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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第6章「青い惑星の上で」第1話

 その惑星は小さな太陽系の中にあった。

 とても澄んだラベンダー色の空、燃える緑の木々、あまりにも透明な海や川、鳥はさえずり動物は駆け回る。

 そこには何一つ人口の建物はなく、生物たちの楽園のように見える。それなのに地上には、ただの一人も人間はいないようだった。

 しかし、その美しい光景を食い入るように見つめている一人の人間がいた。

 それは銀色に輝く髪といくぶん暗めの紫の瞳を持った、まだ二十歳くらいにしか見えない青年だった。

 きちんと耳の下で切りそろえられた髪、少しきつめに弧を描く眉、きりっと横に結ばれた薄めの唇、整った鼻梁。そして、それほど高くはない背丈は、スッと背筋が通っていてとても気持ちのよい姿勢だ。

 これだけ見るかぎりではどこかの王侯貴族といっても不思議ではない、そんな高貴さを感じさせる。だが、その雰囲気には消えてしまいそうな儚さも漂っていた。彼の見つめる瞳には、世を憂えた色がにじみ、絶望が見え隠れしている。

 青年は実際の目で風景を見ているのではなかった。スクリーンに映った自然を眺めていたのだ。

 彼の見ているのはひときわ美しさの目立つ湖だった。ひとつの都市がすっぽり入ってしまいそうなほど大きいその湖は、どうやら深さもかなりありそうだ。

 今、水鳥が獲物を見つけたのだろうか、急降下して湖面にたどり着き、また慌ただしく空に戻っていった。その後には鳥の残していった湖上の波紋。そこに陽の光が当たってキラキラ煌めき、見つめているととても眩しい。

 青年は目を細めた。

 それから再び画面に釘付けになる。その様子は手に入れようとしても決して自分のものには出来ないもどかしさを、見るものに感じさせている。

 すると、そこへ人の気配が───

「総統、ここにいらしたのですか」

 彼はゆっくりと振り返った。

 その目に、たおやかな女性の姿が映った。彼と同じくらいか、それとも少し下といった年頃である。

 柔らかそうな栗色の髪、色白で折れてしまいそうな細い腕、だけども髪と同じ色の瞳は人を魅きつけてやまない強い生命力があふれている。

 彼はそんな彼女を美しい宝石を見るような目で見つめた。

「やあ、ミーユさんでしたか」

「いやだわ。そんな他人行儀な呼び方」

 彼女は雪のように白い、その頬を染めた。すると、彼は両の掌を空に向け、肩をすくめておもしろそうに笑った。

 さっきまでの儚さは彼の表情からすでに消え去っていた。

「それなら、あなたも総統と呼ぶのはやめてください。ダートンでいいですよ」

 彼女は嬉しそうににっこりすると、彼の横に来て自分もスクリーンを覗き込んだ。

 ちょうど湖面は、爽やかな風にあおられてさざ波が立ったところだった。彼女もいとおしそうに湖を見つめた。

「あの湖ね。私たちの船が沈んでいるのは」

「そうです。あの美しい船が眠っている場所です」

「もしかしたら、もう二度と見ることのできない私たちの船が……」

 彼女の目にうっすらと涙がにじんだ。

「ミーユ……」

 彼の手が気づかうように彼女の肩に置かれようとした。

 その時、突然彼女がパッと明るい表情で振り返った。少し慌てて手を引っ込めるダートン。

「湿っぽくなっちゃったわねっ。ごめんなさい。今のは聞かなかったことにして!」

 彼は相好をくずして彼女を見た。

「だから好きなのですよ、あなた方は」

 それを聞くと彼女はプーッと頬をふくらませた。

「えーっ、みんななのー?」

 彼はクスクス笑った。

「もちろん、あなたは特に、ですよ。ミーユ姫」

 彼の言葉に、彼女は満足そうに頷いた。

「それより、何か私に用があったのではありませんか」

 話題を変えてダートンは言った。

「用というほどではなかったのだけど、あなたに一言お礼を言いたかったの」

「お礼とは?」

 ミーユは何とも言えない優しい顔で、にっこり微笑んだ。

「ありがとうございます。ノンとスプリンガーの結婚を許していただいて」

「なんだ、その事でしたか」

 ダートンは心得顔で頷いた。

「お礼を言われるほどのことではありませんよ。当たり前じゃありませんか、愛する者同士、結ばれることは」

「けれど最初の取決めでは、私たちを受け入れる条件としてこの惑星の者との婚姻を、とのことではありませんでしたか?」

 彼女の言葉に、ダートンはもっともらしく頷いてみせた。

「いかにもその通り。しかし、あなたは考え違いをしているようですね。必ずしも婚姻を結ぶ必要はないのです。大事なことは、あなた方の血が我々に入ることなのですよ」

 彼の言葉に、彼女はその白い肌をほんのり赤くさせた。


 はるか、遙か昔、ミーユの仲間たちは船に乗って故郷を旅立った。

 そしてコールドスリープの助けを借り、自分たちの惑星から500億光年離れたこの惑星ジルベスターにたどり着いたのだった。

 しかしこの故郷に似た、自然の美しい惑星の住人達は種族としての黄昏を迎えていたのだ。

 もともとから大変長命な種族で平均200年から500年くらいの寿命を持ち、中には800年から1000年くらい生きた人もいたそうだ。その代わり子供を授かりにくくなってしまった。

 そのため人口もほとんど増えることが出来なくなり、現在では約200名ほどしかこの惑星に人間は存在していなかったのである。そんな惑星ジルベスターに彼らはたどり着いたのであった。

 最初はやはり受け入れてもらえなかった。ここの人々はその科学力をもってしても再び繁栄を取り戻すことは出来ない。彼らはどうしても閉鎖的にならざるをえなかったのだ。

 そんなわけで何度も話し合いがなされた。そして、かいあって彼らがこの星に新しい風を吹き込んでくれるのでは、というダートンの言葉により受け入れられたのであった。

 つまりできるだけ多くの混血を残すこと、新しい血を入れることによってこの惑星の住人は種族絶滅を阻止しようとしたのである。

 ダートンはこの惑星の若き指導者だった。ずいぶん前に両親をなくし、今はたった一人の妹と暮らしている。彼の父は前総統であった。その父の後を継ぎ、ジルベスターの総統におさまったのである。

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