顔の傷跡に触ると言葉を続けた。

「話をしていいだろうか」

 その思いつめたような声音に、キラドはゆっくりと頷いた。

「昔からデイモス星とジルベスター星は諍いが絶えなくてな、長い間、戦争をし続けていたのだ。我々の代以前はそんな感じでずっと戦っていたのだ。だが、ダートンが総統になり、私が総統になってからは戦争などくだらないと互いに不可侵条約を結んだのだ。私には妹が一人いたのだが、二つの星を繋ぐためと政略的結婚を打診した。私の妹とダートンを娶せようとしたのだ。ダートンも賛成してくれて、二人は結婚した。だが、なぜか妹は突然死んでしまったのだ。病気なのか、事故なのか、それがわからず、私はダートンに真相を問いただしたのだが、彼は何も言ってくれなかった。それ以来、私は彼を憎んできた。そして、不可侵を破り、私はジルベスターを攻撃した。妹の敵として」

(え、そんなことがあったんだ?)

 知らなかった。その話は初めて聞いた。なので、正直に口に出す。

「知りませんでした。そんなことがあったなんて」

「それはまあそうだろうな。かなり昔の話だからな」

 それもそうか。彼らは長命の種族だったな、と。

「この顔の傷はその時につけられた傷だ」

「しかし、希望号がこの宙域にやってきた時にはもう戦争はしてませんでしたよね」

「そうだな。やっと妹が亡くなった理由がわかったからだ」

「それは?」

「自殺だったんだよ」

「え…」

「ダートンたちは子を成すために親兄弟とも関係を持つことを当たり前としていた文化を持つ。当然、ダートンも自分の妹とそういう関係を持っていた。私の妹はそれが許せなかったらしい。それで思い余ってということだったそうだ」

 スカウンドレルは両手を握りしめた。

「私は間違っていたのだろうか。それとも政略結婚であることを忘れてしまい、ダートンを愛してしまった妹が馬鹿だったのだろうか…」

「それは違います!」

「!」

 キラドが叫んだ。

「たった一人の妹さんなんですよ。馬鹿だったなんて言っちゃダメです。これは単なる不幸な出来事だったってだけです。確かに、妹さんは死ぬべきじゃなかった。けれど、妹さんの気持ちをあなたが慮ってあげないでどうするんです。きっとダートン総統も後悔していると思います。私の知っている彼は本当に優しく、遠い星からやってきた私たちのことも受け入れてくださったんです。絶対に、あなたの妹さんのことで心に痛みを抱えていたと私は信じていますから」

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