消しゴム
心友。なんとも子供らしい響きだ。
なんで今まで忘れていたのだろう。彼女だか、彼だか性別をあまり思い出せない。
生き死にに関わるのに記憶が曖昧で心友にはもうしわけない。
もやっと一緒に過ごした楽しかった記憶だけが残っている。私にとってはそちらの方が好都合なのだろう。
なんだか幼い記憶。そこまで昔でもないのに霞の向こうのように視界が悪く、断片的な記憶から遠い記憶と憶測の入り混じった架空、空想なのか定かではない自身の記憶を探っていく。
家族が壊れた日。心友が亡くなった日。
心友は目の前で亡くなった。否、なくなった。いなくなった。
どこからかの帰り道だった。
血で汚れた制服をクリーニングに出したか、買い直した記憶があるので、制服を着ていたから、学校からの帰り道か休日になんちゃって制服で遊びに行っていた時だと思う。
たぶん前者だ。コスプレ的ななんちゃって制服だったら捨てて終わりだろうから、学校の正式な制服だった。
その日はそうだ。学校終わりにどこか楽しいとこに行った。原宿あたりに行って、プリクラ撮ってクレープを食べたような気がする!
そうどこかに遠出?とまではいかないが電車でどこかに行った。
その帰り道の駅のホーム。珍しく誰もいなかった。
そう考えると、どこか田舎だったのかもしれない。
突然、巨大な何かに心友は右足と左手を乱暴に引っ張らたかのように宙に浮かびあがり体が伸びきる。
泣きながら大きな声を上げていた。顔は思い出せない。
きっと泣き叫んでいただろう。私がそうだったから。
ごりっと骨が鳴る音は記憶がないが関節?腕が変な方向に曲がっていた。
そして、唯一簡単に思い出せたのは自身が赤く染まる瞬間。心友の身体から血が吹き出た瞬間。
雑巾を捻るように、人体がぐちゃっと捻れた。
その前に無理やりな力で体のあちこちが避けていた。
私にかかったのは主にそこから吹き出た血だった。まだ悲鳴が聞こえた。
その後に聞こえた「ゴリッ」とか「ベシッ」「バリッ」って音がたくさん聞こえる頃には心友は何も声を上げずになすがままになっていたと思う。
駅のホームだったので人身事故として処理されたのであろう。当時の記事を探してもそのようなものしか見つからなかった。
こんな事を私は記憶から削除していた。
いや、まともに生活をするにあたってこの記憶は忘れていた方が正解だっただろう。
それを目の当たりにした記憶が残ったままであったなら私はきっと世間一般的な生活はできなかっただろう。
記憶を封じる事が出来た私は正しい選択だと思う。
「あんな事があったのになんであの人は普通に過ごせるの?」
そんな風に思われていたんだろう。だから私は学校がなんとなく嫌いだった。
明確な理由はない。嫌いだった。
たぶんそういった視線が嫌だったんだろう。
私はまるで頭の中に消しゴムがあるかのように記憶を消している。それも、自分の都合の良い用に使える消しゴムだ。