第5章「コンピューター・ジューク」第6話
ジュークたちの希望号は程なくアメーシスに到着した。
それ以前から、モーゼスとずっと連絡を取り合っていたジュークは、突然、モーゼスからの通信が途絶え、少々不穏な空気を感じていた。だが、それでも希望号はアメーシスの大地に降り立った。
「都市は地下にあるということだったな」
ジューケイダーはそう言うと、それにジュークが答える。
「都市の転送装置と繋がりました。いまだあちらのコンピューターに接触はできていませんが、どうされますか」
「転送してくれ」
「わかりました。お父さんはどうされますか」
「私も行く。何人かはこちらに残していくので、後は頼んだぞ」
「はい」
そして、ジューケイダー達はアメーシス都市内に転送されていった。
それからしばらくして、希望号船内に異変が起きる。
「誰かがいる」
ジュークが知らず呟く。
そのとたん、船内に緊急アラートが鳴り響いた。
どうやら船内に残った誰かが鳴らしたらしい。
ジュークは船内のあらゆる場所に設置されたカメラで船内を探った。
「少女?」
ここには絶対にいないはずの人間だ。
船内に存在する人間はジュークが完全に把握している。
まるで何もない空間から突然現れたようだ。
確かに、一方的に転送されるということもないわけではない。
だが、そうであっても転送されてくればジュークにはわかる。
それが、この少女に限って、いつ船内に存在しだしたのか把握ができない。
それは大昔から語り継がれてきた亡くなった者たちの魂が彷徨うおとぎ話に出てくるようなそんな存在のようだ。
すると、その少女が突然消えた。
だが、次の瞬間、その少女がジュークのいるコンピュータールームに出現したのだ。
「おや、ここにもいるのか」
尊大な物言いだ。
「あの星にもおまえのようなものがいたが、不思議なものよのう」
「あなたは誰ですか」
ジュークの問いかけを聞くと、少女はクスクスと笑う。
ジュークは今までに感じたことのない感情を抱いた。
それは「癇に障る」というもので、機械である彼には抱くことはないはずなのだが。元が人間だからなのか、彼は何故かとても嫌な気持ちになった。
「この船にいる人間たちの命は近いうちに潰える」
少女は楽しそうな声音で突然そう言った。
「この船内は汚染され、あの青い星に戻ったらその感染はそこにも広がるぞ。まあ、我はそれでもかまわぬがのう」
その時、突然、ジューケイダーから通信が入った。
「ジューク、急いでこの星を離れろ。だが、我々が移民した星には戻るな」
「お父さん」
「ジューク……」
ジューケイダーは何か話そうとしていたが、通信は突然途絶えた。
「どうして…」
ジュークはいつのまにか消えてしまった少女の姿を探したが、すでに船内にはその痕跡を見つけることはできず、ただ茫然としているだけだった。
「それで、その少女はいったい何だったんだ?」
紅い目を煌めかせて男が問う。
すると、そこにいる二人の少女が、明らかに胡散臭いといった眼差しを男に向けた。
その二人の少女のうちの一人がためいきをつきつつ口を開いた。
「………スプリンガー、あなたはなぜ今ここにいるのですか?」
「いやだなーノン。そんな他人行儀な言葉づかい、もっと砕けて話してくれよ」
「…………」
さわやかな笑顔を向けるスプリンガーに対して、感情のこもらない黒い瞳をじっと向けるトミーだったが、何かを思いついたのか、その目が興味深いものを見たように見開かれた。
そんな中、まったく空気を読んでいないといった感じで、ジュークが答えた。
「私にはわかりません。結局、アメーシスとは連絡がつかず、父の厳命もあったので惑星からすぐに離れましたので。でも、恐らく、地上の人々は父たちとともにその命を奪われたことでしょう。なので、私も第三惑星、つまり、地球には戻らずに金星へ向かい、希望号を停止させたのです」
「……その少女は金髪碧眼だったのね」
ジュークの言うことに複雑な表情を見せたトミーが聞くともなしに呟いた。
彼女の呟きにノンも表情を歪ませた。
「たぶん、私たちはその少女の正体を知ってるわ」
「なんだって?」
スプリンガーが驚いたが、それに対してノンは眇めた目つきで彼を見やると、さらに彼が驚くことを言った。
「スプリンガー、あなたもよく知っている人物よ」
「私が?」
「そうよ。ジューク」
ノンはスプリンガーに頷いて見せてから、ジュークに呼びかけた。
「その少女はこんな姿ではなかった?」
「ああっ!」
スプリンガーが驚いた声をあげた。
それもそのはず、彼の目前でノンの姿がユラユラと揺らぎ、その姿を変貌させたからだ。
スラリとした体躯が小さくなり、稚い少女に変わり、茶色の髪は金髪に、そして同じく茶色だった瞳は目も覚めるようなアイスブルーへと変わっていったのだ。
「どう? ジューク」
少女へと変貌したノンが問う。
「……はい、確かに」
同胞や肉親の命を奪ったあの存在を彼は忘れることはできなかった。
憎しみという気持ちは彼の中には存在しない。
だが、それでも、理不尽にその命を絶たれてしまったことに対する何とも言えない感情は、彼の心にずっと澱のようにたまっていったのだ。
なぜ、父たちは、同胞たちは、死ななければならなかったのか。
ジュークはずっと自問し続けたのだから。
「どれだけ時が経ったとしても、あの姿は忘れられませんでした」
そのジュークの言葉に頷く少女の姿をしたノンは、自身の身体を徐々に元に戻していった。
「私の姿はかの人とそっくりなのよ。そりゃそうよね。だって私達は姉妹なのだから」
「え…」
ノンの言葉にスプリンガーは戸惑ったような声をあげる。
「スプリンガー、あなたの星に降り立った女神スメイルは私たち、私とトミーの姉なの。そして、そのスメイルがジュークたちの同胞に最悪なことをもたらした元凶。その少女はスメイルよ。間違いないわ」




