プロローグ「地球─テラ─」第9話
彼女は夢を見ていた。
彼女は辺り一面黄金に輝く草原に立っていた。
「ここは……」
どこかで見た気がする。
いつか見たような気がする。
そよそよと風が吹き、髪を揺らし、一面に広がる草原を揺らしていた。
「何もない───」
人工のものは何もなく、生きているものも何も見えない。
「いつだったか……どこかで見た………」
ここはどこだろう。
彼女はとてもよく知っている場所だと思った。
「……………」
誰か、誰かを探していたような気がする───彼女はそう思った。
そのとき、彼女の目に何か動くものが入ってきた。
それは人のようだった。
彼女は走った。
キラキラ、キラキラ、黄金に輝く草原を走った。
すると、その人がこちらを振り返った。
「………」
だが、その人は、辺りの輝きにかすんで、どんな顔をしているのか、どんな人なのかわからない。男か女かもわからない。
彼女は手を伸ばした。
もうちょっと、もうちょっとで手が届く───
──ジリリリリリ……
「はっ…」
彼女は目覚めた。
目覚めて驚いた。
「やだ、私、泣いてる……?」
彼女は自分の目が、頬が、涙でぐっしょり濡れているのに気づいた。
「典子! いつまで寝てるのっ、敏枝ちゃんが迎えに来たわよっ!」
「はっ、ヤバイっ!」
典子は起きあがった。
慌てて着替える。
バタバタと身支度もそこそこに、朝食も取らずに飛び出していく。
「典子、お誕生日おめでとう!」
「ありがとう、敏枝ちゃん」
「あれ…? 典子、泣いてた?」
敏枝が典子の目を覗きこむ。典子はえへへと笑い、夢の話をした。
「…………」
すると、神妙な顔付きをした敏枝。だが、すぐに笑顔を見せた。
「辛気臭いわねぇ。今日はあなたの誕生日だし、ほら、冷凍倉庫も見に行くんでしょ。もうすぐだよね、完成するの」
「うんっ!」
「…………」
典子の屈託の無い笑顔を眩しそうに見つめる敏枝であった。
(いつだろう……いつ目覚めるのだろう……ノン……ノナビアス……)
彼女が心でそう呟いていることも知らず、典子は───信子の魂が転生した典子は、手を振りながら走って行く。
それを見つめながら、敏枝は───敏子の転生体は、辛そうに思い出していた。
遙か彼方のユーフラテスで、恐らく未だに惑星の還元は続いていることだろうと───彼女の姉は、姉の半身は今も愛する人を抱きながら、いつの日かユーフラテスが緑溢れる惑星に生まれ変わるのを夢見続けるのだろう───
「トミー! はやくー!」
そんなとき、典子が彼女を呼んだ。
それに答える敏枝。
「待って、ノン!」
二人の少女は笑いながらじゃれながら、走り去る。
地球は今日も太陽の光降り注ぐ。
この平和がいつまでも続けばいいと願いつつ───少女たちの明るい歓声はいつまでも果てが無く続いていくようであった。




