第7章「はるかなる星より宇宙の運命によせて」第5話
「どうした、ティム?」
ティムと呼ばれた青年は空を見上げていた。
空は青い。雲ひとつない、いい天気だ。
彼は声をかけた同じくらいの年齢の若者に答えた。
「なんでもないよ、アドルフ」
それからティムは再び地に目を落とし、鍬をふるい始めた。
その様子をじっと見つめていたアドルフは、それ以上は何も言わずに、同じく鍬を振り上げた。
どこまでも続く土くれの大地をその若者二人だけではなく、多くの男たちが耕していた。
ただ、若い男はティムとアドルフだけだった。
他の男たちは見たところ50代以上な者ばかりで、若者は他には一人もいなかった。
少し離れた平地には、この男たちの村が見える。
彼らは夕方になるまでそこで働いた。
「ティム、アドルフ、帰ろうか」
二人に近づいてきた壮年の男が声をかける。
ティムとよく似た金髪で青い瞳の男だ。
「父さん」
ティムがそう呼んだ。
そう、壮年の男は彼らの父親だった。
ティムとアドルフは双子の兄弟だ。とはいえ、二人はあまり似ていない。兄であるアドルフは黒髪で緑の瞳だったからだ。
二人の母親がアドルフと同じたった。だが、母親はもういない。彼女は二人を産んだあとに亡くなってしまった。まだ15歳だった。
二人の母親はこの村でたった一人の女性だった。
彼女の母親も彼女を産んだ後にすぐに亡くなってしまっていたのだ。
それというのも彼女らの出産は命と引き換えとしか言いようのない状況下でなされるものだったからだ。
この村では深刻な少子化が続いており、今までにも女性が生まれると、その女性は初潮が始まり子を成すことが可能になったとたん性交を義務付けられる。そのため、身体的にまだ成熟するまでに妊娠をし、出産することになり、その出産は当然危険なものとなるのだ。
そして、ついにティムとアドルフの母親が唯一の女性となってしまい、幼い身体なのに双子を産むという大変な負担を身体にかけたために亡くなってしまった。
そうまでして産んだ子供だったが、二人とも男だったために、「もうこの村もおしまいだ」と、二人の父親であるカイムはそう言った。
それでも彼は双子の赤ん坊を抱えて「だがしかし、この子たちは大きくならなければならない」と力強く言ったのだ。
「今でこそ、もう宇宙船など一隻もなく、別の星へと女性を探しに行くことはできないが、この子たちは我々みんなの、そして、この星の申し子なんだ。我々は奇跡を信じよう」
この星はテイア星、その昔はテラと呼ばれた青く美しい星だった。
ずいぶん昔に滅亡したが、僅かながらの人々がかろうじて生き残り、細々と暮らしていたのだ。
「ティム、ティム?」
ティムははっとしてスプーンを落とした。
父カイムと兄アドルフが心配そうな目を彼に向けていた。
「あ、ああ、何?」
「何、じゃない、近頃のおまえはおかしいぞ」
カイムがスプーンを置いて言った。
「何でもないよ」
「ティム!」
ティムの投げやりな言い方にカイムが責めるように声を荒げる。
ティムは困ったような表情を浮かべた。
「なんて言っていいか……わからないんだ。こう、なんか変なんだよ」
「何が?」
今度はアドルフが聞く。
「アドルフには感じない? 見えない? あの子が…」
「何が見えるのだ?」
再びカイムが聞く。
ティムはこくりと喉を鳴らすと、一語一語、絞り出すように言葉を発する。
「子供なんだ。いや、子供っていってもそんなに小さくない。男の子じゃない、と思う。何だか僕やアドルフとは違うような気がする。僕は母さんの顔なんか知らないし、女の人なんて見たことないけど、でも、あの子は母さんと同じなんじゃないかと思った。髪が長くてかわいくて……」
そう、彼は宙を見つめて言ったかと思うと、自分の父親と兄に向って叫ぶ。
「見えるんだよ、その子が。空に壁に天井に、いたるところに!」
「………」
そんな息子のただならぬ様子に、父親であるカイムは何かを感じた。
何か、何かすごいことが起きる、と。
それから彼はもう一人の息子に声をかける。
「アドルフ、おまえには見えないのか、その子が」
「僕は何も」
アドルフはゆっくりと首を振った。
「テイア星の主恒星は平均型だ。チャリオッツやMe-5と同じだ。そして、テイア星を含め幾つかの惑星が回っている。恒星から三番目に位置するのがテイア星だ」
誰に言うともなしにハーケンは青い星を目前に呟いた。
「キャプテン、目的地に着きました」
妙にかしこまってヒルが言った。
すると、それに返事をしようとしたハーケンは人の気配を感じて振り返った。
そこにはニコニコと微笑んでいるノンニーナが立っていた。
「私もテイア星を見たい」
ハーケンは破顔すると、彼女を手招きする。
「おいで、ノンニーナ」
彼女は彼の隣に立った。
視線の先には、その星があった。
青い星だ。
青く澄んだ星がそこにポッカリ浮いていた。
「美しい星だ。あれがオンディラーダ文明の先祖の星、テイア星なんだ」
それからハーケンはノンニーナに視線を向けた。
彼女は両手で口を押え、静かに泣いていた。
ハーケンはその姿を美しいと思った。
すると、ヒルの声が響く。
「着陸準備に入る。二人とも座席に座り、シートベルトを着用」




