第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第6話
ティムは空を見上げた。
「どうした?」
農作業中の彼が手を止め、空を見上げたので、兄であるアドルフが声をかけた。
そして、アドルフも同じように空を見上げた。
すると、空のある一点がチカッと光ったかと思うと、みるみるうちにその光が大きくなり、爆音とともに宇宙船が現れたのだ。
宇宙船は村の外れに着陸した。
畑仕事をしていた男たちは皆、歓声を上げながら宇宙船めがけて走り出した。
ティムとアドルフもそれにならい、宇宙船へと駆け寄った。
人々が見守る中、宇宙船のハッチが開き、そして、ハーケンとノンニーナが現れたのだった。
ハーケンとノンニーナは村長であるカイムの家へと招かれた。
「私は宇宙商人ハーケンと言います。この子はノンニーナ。彼女の母親からの依頼で、この惑星に連れてきました」
二つの文明が分かたれてから随分と経つはずだが、不思議と言語もそれほど変わらず、最初から意思の疎通はできた。
「それはどういった理由からでしょうか」
カイムは問う。
だが、それにはハーケンは明確な答えを持っていなかった。
すると、ノンニーナが言いきった。
「ここで種族を繁栄させろと、お母様にそう言われています」
「え…」
ハーケンが吃驚する。
彼女は続ける。
「夢にある人が出てきて、自分が産む娘を地球に送り届けよと言われたそうです。だから、お母様は私が物心ついた時から言い聞かせてきました。あなたはいずれ地球に旅立ち、そこで多くの子供を産むのですよって」
ハーケンは真っ青になった。
すると、それを見たカイムが複雑な表情を見せ、ハーケンに声をかけた。
「ハーケン殿。あなたにとってはとても辛い話ではないのですか」
「えっ?」
「こう言っては何ですが、彼女の言うことが本当ならば、彼女はこの星、というか、この村の男達と子作りをしなければなりません。あなたはそれを受け入れられますか? あるいは静観できますか?」
「私は……」
ハーケンは答えに窮した。
だが、それでも彼は己の立場はじゅうぶん理解していたので悲痛な思いで答える。
「私は生殖能力のない人間です。彼女とは子作りはできません」
それを聞いたカイムは納得したというふうに頷く。
「なるほど、そうですか。私はティムとアドルフを亡くなった彼らの母親と産みだすことができました。なので、生殖能力はあると思ってはいます。だが、私は亡くなった彼らの母を心から愛していたので、恐らくノンニーナさんとは子作りは出来ないと思います。本当はそれではいけないんですけどね。ただ、ティムたちの母親は無理な子作りのせいもあって若くして亡くなってしまったということもあり、そんな辛い立場にノンニーナさんを立たせたくないと思っています。それはこの村の男達すべてがそう思っています。なので、ノンニーナさんと子作りをするのはティムとアドルフに託そうと思います。それも無理のない程度で」
「カイム殿……」
言葉に詰まったハーケンに頷いて見せて、さらにカイムは続ける。
「こんなことを言うのもよくないのだとわかっていて言うのですが、子作りの行為は子作りをするためだけにある行為ではありません。それを我々はいつのまにか忘れてしまっていましたよね。相手を唯一の存在と認識し、そして、思いを交し合う行為でもあったのだ、と。私はティムたちの母親とは心と心の繋がりがあったと信じています。ですが、あの頃はまだ私も若く、多くの子を成さなければならないという理想と、そして、彼女を愛しているという現実の狭間で苦しむということもなく、当たり前に彼女と自分以外の男達の子作りを受け入れていました。ですが、いつの頃からか、それがとても受け入れ難くなっていったのです。それをどうしてだろうと長い間考え続けてきたのですが、彼女が亡くなってようやっとそれが、愛する、ということなのだと気づかされたのです。でも彼女はもういない。もっと長生きできたかもしれなかったのにと悔やまれました」
そこで彼はノンニーナを振り返り、泣きそうな表情でさらに続けた。
「たとえ人類が滅んでしまおうとも、人を、女性をまるで産む機械のような存在に扱ってはいけないと、今の私はそう思っています。それは村の男達みんなが同じ思いを抱いています」
「父さん……」
そんな父を見てティムは感動していた。
父がそんなふうに母のことを思っていたとは思わなかった。
確かに、父は血の繋がった父であるにはあったが、自分たちがどういった経緯で生まれてきたかは子供の頃から教えられてきたので、村の男達みんなが自分たちの父親でもあると思っていたのだ。彼らもティムとアドルフに優しく、時には厳しく、カイムと同じように指導してくれたからだ。
「なので、ハーケンさん。あなたもここに残りませんか」
「え?」
ハーケンが目を見張った。
「あなたもここに残り、ノンニーナさんと暮らしてもいいのですよ」
「………」
ハーケンは考え込んだ。
だが、彼はきっぱりと言う。
「私の仕事は彼女を此処に届けることだった。だから、私は此処には残らない」
「いいのですか? 誰もあなたと彼女の仲をとやかく言う者はいないのですよ?」
ハーケンはノンニーナに視線を向ける。
「おじさま」
彼女は期待の眼差しで見つめている。
「私は……」
その彼女の瞳をしっかりと見つめながら、彼は言う。
「確かに、私はノンニーナを愛しています。一人の人間として。そして、一人の女性として」
それを聞いてノンニーナは花開いたかのごとく笑顔になった。
だが、ハーケンはそんな彼女に悲しげな表情を見せる。
「私は存外、古風な考えの持ち主でね。神という存在を信じているところがあるんだよ。なので、今回のことも、何か人外の力が働いているんじゃないかと思っている。だから、どんなに愛していてもきっと良くない結果になってしまうのではないかとどうしても危惧してしまうのだ」
彼の言葉にノンニーナの表情がだんだん曇っていく。
そして、ハーケンは彼女の頬に手をのばし、優しく撫でた。
「ノンニーナ、ここで幸せにおなり。きっと君は幸せに生きられるよ。私は君の幸せだけを願っている」
彼女は自分の頬を撫でてくれる彼の手に自分の手を添えて、ふるふると首を振った。
「大丈夫だよ。きっと君は私がいなくても幸せになれるよ。私の言葉を信じて」
それでも彼女はそのまま首を振り続けた。




