第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第12話
「それで、おまえはこれからどうするんだ?」
一通りの話を聞いたアイザックは問う。
それに対して少し困った表情を見せたジェイクは口ごもりつつ言葉を発する。
「言いにくいですけど、このまま生き続けるのは不本意ですので……」
「また自殺すると言うのかっ!」
ジェイクの言わんとすることを察知したアイザックは声を荒げた。
ジェイクはビクッと身体を震わすと「ええと…」と何かを言おうとしたところで、突然、部屋のドアが開かれた。
「アイザック、怖がらせてどうする」
そこには社長であるマインドとシナモンが立っていた。
どうして社長がここに、と、アイザックは思ったが、それどころではない。とりあえず闖入者のことよりも今はジェイクのことだと思い至ったのか、彼はジェイクの傍に駆け寄って跪く。そして、ジェイクの手を取ると諭すように静かに声をかけた。
「ジェイク、どんな形であれ、こうやって再び現世に戻ってきたのだ。今度は自分の思うまま自由に生きてみないか? 私はその手伝いをしてやりたい」
すると、ジェイクは頭を振る。
「そう言って下さるのは嬉しいのですが、僕は一度死んだ人間です。もう一度生を賜るとしたら本来ならこんな形ではなく、自然に転生という形で、今までのジェイクとしての記憶をなくした状態で生まれるはずなのです。この形は歪なんですよ。だから、この身体から魂は離されなければならないのです」
「その通りだよ」
それに同意したのはマインドだった。
「ジェイク、久しぶりだね」
「はい、社長」
マインドは微笑を浮かべる。
「こんな形ではあるが、君に会えて嬉しいよ」
「……実を言うと僕は自殺したことを後悔しているのです」
その言葉はマインドにではなく、アイザックに向けて言われた。
彼はアイザックに顔を向けると続けた。
「僕が死んだ原因は生前にあなたに言った通りです。あなたを慕っていたけれど、僕はあなた以外とも関係を持たなければならなかった。あの時はあなたに衰えていく容姿のことを言いましたが、それが原因ではなかった」
「アイザックを愛していたのか?」
マインドが問う。
だが、ジェイクは首を振る。
「僕はアイザックのような強い男になりたかったのです。現役の時はアイザックは決して僕のようなことはしなかったと聞きました。社長、あなたはアイザックに無理難題を言っていたんですよね」
「死んだことで知ったか」
ジェイクは頷く。
「みんな、あんなことをして売っているのだと思い込んでいました。そうじゃなかったと知った時、僕は酷く後悔しました。僕は生きてアイザックの傍にいなきゃいけなかったんだって」
「私はっ、おまえにそんなことを言われる善人なんかじゃなかったんだっ!」
アイザックは悲痛な声を上げた。
それを受けてマインドが話し出す。
「当時の私はいろいろな要因でやさぐれていた。その不満を戦災孤児として連れ帰ったアイザックにぶつけていただけだったのだ」
かなり酷いことをしたと、マインドは意気消沈した声で言う。
それを受けてアイザックも続ける。
「そして、私は、その不満をジェイクにぶつけていただけだった」
「僕がもっと強ければ、自殺という行為ではなく、アイザックの心を救うこともできたかもしれないと思ったら、本当に申しわけなく思ったんです。たとえきっかけはどうあれ、アイザックは僕によくしてくれた。それは心から感謝しています」
ジェイクは慈愛のこもった目でアイザックを見つめる。
「僕はね、アイザックみたいになりたい、ううん、アイザックになりたいっていつも思ってたんだよ」
「ジェイク……」
アイザックは眉を下げて泣きそうな表情を見せた。
すると、唐突にマインドが言った。
「では、アイザックになるか?」
「え?」
「は?」
ジェイクとアイザックが同時に声を発した。
マインドは深く意味深な微笑みを見せていた。
そして、とんでもない提案をしだす。
「ジェイク、どちらにせよ、君はその身体から魂を解き放たれなければならない。魂になってからのことは君はもう知っているとは思うが、アイザックが同意すれば、君はその魂をアイザックの魂に同化することもできるんだよ」
「えっ、そんなことができるんですかっ?」
ジェイクの驚いた顔に頷いてみせてマインドは続ける。
「ということで、アイザック、どうかね。君はジェイクに負い目がある。自分の魂にジェイクの魂を同化させることに異論はないよな?」
「…………」
アイザックが呆然としていた。
とんでもない話だ。
どうしてマインドがそんなことを言い出したのか見当もつかない。
だが、確かに彼にはジェイクに負い目がある。
彼が自殺してしまった時、その負い目のせいでしばらくは自暴自棄になっていたことがある。その後、アーシェラに癒しをもらっていたが、これも結局は破局してしまい、自分は幸せになってはいけないんだと思い込んでいくようになった。
「普通は気持ち悪いと思うよね」
自嘲気味にジェイクが呟く。
それを慌ててアイザックは否定した。
「そんなことはない! それより、こんな私と同化するなんていいのか? 私はおまえを騙してたんだぞ」
「だから、僕はそんなことであなたを嫌いになんかなれなかったんですよ。それよりもあなたになりたかったって思ったんですから、願ったり叶ったりなんですよ」
「そ、そうか…」
アイザックは肩を落とす。
「さて、さっそく始めようか」
まるでこれから料理でも始めるぞといった風にマインドは言い放つと、ジェイクに顔を向ける。
「ジェイク。この名前は私が君に与えた名前だ。本名はなんと言ったかな?」
「あ、はい、僕の名前はクリフォード・ゲイラーシャルといいます」
「ああ、そうそう。そんな名前だったな」
「僕はジェイク・ダレンという名前も好きでしたよ」
「そうか」
マインドは嬉しそうに笑った。
そして、彼はアイザックとジェイクをソファに並んで座らせた。
彼は二人の前に立つと両手を広げて二人の頭上に持っていく。二人の頭上に手の平を下に向け、歌うように言葉を発する。
「クリフォード・ゲイラーシャルの魂よ、アイザック・サイレーンの魂と未来永劫結ばれるがよい」
すると、しばらくしてマインドの手の平から金粉のようなキラキラしたものが生じ始め、目を閉じたアイザックとジェイクの身体を包みだしたのだ。
と、突然、アイザックの隣に座っていたジェイクの身体が倒れ込んだ。
その瞬間、金粉はきれいさっぱり消え去り、アイザックは自分に倒れてきたジェイクの身体を支えることとなる。そんな彼は途方に暮れた表情でマインドに目を向けた。
「この瞬間、ジェイク以外の魂の定着者たちも魂が解き放たれた」
荘厳な雰囲気でマインドはそう言った。
そして、それを満足そうな微笑みを浮かべてリリンは頷いたのだった。




