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私は今日本で、一位二位を争うアイドルグループのメンバーだ。それが私の仕事だ。
アイドルという言葉を調べてみる。
「偶像」「崇拝される人や物」「あこがれの的」「熱狂的なファンをもつ人」を指す英語(idol)が由来。
自身をそれらと照らし合わせた時、第三者の目から見た時、「熱狂的なファンをもつ人」「あこがれの的」はなんとなくピンとくる。自惚れではなく俯瞰的に今の自分を観れる目くらいは持ち合わせている。むしろこの芸能界という世界ではその力は早い内に身につけねばならない能力だ。
今、ファンにどう観られているか。カメラにどのように映っているか。ずーっと考え続けている。
握手会で
「あの雑誌の時の服真似して着ました!」
や、実際に同じ衣装を身につけてくる同性ファンもたくさんいるくらいだ。
最近では私のグループの握手会で私のところには何千人もいらっしゃってくれる。それ自体は非常にありがたいのだが、私にそれほどの価値があるのか私自身では私の良さが理解できない。
「崇拝される人」の気分を味わう事ができる。
良く何万人のオーディションを勝ち抜いた美少女達!と大袈裟に称される事がある。
私は自分を特別な人間かと思った。そして、みんな私と似たような服を着て私の握手会に来る。同じような服装に同じような髪型。そんな同性ファンと私は外見はほとんど同じで、そこのどこにも特別さを感じない。
自分で何年も先を見据えて進路を選択する大学生達、年齢で言うと22、23歳の選択とは違い。
私は、なんとなくパパとママも望んでるし、楽しそうだから。
そんな理由で13才でアイドルになる事を選んだ。
本当にそれは自分で選んだと呼べるのだろうか。
それこそ度を過ぎた親馬鹿で我が娘を崇拝し、その道に自然に促されただけなんじゃないだろうか。
「偶像」を調べてみる。なんとなく言葉のニュアンスはわかるが、ちゃんとした意味を知らない。
神や仏の形をした像で、かつ崇拝の対象となっているもの。
アイドル。私はそう名乗るが恐れ多くなった。そして、この国に神仏は自称を含めたらいくつ存在するのだろうか。
さすがは万物に魂が宿ると言う八百万の国であり、宗教の自由の通りで無宗教、多宗教の国日本である。
盆に仏を迎えたかと思えばハロウィンを楽しみ、クリスマスにサンタクロースを待ってウキウキして、正月に獅子舞頭を噛まれる事に涙する子供達。
大安だ、仏滅だ、と気にしながらもFriday the 13thも忌み嫌う。
無宗教が故の多宗教。
アイドルを神さま扱いする一部ファンがいるのも強ち間違っていない様に思える。
アイドル崇拝イコール偶像崇拝と言えなくもないのだ。
だって私達アイドルはそんな多宗教で無宗教な国故のイベントに大きく便乗する二ヶ月に一度はなにかしらのそういったイベントのコスプレをさせられている。
需要に応えなければならないのだ。神様もなかなか大変なものである。
私が思い描く神様は、ハリーポッターみたいに魔法で便利な生活をして、アベンジャーズのような強靭な肉体とパワー、不思議な力を宿していて毎日動物に囲まれながらのんびりすごすイメージだった。私はそんな神様のほうがよかったのだが、偶像の意味を開いたスマホの画面を下にスクロールしてなんだか腑に落ちる。
「人形」「人間に似せたもの」
私はまさに「熱狂的なファンの為に、神様像を裏切らないように崇拝している神様を形どった人形」でしかないのだ。
それでも、私はこの生活に苦しみを感じながらも楽しんでいる。私は他の生活を知らないから。
芸能界。それだけで雲の上のように思う人もこんなにもメディアやネットが発達した世界でも思う人がまだいるらしい。
金銭的な面だと思うが。
私が楽しいと思えるのは、仕事という名目で貴重な体験をたくさんできる事だ。
もちろん望んでないものも沢山ある。泥まみれにされたり、ゲテモノ料理を食べさせられたり、溶けた蝋をかけられたり、神様にする仕打ちかよ、この罰当たりがと今だったら言いたくなる。
ただそれとは逆のベクトルで素敵な経験、嘘みたいに綺麗な景色をみせていただけたり、生活の中では到底口に入れる事のなかったであろう本当にソースや塩すらもいらない美味しいお肉や、今まさに釣れたばかりの漁師さんしか口にできないお魚を船上で捌いて海水で食べたり美味しいものをたくさんいただいた。
被災地でライブを行わせていただいた時には、なんて声をかけてもなんの腹の足しにも、なんの力にもなれない、せめて全力のパフォーマンスをとできる限りの事をしたら、皆さん大変な状況にも関わらずたくさん笑ってたくさん楽しんでいただけた。今でもあの時の方からファンレターが届く事がある。「あの時もらった元気で今まで頑張ってこれました!」と満面の笑みの家族写真を添えて。
貴重な経験。
私はしないでもいい、いや、したくなかった貴重な経験に今、直面している。
今?
これの始まりはいつからなのだろう?