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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第4章「宇宙船希望号の旅立ち」第8話

 宇宙船希望号のとある場所。

 そこは神聖な場所でもあった。

 船体の深層部、いわゆる船底にあたるその場所は乗員が冷凍睡眠をする場所でもあった。どれほどの広さがあるのかは肉眼では目視できないほどで、何層にも階層が連なり、億単位の人口が一度に眠ることのできる広大さである。

 今は住む人もいない船内であるため、一つとして稼働している睡眠装置はない。

 だが、今、一つの装置が稼働している。

「もう肉体には魂は宿っていないのにね…」

 自嘲気味で呟くのはノリコだった。

 その呟きを黙って聞いているのは仲間たちだ。

 誰一人として口を開く者はなく、あたりには重い空気が立ち込めていた。

 すると、その重い空気を断ち切る言葉を発する者がいた。

 仲間たちとは違うその声の持ち主は、ザール星の総統スプリンガーだった。

「本当に申し訳なかった。我が弟にはしかるべき罰を与えようと思っている」

「いえ、それには及びません」

 すかさずノリコが答える。

「もともとはスメイルの所業のせいです。そして、そのスメイルがそのような所業に至ったのも詳しくは話せませんが、私とトミーのせいでもあるのです」

 ノリコの言葉にスプリンガーは驚いたが、と同時に、彼女の仲間たちも吃驚している。仲間たちは恐らくその理由を聞きたいと思っているだろうが、なぜかそれ聞くことがためらわれていた。

 だが、スプリンガーは違った。

「それはどういうことでしょう。スメイルとあなたは何らかの関係があるということなのでしょうか」

「その通りなのですが、詳しい事はどうか聞かないで欲しいのです。そして、恐らくもう二度とザール星にはスメイルが舞い戻ってくることはないでしょう」

 それが本当であるなら、ザール星はこれからどうすればよいのか、スプリンガーの戸惑いは指導者としての矜持を揺るがした。

 そのスプリンガーの表情は彼の心の内を如実に表していて、ノリコは気の毒そうに言葉を続けた。

「これは提案なのですが、どうでしょう、ザール星はこのままこの太陽系の一惑星として地球連邦の一員になるというのは」

「え…」

 ノリコの提案にスプリンガーはさらに戸惑った。

「それは確かに願ったり叶ったりではあるのですが」

「地球のトップに話を通すではなく、昔からザール星も太陽系の一惑星ということにしちゃうんですよ」

「……なに簡単に言ってくれてるんだか」

 ボソッと呟いたのはマサオだった。

 だが、その呟きに仲間たちは黙って頷いていた。

 そして、スプリンガーもその呟きに同意するかのように渋い顔をした。

「だが、そう簡単にはできないことだろう。地球のトップが納得しないと思うのだが」

 そんな彼らの重たい空気を払拭するようにノリコはニコッと笑って言った。

「それこそ集団催眠ですよ」

 まるでこれから遊園地にでもいこうとでも言いそうな声音だ。

「太陽系全土に集団催眠をかけます。そうすればザール星も悠久から太陽系の惑星として存在していることになる」

「そ、そんなことが…」

 あまりの発言にスプリンガーの声が掠れた。

 いったいこの少女は何なのだと言いたげな表情を見せ、彼はノリコを凝視する。

 そして、それはノリコの仲間たちにも言えることだった。

 彼らはまるで知らない人間を見るような目で、仲間であるはずのノリコを見つめていた。


「説明してもらいましょうか」

 仲間たちを代表してリエが言った。

 彼らはジュークのいるコンピューター室にやってきていた。

 スプリンガーはとりあえずザール星に戻っていた。あとでまた戻ってくると言い残して。

「ハヤトがノリコを庇って亡くなったというのはわかったわ。あんな亡くなり方で私達も悲しいけれど、もう起きてしまったことはどうしようもない。けれど、少し前から私達、なんていっていいかわからなくて困っているのだけれど、ノリコの様子がどうも今までと違っていて違和感があるの。特にこのトミーという少女がやってきてからはあなたがまるで違う人間になってしまったかのようで戸惑ってるのよ。だから、どうか納得いく説明がほしいのよ」

 リエの口からトミーの名前が出たが、名前の持ち主である黒髪の少女はまったく表情を変えなかった。まるで自分も彼らの仲間であるとでもいわんばかりの態度だった。

「……そうね。これからのことを思えば言わなければならないことよね」

 ひとつため息をつくとノリコは話し始めた。

 それは仲間たちにとってとんでもない話でもあった。

「まず、私とトミーは人間でもあり人間でもないともいえる存在なのね」

 いわゆる神と呼ばれる存在でもあるのだが、厳密にいうと人間と同じ種でもある。ただ、普通の人間と違うのは長命であり、特殊な能力があるということ。

「まあ、いわゆる超能力といわれるものを持っているだけなんだけどね」

 ノリコたちの種族はこの宇宙をより良く管理する存在であり、本当なら短命の人間とは別の場所にいるはずだったのだが、ノリコとトミーは人間世界に溶け込み、間近で彼らをサポートするのが本来の仕事だったのだ。

 ところが、スメイルが二人の仕事をことごとく邪魔をし、今回のことも自分たちを困らせるためにザール星を利用したということだったのだ。

「今回だけじゃなく、今までにも何度も嫌がらせはされたのだけど、前回、自分の肉体がなくなるという事態になって、トミーに私の魂だけ地球に持ち帰ってもらったのだけど、私の記憶が戻る前に冷凍睡眠してしまって未来に目覚めてしまったのね。それでもまだ記憶が戻ってなかったのだけど、このたび記憶が無事に戻ったので、私に対する印象が変わったのもしかたないかなと思うの」

「とても信じがたい話ではあるけれど、ノリコが私達を騙すというのも違うと思うので、少なくとも私自身は信じたいと思うわ。みんなはどう?」

 すると、リエと同じく、仲間たちもノリコの言葉を信じたようだった。

「それで、ノリコ。君はこれからどうするつもりなんだい?」

 そう言ったのはノブオだった。

 彼の言葉に頷いてノリコは言った。

「私はこれから希望号で旅に出ようと思うの。このまま地球には戻れないと思うのよ。だから、あなたたちはこのまま船を下りてザール星で地球からの迎えを待ってほしいわ」

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