第6章「青い惑星の上で」第2話
かくして彼ら、異星からの移民者たちの種族を越えたナンパが始まったのであった。
そういってしまうと愛もへったくれもなくなってしまうけれど、やはり根底を流れているのは愛である。
もともと、ジルベスター星では「婚姻」という制度がなく、血を残すために誰彼かまわず交わることで子孫を残してきたのだ。なので、誰か一人としか性交をしない契約であるところの「結婚」というものは彼らの常識に存在しない。その気になれば隣にいる見知らぬ人と性交に及ぶことがジルベスター星人の常識なのだ。もちろん、親子等血の繋がった者同士の交わりもこの星では当たり前とみなされていた。そうであってもなかなか子孫を残すことが厳しいことからくる苦肉の策でもあったのだ。
もともと新しい血を入れるという考えはミーユ達のリーダーから出たものだったのである。そのリーダーはこの星の人々の特質というのを踏まえた上でこの発言をしたのだろうか。ふつう種族が違えばなかなかその種族の特質などわかるはずもない。
もしそれがわかっていてそう発言したのなら、その人物は相当見る目があると言わなければならないだろう。
ミーユは再びスクリーンに映るジル湖に視線を移した。
ちょうど湖面に午後の柔らかな陽射しが映えていた。スクリーンを通して彼女の顔にまるで直接当たっているかのようにキラキラ見える。
ダートンはそんな彼女の様子を目を細めて見つめた。その目はまったく愛しい者を眺める瞳そのものであった。
彼は思わず抱きしめたい欲求にかられ、たまりかねてミーユに問いかけた。
「何か考え事でも……?」
彼女はしばらく黙っていたが、振り返ってにっこり微笑んだ。
「ええ、あなたもあの湖のほとりに行ければいいのに、と」
ミーユの優しさにダートンは感激し、彼女の目を見つめた。そこには限りなく深い愛情があふれていた。
ジルベスターの人々は地上に出ることが出来ないのである。
彼らの身体はたとえ柔らかな春の陽射しでも、たえることのできない体質に変貌していたのだ。地上に出て日光に当たったが最後、彼らは皮膚に多大な損傷を受けてしまう。
皮膚をおおう形の宇宙服のようなものを着れば出ていくことは出来る。だが生身の肌で自然の風を、空気を、陽射しを感じることは出来ない。それでは外に出たということにはならないだろう。
ダートンはミーユから目をそらすと、まるでひとり言でも呟くようにポツリと言った。
「私が行けなくても、私たちの子供はきっとあそこまで行けるでしょう」
「え?」
ミーユはパッと顔を輝かせ、正面を向いてしまった彼の顔を覗き込んだ。
「それはどういう事なの?」
ダートンは拳を口元にやり、コホンと咳払いをすると極力威厳を保ってこう答えた。
「あーこほん……ミーユ、私と結婚してくれませんか」
彼女はこの言葉を待ってたのよといわんばかりに満面に笑みを浮かべ、それから両手を頬に持ってきて遅ればせながら顔をポッと赤くさせた。
「もちろん! 喜んでお受けしますわ」
ミーユはこの時世界で、いや宇宙で一番幸せな女になったと確信した。
彼女はその容姿から、仲間たち以外の人間には昔から誤解されてきた。それはまあ悪い意味のものではないが、彼女としては有難迷惑なものであった。
ふわふわとしたかわいらしい印象なので、さぞかしたおやかな女の子なのだろうと寄ってきた者は一様に彼女の本性を知ると去っていってしまう。
しかしいつの頃からか彼女は自分の見かけで相手の本性を見抜くようになっていった。容姿と性格のギャップにたえられない人間はこちらから願い下げにしてしまうのだ。だからミーユの仲間たちは彼女にとってとても付き合いやすい友達となっていった。
そしてダートンはそのミーユの容姿に惑わされることなく彼女の本質を見抜いた人物だったのだ。
「つらかったでしょう、今まで」
初めてふたりきりで話をした時、ダートンはミーユにそう言った。仲間たちにさえそんな言葉をもらったことのない彼女には衝撃的なことだった。
そしてその瞬間、彼女は恋に落ちた。
それからというもの彼女の猛烈なアタックが始まったのである。みなぎる彼女のそのパワーはダートンの心を確実に捉えていった。
そしてとうとうここまで彼女はこぎつけたのである。
ふたりはお互い手を取り見つめ合った。のだが───
「お兄さま! あの人どーにかしてくださいませんか!」
そこへいきなり誰かが飛び込んできた。
少女だった。
ダートンの妹である。この惑星でたった一組だけの兄妹。
兄であるダートンと同じ銀の髪を長く腰まで伸ばし、瞳は同じ紫ではあるが彼女のは明るく煌いていた。兄によく似たとても美しい少女だが、両耳にヘッドホン型の補聴器をつけていた。
ジルベスターの住人は全ての人間というわけではないが、彼女のように身体のどこかに欠陥を持っている者が多かった。
彼女は自分の耳でまったく音を聞くことができない。その代わり身につけた補聴器は脳につながっていて、直接音を感知するようになっていた。
デザインがよいのか、その機械はなぜか彼女にとてもよく似合っていた。だがその美しいはずの彼女は、穏やかな性格の兄とは違い少々わがままが目立つ少女であるようだ。




