第6章「青い惑星の上で」第7話
そして月日は流れ、希望号の乗組員たちもジルベスター星に馴染み、彼らは実に多くの人々の間で何人もの子供をもうけていくこととなる。
ノンとスプリンガーの間にもノノ・アリサという女の子が生まれ、そして、トミーとベナードの間にもギル・バートという男の子が生まれた、のだが。
そのノンとトミーは子供を産んですぐに亡くなったということになっている。
ノノ・アリサとギル・バート、同じ日に生まれた幼馴染である。互いに14歳になった頃、二人を前にスプリンガーが彼らの母であるノンとトミーの話をしてくれた。
「おまえたちの母ノンとトミーは本当に素晴らしい人たちだったよ。おまえたちも彼女らに恥じない人になってほしい」
ギル・バートの父親であるベナードはジルベスター星人の中でも一番の伊達男で、女性たちにモテまくっていた。
そんなベナードがトミーを見初め、猛烈なアタックの末にやっとトミーを我が物にしてギル・バートが生まれたのだが、ギルを産んですぐにトミーは亡くなってしまい、ベナードは嘆き悲しみ、生まれた我が子にまったく興味を持たなかったのだ。なので、ギルは同じ日に生まれたノノ・アリサの父親であるスプリンガーに引き取られ、ノノ・アリサとともに大きくなったのだった。ノノ・アリサの母であるノンもまたトミーと同じく亡くなってしまったのだから。
当時、仲間たちやスプリンガーはノンとトミーが死んでしまったことが信じられなくて、そんなことが起きるとは思ってもみなかったので、しばらくは皆がショックを受けて大変だった。だが、それを叱咤したのがスプリンガーだった。他の者たちは結婚という形を取らずに、思い思いの相手と情事を重ねては子供を産む、或いは産ませる、だが、その生まれた子供もきちんと育てる、もちろん、自分だけでなく、産ませた、或いは産んだ相手も、そして、社会全体のサポートも受けながら。そんなふうに少しづつ人口を増やしていくということで。
スプリンガーはノン以外とはそういう気になれないということで、それを了承してもらっていたのだ。
「ノンには生前、自分以外とでも愛し合ってもいいと言われていたんだがね」
スプリンガーはポツリと言う。
それを娘やギルに話して聞かせるというのもどうかとは思うのだが。
だが、彼はノノ・アリサやギル・バートのことをどうしても昔から子供として見ることができなかったのだ。
(二人に見つめられると心がざわめく。どうしても二人がそのままの二人に見えない)
「私はかまわないと思うわ」
ノノ・アリサが言う。
「僕もそう思うよ」
ギル・バートも言う。
「お父さんもまだ若いのだもの。もっと他の人と愛し合うのもいいと思うわ」
「…………」
まるでノンに言われているような気がする。
そして、何となく思い出したのが、ノンが昔言っていた「集団催眠」の話だった。(まさか…な)
彼の心の中に疑惑の芽が生まれた瞬間だった。
ノンとトミーの墓は、宇宙船希望号の沈む湖の傍らにひっそりとあった。
その二人の墓にはハヤトの名前も刻まれていた。ハヤトもノンたちと一緒に葬られていたからだ。
今、ノノ・アリサとギル・バートが黙ったまま佇んでいた。
そして、ノノ・アリサはおもむろに跪くと、墓に刻まれたハヤトの名前を手で撫でながら言った。
「ギル、私たち、そろそろ旅立ちたいわね」
ギル・バートはそんな彼女をちらりと見ると頷く。
「というか、最後に地球を見たいもの」
「そうだね」
すると、瞬間、二人の姿がチラチラとしだした。
それはまるで映し出された画像が電波状況の粗悪さで乱れたかのごとく。
「ねえねえ、おねぇさま、どっか行くの?」
ノノ・アリサとギル・バートは吃驚して振り返った。
そこにはノノ・アリサより少し年下っぽい感じの少女と、その少女と同じくらいの赤毛の少年が立っていた。
「びっくりさせないでよ、ノリス。それにダナー」
ノノ・アリサは眉を下げて二人を見つめる。
ノリス・キラーはミーユの娘である。そして、ダナー・キラーはシンゾウの息子だった。
二人はノノ・アリサより2歳年下ではあるが、なぜかノノ・アリサに懐いていて、いつもいつも金魚のフンのようにまとわりついていたのだ。もっとも、ダナーのほうはどうやらノリスが好きらしい。ノリスはまったくその気はないようで、ギル・バートに仄かな憧れを抱いているようだった。とはいえ、ギルとノノは相思相愛だという噂があって、彼らもそれを否定していないので、ノリスは大好きなノノならしかたないかと思っているようだった。
「どこか行くのならあたしも連れてってほしいなあ」
ノリスがそう言うと「右に同じく」とダナーも言う。
「……どこにも行かないわよ」
ノノ・アリサは湖の方から吹いてきた風に踊らされた長い髪を押さえつけてそう言った。
と、次の瞬間、ノリスとダナーは気づくと都市内の緑地帯に立っていた。
「あれ?」
ノリスは首を傾げた。
傍に立っているダナーを振り返る。
彼も不思議そうな表情をしていた。
「あたしたち何してたんだっけ?」
「うーん。誰かに会いに行くつもりだったんじゃないかな」
「そうだっけ?」
ノリスはしきりに首を傾げつつ、釈然としないまま歩き出す。
「とりあえず、ダナー、買物に付き合って」
彼女がそう言うと、彼は嬉しそうに頷いた。




