第6章「青い惑星の上で」第3話
「どうしたんだ、ジャーナリス」
さすがの彼もせっかくの雰囲気を壊されて少し不機嫌そうだった。
ミーユの方は大いに不満で頬をプーッとふくらませている。
ジャーナリスはそんなミーユに気がつくとますます嫌そうな顔をした。
「まー、ミーユさんったらまた来てたの。お兄さまの邪魔をしないでくださいな。忙しい人なんですから」
「………」
ミーユは恐い目を向けただけで、何も言わなかった。
ジャーナリスはミーユにツンッとしてみせると自分の兄に顔を向けた。
「あの野蛮人ですわ」
「野蛮人?」
彼女は本当に嫌そうな顔をした。
「シンゾウのことです」
「彼がどうかしたのか」
ダートンは何だといった表情を見せた。しかしミーユの方は黙っていなかった。
「ジャーナリス。シンゾウを野蛮人だなんて、どーゆーつもりなの」
「野蛮人を野蛮人って言ってどこが悪いのかしら」
ジャーナリスはフンッとそっぽを向いた。
彼女はミーユがどうやらずいぶん嫌いらしい。ミーユだけではない。移り住んできた異星人たちすべてが彼女には我慢できない存在だったのだ。
人のよいジルの人々をたぶらかす悪魔のような彼ら。彼女の目にはそのように映っていたのだ。
そして───
ジャーナリスはチラリとミーユに視線を向けた。
ふわりとした雰囲気の、いかにも可愛らしい感じをいやみなくらい周囲にふりまく女。そのくせ実は思ったことをズケズケと言う気の強いところがある───本当に下品な女だわ、と彼女は前々から思っていた。
そんなミーユが自分の大切な兄と仲良くするのは彼女にとってたまらなく嫌なことであったのだ。お兄さまは自分だけのものよ、とジャーナリスは心で叫んでいた。
「それでジャーナリス。シンゾウがいったいどうしたというのだ?」
兄の言葉でジャーナリスはここに来た目的を思い出したようである。
まったくデリカシーに欠けるったらこの上ない人たちなんだから───そう心で思いながら彼女は自分の兄に顔を向けた。
「あの人、この私に自分の子供を生んでくれなんて言うのよ!」
力をこめて彼女は言い放った。
「プッ……」
ミーユは思わず吹き出していた。
「何がおかしいのよ!」
ジャーナリスは顔を真っ赤にさせて怒鳴った。
なぜならミーユにはその光景が手に取るようにわかったからだ。
彼らしいせまり方っていったらこれ以上はないくらいだ、と彼女は思った。
シンゾウはまったく女性に対しての配慮というものに無頓着な人間なのである。以前は自分たちのリーダーであるノンにどうやら思いを寄せていたらしいのだが、結局スプリンガーに横からかっさらわれてしまった。
まあしかたのないことかもしれない。幼いころから天才と言われ、子供らしい遊びや女の子と仲良くするなどなかった彼だから、どうしても人間関係を構築するのが不得手になるのは何も彼のせいではない。変な影響を受けても困ると、まわりの大人たちが、彼を極力他人と接触させないようにしたからなのだ。
「あの朴念仁がそうやってまで言い寄るのは、あなたに振り向いてもらいたいからよ。それだけあなたが好きなんだわ。ジャーナリス、彼の気持ちを考えてやって」
ジャーナリスは明らかに不快な表情をミーユに向けた。
「あなたにそんなこと言われたくないわ。どろぼう猫!」
「なんですってえ!」
「どろぼう猫よ、あなたは」
ジャーナリスは吐き捨てるように言った。
「私がなんでどろぼう猫なのよ!」
「私の恋人を取ったわ」
「え……?」
彼女の言葉にミーユは怪訝そうに眉を寄せた。
「ジャーナリス!」
そこへダートンが慌てて叫んだ。
だが彼女はかまわず続けた。
「お兄さまのことよ」
一瞬ミーユには何のことか理解できなかった。
ダートンがジャーナリスの恋人というのはつまり───
「あ……」
そういえば聞いたことがある、と彼女は思い出した。
この星の人たちは何とかして子を成そうとして、男と女であれば親子だろうが兄妹だろうが誰彼かまわず関係をもつのだということを。ここの人たちにはそれは当たり前のことなのだろうが、ミーユにはとても信じられないことであった。
仲間の中の男どもは、誰とでもオーケーというだけで不謹慎な喜びを感じているらしいが、彼女は不快に思っていた。
故郷の宗教的な禁忌でもあるが、それだけではなくてミーユは特にそういうことに対して潔癖だったのだ。
まさかダートンもそのうちの一人だとは。もっとも、この星の常識を考えてみれば、容易に想像できることではあったのだが、なぜか彼女は、彼だけは絶対違うと信じきっていたのだ。それだけに、ショックは大きかった。
「本当なのね、ダートン……」
震える声でミーユは愛しい人の顔を見た。
「………」
彼は辛そうに下を向いたまま何も言わなかった。
見る見るうちにミーユの目に涙があふれだす。居たたまれなくなったのか、彼女はダッとばかりにそこから走りだしていた。
「ミーユ!」
ダートンは手を伸ばし引き止めようとしたが、その手を途中で止める。そして、開かれた手をギュッと握りしめた。
そんな彼の後ろ姿をジャーナリスは冷たく見つめていた。




