第4章「宇宙船希望号の旅立ち」第6話
「こほん…」
わいわいと騒がしい船内がピタッと静寂に包まれた。
画面の向こうのスプリンガーが咳払いをしたのだ。彼は何か言いたげな表情で彼らを見つめていた。
だが、賢明にも彼は今繰り広げられていたことには触れず静かに言った。
「それではキャプテン、待っている」
「え、ええ、わかりました。それでは、私とこちらの二人をそちらに転送しようと思います。座標をこちらの転送装置に送ってください」
心持ち顔を赤くさせながらノリコは答えた。
スプリンガーは頷くと、スクリーンからその姿を消した。
「ったくもう…」
ノリコは舌打するとハヤトを振り返って睨んだ。
ハヤトはどこ吹く風というふうに明後日の方向に視線を向ける。
それに対して諦めたようにため息をつくと、ノリコは残りの仲間たちに視線を向ける。
「これからザール星に行ってくるわね。心配しないで。絶対大丈夫だから。トミーのこともあとで説明するから、みんな、待っててくれる?」
仲間たちはいっせいに彼女に頷いて見せた。
恐らくいろいろとすぐにでも聞きたいことはあっただろうが、賢明にも彼らは待つと決めたようだった。
そうして、ノリコとトミーとハヤトはザール星へと転送されていったのだった。
「兄上、いったいどういうことですか」
ノリコとの通信が終わってすぐのことだ。
スプリンガーの弟であるローンが自分の兄に詰め寄った。
「なぜ、地球を攻撃しないのです。それに、なぜ、あのような者達をこちらに来させるのです。あなたはいったい何をしようとしているのですか」
「…………」
スプリンガーは己の弟をじっと見つめるだけで何も言おうとはしなかった。
その時、部下の一人がノリコたちの到着を告げた。
「総統、地球人たちが到着しました」
「わかった」
彼は一言そう言うとローンに向けていた視線をそらしてその場から立ち去った。
それを見送るローンの表情は悔しそうに歪められていた。
「兄上、どうして……」
彼の言葉は兄に届く事はなかった。
それからスプリンガーは、地球人たちが通された応接間に赴き、直接ノリコと対面を果たした。
「初めまして、私はこの惑星ザールの総統でスプリンガーと言います」
ノリコたちはスプリンガーが入室すると座っていたソファから立ち上がった。
「私はノリコと言います。宇宙船希望号のキャプテンでもあります。できればノンとお呼びください。そして、こちらが仲間の一人でハヤト、こちらがトミーと言います」
ノリコの紹介でハヤトとトミーは軽く会釈をした。
それに対して鷹揚に頷くとスプリンガーは三人に座るように促した。
三人が落ち着いたのを見届けてから、彼は口を開く。
「キャプテン・ノン、私の要求を聞き届けてくださってありがとうございます。さっそくですが、今から私の要求の内容を聞いて頂き、それを地球のトップの方に仲介していただけないでしょうか」
「それがどんな内容かは今の時点ではもちろんわからないのですが、どうやら戦争ということではないようなので、喜んで仲立ちしたいと思います」
ノリコは微笑んでそう言った。
スプリンガーは満足したように安堵の表情を見せた。
「ありがとうございます。結論から言いますと、このザール星をこの太陽系のこの場所に置いていただきたい、つまりここに存在するのを認めていただきたいと思っているのです。その際に、独立するのではなく、地球の配下に置いていただきたい。つまり、星ごとこの宙域に移住をしたいと思っているのです」
「え……」
ノリコも驚いたが、トミーとハヤトも吃驚した。
「スプリンガー総統、それはいったいどういうことなのです。なぜ、そうまでしてこの宙域に移住しようとしているのか、そのわけを教えてください」
「そうですね。もちろん、理由をお教えしなければなりませんよね」
スプリンガーの表情が一瞬曇ったが、彼は意を決したのか、とんでもない話をしだした。
「私を見てどう思われましたか」
「どうとは?」
「私は何歳に見えますか?」
「20代後半かと」
「そうですよね。そう見えますよね。実は私はもう200歳にもなるのです」
「ええっ!」
叫んだのはハヤトだった。
「み、見えねぇーよ。すげー若作りだ。どうやったら若いままいられるんだ?」
「バッカねー、そんなわけないでしょ」
驚くハヤトをノリコを挟んで座ったトミーが馬鹿にしたように言った。
「なんだとおー」
二人の漫才みたいなやり取りを完全無視してノリコは首を傾げた。
「……まあ、年齢のことは置いておいて。それが本当だとしても、どうしてそんな不老のような体質になってしまったのか理由があるはずですよね。それが今回の移住に関係あるのでしょう?」
「はい、その通りです。200年近く前にある人物がザール星に降り立ちました。その人物が私達の年齢を止めてしまったのです。それからは私達はその人物の言いなりとなっていってしまった。逆らえばどうなるかわかりません。現に私の弟の恋人が彼女に逆らったために石にされてしまいました」
「石に、ですか?」
「はい、今も中庭で石になったままの姿でいます。動かすにも壊れてしまわないかと思い、移動させることもできません」
「…………」
ノリコは考え込む仕草を見せた。
「ノン」
それを隣に座る黒髪の少女が気遣わしげに見つめる。
「……総統」
「スプリンガーとお呼びください。私もあなたをノンと呼びます」
「では、スプリンガー。その人物とはどういった人物ですか。身体的特徴をお教えください」
「姿は女性です。人々は彼女を女神と言っていますが。私にはどうしても女神とは思えないのです。はっきりとした全身の姿は見たことがありません。いつもまるで投影された姿で現れ、輝ける黄金の真っ直ぐな長い髪と鮮やかなブルーアイの壮絶なまでに美しい人物です」
それを聞いたノンとトミーは絶句した。
そして、ノンは震える声で言う。
「その人物の名は……」
「聖母、スメイルと言います」




