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ノナビアス・サーガ  作者: 谷兼天慈
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第10章「夢幻の果実の見せる真実の愛」第8話

 その昔、実際に喋るバイクが存在した事がある。

 笑湖は知らなかったが、笑湖の生きていた時代にその稀有なバイクは存在していたのだ。

「ただ、当時、そんなバイクが存在していたということは皆忘れてしまったんだよ、ごく一部の人たち以外は」

「どうしてあなたはそれを知ってるの? もしかしてその覚えていた一部の人なの?」

「違うよ。そうだね。アリから聞いたことがあるんだ」

「え、ナァイアスはアリと知り合いなの?」

「うん、古くからの知り合いなんだ。というか、ロボットを作ってるのはうちの研究所だからね」

「あ、そうか。そうよね」

 笑湖は恥ずかしそうに赤面した。

 そんな彼女を微笑んで見つめながら彼は言う。

「詳しい話は今度アリに聞いてみたらいいよ。私も詳しくは知らないんだ。でも、魂は確かにありとあらゆるものにあるっていうのは本当のことだよ」


「うん。そうだよ。喋るバイク。あと、スクーターもいたな。まあ、バイクもスクーターも同じか」

 暖かい日差しのある公園のベンチで笑湖とアリは並んで座っていた。

 あれから数日と立たないうちにアリから笑湖に会いたいと連絡を受けて、研究所近くの公園で待ち合わせをしたのだ。

「そうね。考えてみればロボットであるあなたたちも本来なら機械なんだから喋るっていうのも不思議なことだものね。たまたま、あなたたちは人間みたいに喋ることのできる作りになってるから喋ってるわけだし」

「別に喋る器官がなくても喋れるんだけどね」

「え?」

 小さくアリが呟いたので、それは笑湖には聞こえなかったようだ。

「いや、なんでもないよ。で、納得した?」

 笑湖は小さく頷いた。

「じゃあ、ここからは本題」

「え、本題?」

「うん、そう。ねえ、笑湖ってさ、ナァイアスのことどう思ってる?」

「え…何言って…」

 唐突な質問だった。

 笑湖は狼狽えた。

 そんな彼女を感情のこもらない目でアリはじっと見つめ、おもむろに言う。

「君、吾郎のこと男として好きだった?」

「え? なんで吾郎のこと知ってるの?」

 突然、思ってもみない名前が出てきて、笑湖は驚愕する。

 どうして、アリが吾郎のことを知ってるのか。

 笑湖たちが生きていた時代に存在していたわけでもなく、そして、人間でもないアリが、まるで何でも知っているぞと言いだしそうな雰囲気を醸し出している。

 笑湖はそんなアリに微かな恐怖を感じた。

「吾郎は報われない思いをずっと抱いていたよね。愛する人に同じだけの思いを返してもらえず。それでも彼は愛する人に愛されなくても傍にいて守ることはできると思っていた。そんな清らかな魂の持ち主だった。だからこそ、次の生では相思相愛な関係を築けたんだよ」

 アリは何を言ってるのだろう、と、笑湖は思った。

 彼女は混乱していた。

 ところが、次の瞬間、もっと混乱するようなことをアリは告げる。

「前世で吾郎だった魂は現世ではポウルというロボットとして生きている」

「は?」

 ポウルの魂が吾郎の魂?

 というか、どうしてそれをアリが知っているというのだろう。

 そんなことを知っているのはいわゆる神という存在だけじゃないのか。

 まさか。

「ねえ、笑湖。まだ思い出さない? 君はナァイアスの思い人なんだよ。それを君はよく知っているはずだよ」


 昔昔のことだった。

 生まれたばかりの赤子に恋をした少年がいた。

 美しい両親から生まれた女の赤子は、それはそれは美しい存在で、少年は自分に笑いかけたその赤子をずっと愛していこうと決めたのだった。

 その少年の名をナァイブティーアスといい、赤子をスメイルといった。

 スメイルは父親にその性質もそっくりで、欲しいと思ったものは何としても手に入れる、そんなふうに育っていき、後に数々な騒動を起こしていくようになる。

 そんなわけで、彼女は何度も人間として生きるはめに陥っていく。

「もっとも、君の行いは尊い人にとっては大した問題ではなかったようだね」

「…………」

「まあ、こういっては不敬かもしれないけど、あの御方はそんなことは気にしないだろうしね」

「………」

「全ての魂が同じになるというのも良くないということであるなら、君の存在もあって当然。むしろ、君の存在意義はそこにあるとも言えるんだけど。僕としては、同じ腹から生まれた君と彼女がいつまでもいがみ合っているっていうのはちょっとイヤなんだけどなあ」

「…何を、言ってる、のか、わかんないんですけどっ!」

 ぶつぶつと愚痴めいたことを言い続けるアリに、笑湖は叩きつけるように叫んだ。

 そんな彼女に不適な笑みを見せてアリは呼ぶ。

「スメイル」

「………何?」

「!」

 本来なら笑湖がそう呼ばれることで戒めが解かれて動揺するはずだった。

 ところが、何を言われたのか本当にわからないといった表情に、アリは酷く動揺をしていた。

「え…なんで記憶が戻らないんだ? 普通、僕に真名を呼ばれたら、記憶が戻るでしょ。うーん?」

 しきりに首を傾げてぶつぶつ呟くアリに、笑湖は苛立った声を上げる。

「ねえ、アリ。さっきからよくわからないこと言ってるのだけど、どういうことか説明してくださる?」

 すると、アリは突然叫んだ。

「えっ! もしかして、もしかしてだよっ、スメイルって真名じゃなかったのかっ?」

「!」

 突然の叫びに笑湖は目を丸くして驚いた。

「ごめんっ、笑湖。ちょっと僕、ナァイアスと話してくるっ」

 そう言うと、アリは突然立ち上がって走り出した。

 それを呆然と見送った笑湖なのだった。

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