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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第5章「コンピューター・ジューク」第2話

 五隻の宇宙船のすべてに生体コンピューターが配備され、ドクター・ドルゴは希望号の船医になるはずだったのだが、彼はモーゼスがコンピューターとして設置されたアメーシス号の船医に移籍することになった。

「ジューク、君と一緒に旅に出たかったが、それも叶わぬことになってしまったな」

 旅立ちの時、ドルゴは親友と抱き合い、別れを惜しんだ。

 もう二度と会えないことは互いにわかってはいた。

「通信網で話はできる。コールドスリープから目覚める度に話そう」

 そうして二人は長い旅に出ることとなったのだ。


 生まれ落ちたその時からジュークの脳はコンピューターと繋がれ、その身体はコンピューター室の隣の部屋のほとんどを占める羊水のような水に満たされた透明な大型タンクに多くの管に繋がれ浮かされていた。

 成人になって脳の成長が止まるまではコールドスリープをするわけにはいかなかったからだ。

 彼が18歳になるまではその身体と脳の成長をそのままにしておくしかない。

 それに達した時に、初めてジュークの身体は永久的に冷凍されることになる。

 二度と生身の身体として動くことはないので、身体は必要もなく、処分してしまうという選択もあったのだが、科学者たちは身体を処分し、脳だけ取り出したとしても、その脳が独立して生き続けるかどうかは実は明確な答えを出せなかった。動物実験では脳だけでも生き続けたらしいのだが、さすがに人間での人体実験はできなかったので、身体の処分はしないほうがいいだろうという結論に至ったのだ。

 コンピューター・ジュークが完成して、初めて巨大コンピューターの前に立ったジューケイダーは複雑な気持ちのまま立ち尽くしていた。

 本当にこれでよかったのか、たとえ大勢の人間を救う為とはいえ、同じ同胞を犠牲にしてまで成し遂げるべきことだったのか。

「私はもしかしたら間違った選択をしてしまったのかもしれない…」

 思わず彼はそう呟いた。

 すると、その呟きに答えるかのごとく、巨大コンピューターがチカチカと瞬き始めた。

「その気持ちだけでもあれば良いと思いますよ」

「え…」

 突然、コンピューターが喋り出した。

 そんなことが起きるとは思っていなかった。

 生体コンピューターとはいえ、いまだまだ言葉も話せぬ赤子の脳が繋がったばかりなのだ。まだ喋れるはずもない。

 だが、コンピューターは話し続ける。

「私は自分を不幸だとは思っていません。私の存在で多くの人が救われるのであれば、こうなったとしても本望だと思っています。だから、そんなに気に病むことはありません。それは他の生体コンピューターの方々も同じようですよ」

「ジューク」

 聞いていくうちに落ち着いてきたのか、ジューケイダーは息子の名を呼んだ。

「おまえは自分が何者かわかっているのか」

「はい。ジューケイダーを父、ソフィーアを母としてこの世に生まれた者です。その能力を買われ、私は生体コンピューターとなりました」

「そうか」

 ジューケイダーはひとつため息をつくと続けた。

「これから我々は力を合わせて、移住できる惑星を探していくのだ。力を貸してくれ」

「はい」


 それから、最低限のクルーだけ以外はコールドスリープに入った。ジュークが成人になる18年後までは何人かは彼の相手をするためにも眠るわけにはいかなかったからだ。それは、父親であるジューケイダーもそうだし、母親であるソフィーアもそうだった。とくにソフィーアは母親でもあるので、どうしても子供の傍でその成長を見守りたかったからだ。

 親子の抱擁はできなかったが、できるだけ傍でいろいろな話をすることを望み、ソフィーアは母親として我が子に接してきた。

「不思議なものね」

「どうしたのですか?」

 とある日のこと。コンピューターの前に置かれたソファに座り、ジュークの母親であるソフィーアがいつものように息子と話をしていたところ、彼の母の呟きにジュークが怪訝そうな声で答えた。

「本来ならまだ小さな子供のはずなのに、こうやっておまえと話していると、一人の成人した相手と話している気持ちになるのだもの」

 ああ、そうか、とジュークは思う。

 母のお腹にいる時から自分には自我があり、生まれる寸前まで様々な知識が自分の頭にあると自覚していたものだ。それは他の仲間たちも同じようで、みな、機械と繋がった瞬間から自分のように会話をしているのだ。

「恐らく、ですが、人間の全てが母親の胎内にいる時から成人した人間の思考を持っているのではないかと思います。私や私の仲間であるコンピューター達は生れ落ちてそのまま機械に繋がれたのでそのまま機械を通じてコミュニケーションができていますが、他の方々はそのまま幼い身体のままであるため、生まれ落ちてから徐々にリセットされていくのではないでしょうか。私はそう思いますよ」

 ソフィーアは息子の言葉に考え込むように呟いた。

「そうかもしれないわね。私もそんな気がしてきたわ」

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