第9章「宇宙で一番うるわしい美女たち」第11話
「まず、シモンは普通の人間の女性です。少々特殊な技能は持っていますが、ああいった人間離れをした才能を持つ人間は彼女だけでなく、他にもいます。もっとも、そういった人だからこそ、ある人の身代わりに選ばれたのでしょうけれど」
「身代わり?」
「ええ、誰のとは言えませんが、とある人の身体が消失してしまったので、魂を生まれてくる人間の身体に定着させたのです。本来ならシモンが生まれてくるはずだった身体に別の魂の持ち主が生まれることになりました。そして、自分の身体に生まれることのできなかった魂はシモンとして他の人間から生まれることになったのです」
「……それが本当なら、君の存在は何なんだ?」
「私、というか、この身体の持ち主は普通にシモンの友人として存在しており、一番近しい人間でもあったので、私はこの身体を選び、シモンに何かあれば助けになれるように時にはこの身体の持ち主の意識がない時に限り、こうやって表に出るようにしていたのです。私はシモンの魂が健やかに生き続けることを目的としていますから」
「どうしてそこまで」
「それが義務だからですよ。記憶の戻ったあなたならわかると思いますが。あなた方は人間が健やかに生きる為に世界を保つ、そういう存在ですよね」
「…………罪人だがね」
マインドが苦々しげに呟く。
「まあ、そうでしょうけれど。それでも私はあなた方が罪人であるとは思っていません。ただ、秩序というものは大切ですから。それをわかってあなた方はこういった処遇を受け入れたのでしょう?」
「わかっている、それは。では、彼女の、シモンのあれは? 異世界の言語で歌うのはどうしてだ?」
「あー、あれですね。あの言語がわかるとは魂に精通したあなたくらいで、他の誰にもあれが異世界の言葉だと思わないでしょう。ですから、今まではそう問題にはなりませんでした。今回、あなたが聞くことになるとは……いやまあ、同じ世界にいれば決して聞かないということもなかったんでしょうから、それはもうこちらの落ち度です。彼女の歌声を聞いてしまえば、あなたが記憶を戻してしまうのはわかっていたんですからね。本当にそれは申し訳ないと思っています」
シナモンは申し訳なさそうに眉を下げて謝った。
マインドはそんな彼女に問う。
「それでは私はこれからどうすればいいのかな。ああ、そうか、記憶の封印をしてもらえばいいのか」
「ええ、そうなんですけど。その前にひとつ、あなたにやっていただきたいことがあるのです」
「え? それはどういったことだ?」
マインドは不思議そうに首を傾げた。
そんな彼に彼女はとんでもないことを言いだした。
「カスタム…ああ、いえ、今はスタージョンでしたか。彼は記憶を封印されていても本当にお馬鹿なところは変わりませんよね」
マインドが苦笑する。
その通りだから何とも言いようがない。
そんな彼にシナモンも苦笑し返すと続けた。
「彼の成功は、過去に亡くなった歌手の魂を人造人間に定着させて、それで歌わせていたからなのです」
「なんだって?」
「もちろん、本人は今は人間ですから、それをできる者にさせていたのですが、それをこれ以上容認できるものではありません。なので、魂の定着をかつてのあなたの能力で解いて欲しいのです」
マインドは困惑した表情を見せた。
「今の私にはそれはできないのではないか? かつての能力ははく奪されていると思うのだが」
「ああ、それは大丈夫です。記憶が戻った状態であれば能力は使えます」
「いやいや、私を信じていいのかどうか、だよ。その力で私は復活してしまうかもしれないのだが、いいのか?」
それを聞いた彼女は深く微笑む。
はっとするほどに美しい微笑だった。
「言いましたよね。私はあなたを罪人だと思っていないと。信じています、あなたのことを」
「…………わかった。やってみよう」
一方、少し前に戻って。
別室で待っていたジェイクだが、しばらくすると室内からそっと出た。
彼がスタージョンについてきたのは他でもない。
「彼の私室は変わってないだろうか」
そう、かつての恋人であったアイザックに会うこと。
もちろん、会ってどうしようという目的もなく、とにかく会って、そして…。
「一言でも謝りたい」
彼に相談もなく突然自殺してしまったこと。
それをずっと後悔していた。死んでからも。
死んで魂になっても意識は失われないとは思いもしなかった。
死ぬことですべての辛さから逃れることができると信じていた。だが、そうはならなかった。恐らく、それは彼だけでなく、生きとし生ける全ての人間が知らないことだろう。
魂は死なない。
肉体が死んでも魂は永遠に生き続ける。
新しい魂が生まれたとしても、生まれてしまった魂は未来永劫消滅することなく存在し続けるのだ。そうやって世界は続いていく。それを死んだ人間だけが知らされるのだ。
「だから僕は彼に謝らなければ次に進めないんだ」
そう呟いた彼の目の前にアイザックの私室のドアがあった。
ジェイクは扉を叩く。
中からアイザックの声で「誰だ?」と聞こえた。
「あなたに会いにきました。僕は…」
その声が言い終らぬうちに扉がスライドした。
「ジェイク!?」
ところが、扉の前に立っている見知らぬ人物にアイザックは怪訝な顔を見せる。
「………誰だ?」
「姿は違いますけど、僕は間違いなくジェイクです、アイザック。入っても?」
「あ、ああ…」
狼狽えたままアイザックはぎこちなくジェイクと名乗る人物に入室を許可した。
そして、ソファに座らせる。
アイザックも真正面のソファに座るとさっそく問いかける。
「君は本当にジェイクなのか?」
「はい、そうです」
「だが、彼は私の目の前で死んだ。亡きがらも私が確認して葬儀も出した」
呆然とした表情でアイザックは呟く。
そんな彼に、ジェイクはなぜ自分が生き返ったのかを説明した。
「そうか。そんなことが……それは魂への冒涜だな…」
「ええ、そうですね。ですが、少なくとも僕は感謝しているんです」
「え?」
ジェイクの言葉にアイザックは瞠目する。
「死を決意した時はとにかく自分のことしか考えられなかった。僕は死ぬことで僕以外の誰かが苦しむなんて思いもしなかった。まさか、僕の後を追ってしまう人達が出ることも…」
彼は苦渋に満ちた表情を見せる。
「死んだことでわかったこともあります。詳しくは話せませんが。だから、僕はどうしてもあなたに謝りたかった。そしたら、こんな風にあなたに会える身体を手にできたんです。本当はよくないことだってわかっていますが、それでも僕は感謝しているのです」




