第5章「コンピューター・ジューク」第7話
シーンとした静寂が彼らの間に流れた。
すると、その静寂を破ったのはスプリンガーだった。
「すると、ノンはその姿ではなく、本当はスメイルと同じ姿をしているということなのか?」
「ええ、そう。でも、私はあの姿が嫌い。だから気に入ってるこの姿をしているの」
「では、トミーは? 彼女も姉妹の一人なんだろう?」
彼は後ろに控えていたトミーに視線を向けた。
「私はこの姿が本当の姿よ。私はお父様にもお母様にも似ていないの。叔父様によく似ていると言われていたわ」
「なるほど」
スプリンガーはしきりにうんうんと頷いている。
「………」
ノンはそんな彼を見ていて、なんだかずいぶんと印象が違うと思った。
彼はこんな感じの人だっただろうか、と。
いや、それは、そんなに彼という人物を知っていたといわけではないので、断定はできないのだが。
それよりも彼女は気になることがあった。
「ジューク、あなたの話を聞かせてくれてありがとう。また詳しいことを聞かせてほしいわ」
「はい、キャプテン・ノン」
「ところで、スプリンガー」
彼女の呼びかけにスプリンガーが嬉しそうに答えた。
「なんだい、ノン?」
「あなたはどうしてコールドスリープカプセルに入ってないのかしら?」
「そりゃあもうあれだよ。君と話がしたかったからだ」
「………」
ノンは思いっきり不審そうな目を彼に向ける。
それから大きくため息をつくと言った。
「わかったわ。あなたの気のすむまで話しましょうか」
「本当かっ?」
「ええ。でも。話終わったら、大人しくカプセルに入ってね」
「了解した」
それからノンはスプリンガーを連れてコンピュータールームを出て行った。
後に残ったのはトミー。
彼女はノンが彼の存在で少しでも傷が癒えることを祈った。
そんな彼女にジュークが声をかける。
「よかったのですか、お二人についてなくて」
トミーはジュークを振り返ると微笑んだ。
「いいのよ。二人だけのほうが親密度も増すと思うから」
「そうですか。それではあなたの相手は私がしましょうね」
「あら、ジュークってば、私を口説こうとしている?」
クスクス笑いながら彼女がそう言う。
コンピューターも冗談を言うのだと思いつつ。
するとジュークはとんでもないことを言い出した。
「そうだと言ったらあなたは信じますか?」
「え?」
「もっとも、私にはあなたを慈しむ身体がないので、言葉でしか慈しむことはできませんが」
彼の悪戯めいた声に、ああ、ジュークは自分を慰めてくれているのかなと彼女は思った。
「じゃあ、お言葉に甘えてお相手をしてもらおうかしら」
「はい、光栄です」
そう言うと、互いに二人は声を出して笑ったのだった。
「できれば、あなた方のことを話していただけますか?」
しばらくたわいない話をしていたジュークとトミーだったが、改まってジュークはそう言った。
「これから長くお付き合いしていくことになると思いますので、私の主となるキャプテン・ノンとその妹御のことを細密に知っておきたいと思いましたので」
「そうよね」
トミーは顎に手を添えると考え込む。
恐らく、スプリンガーにもノンは自分たちのことを話していると彼女は考え、それではジュークには自分から話したほうがいいかもとも思ったのだった。
「さっきも言ったように、ジュークの見た少女は私たちの姉よ。私たちには他にも双子の弟たちがいるの。私たちは、そうね、こう言っては語弊があるかもしれないけれど、人間とは言えないのね」
「人間ではない」
当たり前なのだが、ジュークは何の感情もない声でそう言った。
「うーん。そうねぇ。厳密に言うと人間とも言えるのよ。ただ、普通の人にはない能力があるということで、ちょっと人間とは言えないとも言えるというか……」
「人にはない能力」
「そう。ひとつは長命ね。死なないわけではないので不死ではないの。ただ、不死とも言えるくらいの長い時を生き続ける。それもあって、私たちはもっと上の絶対的存在の方から世界を管理する命を受けることになったというわけ」
「絶対的存在……それは神という存在ですか」
「神、ねぇ。まあ、そういう言い方もあるわね。他の世界ではまた別の名称だったと思うけれど」
「別の世界、ですか」
「そう。私たちのいるこの世界とは別の世界がおびただしいほど存在するのよ。それでも基本的にひとつひとつの世界には人間と同じような者たちが存在し、それを管理する者たちもその人間たちから選ばれた者たちがなるといった感じかしらね。私もそれほど詳しく知っているわけではないのだけど……」
彼女は言う。
世界はある時、突然生まれるという。
最初はどのような生まれ方をしたのかは管理者たちも誰一人として知っている者はいないのだが、ある世界で存在していた者から突然世界が生まれ、それを生み出した者がその世界の最初の管理者となるようだ。
管理者は本人が選んだ者たちを引き連れて新しい世界へと移り住んでいく。
そうやって延々と世界は生まれ続いていくのだ。
「この世界は私たちの父と母が生み出した世界なの。だから、その父母の血縁者たちがこの世界を管理する管理者となってるわけなのよ」
「そうだったのですが」
「でね、この世界は双子なの」
「双子?」
「ええそう。この世界はその双子のうちのジン、そして、この世界に隣接して存在している世界がシン、でね、この双子の世界が私たちの弟たちなのよ」




