第4章「宇宙船希望号の旅立ち」第2話
「あ……」
ここは巨大宇宙船の外。
謎の美少女とシンゾウがようやく到着したのだ。
少女の表情は大輪の花のように華やかで、そして、晴々としていた。それからとても嬉しそうに声を上げた。
「ノンが目覚めたわ!」
と、同時に、彼女とシンゾウは瞬時にしてその場から消えた。
二人が実体化したのは、ノリコのいるコンピュータールームだった。
「ノン!」
黒髪の少女はそう叫ぶとノリコのそばに駆け寄った。
「トミー!」
それに対してためらいなく少女の名前を呼び、彼女と同じく駆け寄り、その細身の身体を抱き締めた。
「待ってたわ、ノン。あなたが目覚める時を。ずっと待ってたわ」
トミーは泣きじゃくりながらそう言った。
それを慈愛の目でもってシンゾウは見守っていた。
一方、二手に分かれた片方のチームは、この船のコンパートメントらしき場所に来ていた。
彼らは念のため、コンパートメントを覗いてみることにした。
もしかしたら人がいるかもしれないから、と。
そこは8畳ほどの広さにベッドとデスクと本棚があるだけだった。他には何もない。長い間使われていないようだが、埃も見当たらず、清潔この上ない空間となっていた。
「おーい、こっちにも何もないぞー」
少し離れた場所を見てきた連中が戻ってきた。
「どういうことかしら。この船には人のいる気配がまったくないわね」
リエが考え込むように呟いた。
だが、これ以上どうにもならないと思ったらしい。
「とにかく、ノリコたちのグループに合流しましょう」
彼らはもときた道を戻り始めた。
しばらく行くと、別れたグループと鉢合った。
「おー、そっちはどーだった?」
ヤスオがやたら明るい声で叫んだ。
すると、ハヤトが慌てて答えた。
「大変なんだ、ノリコがいなくなった!」
「なんだって?」
「ええっ、またなのっ?」
とても心配しているように思えない声も上がったが、ノリコには前例がある。心配に思いつつも、またかと思う者も正直いないわけではなかった。
そんな騒然とした中、声を張り上げたのは、やはりリエだった。
「みんな、黙りなさい! 騒ぐなんてみっともない。子供じゃないんだから、速やかにノリコを捜すのよ!」
『その必要はないですよ』
その時、彼女の声を遮るように声が響いた。
『彼女はここにいます』
どこからともなく響いたその声は周囲の壁から天井から廊下から聞こえているようにも思えた。
さすがのリエもこれには驚愕し、黙り込んでしまった。
すると、次の瞬間、彼らはその場から消え、実体化した。
どこへ?
それは勿論、あのコンピュータールームだった。
突然、別の場所に転送されたにも関わらず、彼らは実に訓練された人間よろしく、臨戦態勢を取った。戸惑いも感じていただろうに、それを見せずに。
だが、それもノリコの姿を見つけると、ホッとした空気を漂わせた。
最初に叫んだのはハヤトだった。
「ノリコ!」
それを皮切りに、他の皆も彼女の名前を叫びながら、ワッとばかりにノリコに駆け寄った。
「みんな…」
仲間たちの出現で、先程まで見せていた、やたら尊大な表情が崩れ、ノリコはもとの18歳の少女らしい表情に戻った。
「私はコンピューター・ジューク。この宇宙船希望号の中枢神経の役割を担っています」
彼らが落ち着くと、ジュークは淡々と喋り始めた。
彼らはコンピューターのそばに設けてあるソファに思い思いに座り込んでいた。今はだいぶ楽にしている。
「コンピューター・ジューク、ひとつ聞きたいのですが」
すると、ノリコが口を切った。
「はい、何でしょうか」
ノリコはというと、やはり、仲間たちはどうも彼女の様子が今までと違うぞと感じているようだ。それに、ノリコのそばにいた黒髪の少女のことも気になるし、しかも、なぜかシンゾウがここにいることにも疑問を感じているようだった。が、誰もそれを指摘する者はいなかった。というか、言えない雰囲気を彼らは感じていたのだ。
それに気づいているのかいないのか、ノリコは構わず続けた。
「あなたは、今まで長い間沈黙を通してきたのに、何故、今になって我々を招き入れたのですか」
彼女の質問に一瞬間をおいて、ジュークは答えた。
「それは、私があなたを選んだからです」
「選んだ?」
彼女は首をかしげる。
「それはどういう意味ですか?」
それからノリコは、まったく意味がわからないといった顔で、隣に座っている黒髪の美少女に視線を向けた。
トミーも不思議そうにノリコの視線を受け止めた。
「それは……」
珍しい。機械が言い淀んでいる。
すると、ジュークはとんでもない言葉を発した。
「……秘密です」
周辺の空気が凍りついた。
ノリコに限らず、その場にいる者たちはみんなそう感じた。
だが、一人だけ、凍りつかなかった者がいた。
「秘密って、ふざけんなよっ!」
ハヤトだった。
かなり激怒していた。
相手がコンピューターであっても容赦しないと言いたいくらいの勢いだ。
だが、それを止めたのは彼の正面に座っていたリエだった。
「ハヤト」
彼女はそう一言だけ言うとキッと睨みつけた。
さすがのハヤトも黙り込む。
だが、ジュークは何事もなかったように続けた。
「ただ、ひとつ言えることは、この船はあなたのものだということです。キャプテン・ノン」
「キャプテン・ノン!」
そこにいる全員が一斉にそう叫んだ。




