絶望の荒野
なぜこいつらは攻撃してきた?地中に埋もれたたった一部屋が、どうして見つかった?
探知されたのだ。ダンジョンに関連するなにかを。
理由があるのだ。探知したダンジョンを無条件で破壊するなにかが。
それによってこの星に飛来したダンジョンは、ほぼ全てが駆逐されたのだ。
そうではない。そうではなく。
…なぜこうなる?どうしてこうなった?
「…ダンジョン」
『はい!』
「何人死んだ」
ライオブレイカーの声色に、浮かれていた女性の声は息をのむ。
『…魔力吸収から計測したところ、総計550名と思われます』
「そうか」
『…吸収した魔力には、撃破損壊した魔道具や魔石も大量に含まれています』
「…なぐさめてくれているのか?ダンジョン」
『…っ、申し訳ありません』
いつしか激しい感情が渦巻いていた。
ライオブレイカーはもともと正義のために戦ってきたわけではない。あれは見えない侵略者、レクシア機械領域人の姿を暴き、世に知らしめ、たくらみを打ち砕くための戦いだった。
不当な侵略者に対する限りなき防衛戦。それは綺麗事などで言いつくろうことのできない、ただの血塗られた戦争だった。
いつしかその防衛戦争は逆流現象を引き起こし、敵の侵略ルートと物流をたどり、姿の見えない超巨大要塞の存在と軌道を割り出して、逆侵攻で敵のすべてを打ち砕いた。
この550名の犠牲は怨念となって、必ず新たなる攻撃の引き金となる。…これからの俺はこの怨念が巻き起こす争いから、正義気取りで追ってくる敵から、粛々として悔恨とともに逃げ回り続けなければならないのだろうか。
俺の小さな領域に、侵略してきたのはお前たちだと、弁明する機会すら与えられずに。
…ふざけるな。
犠牲の多寡など問題ではない。これは不当に仕掛けられた戦いだ。
侵略に対しては戦う。
不当に貶められるのならば、それと戦う。
そいつらが詭弁を弄し、ものごとを捻じ曲げて、どれほどの味方を集めたとしても、そのすべてと俺は戦う。
どれだけの犠牲を積み上げたとしても、俺は戦って戦って戦い抜いて、踏みにじられた俺自身を回復する。
…ならばこの世界の歴史に、血塗られた記念碑を立てよう。愚かな拝利主義者の甘言に踊らされ、組織に縛られ追い立てられた哀れな兵士たちの屍山血河を積み上げて、心ある者の誰もが目を背けたくなるような、そんな惨劇の舞台を残そう。
後世の人間がその愚かさを糾弾し、世界はそうであってはならないと叫びたくなるような、そんな歴史を未来に残そう。
そうすればこんな悲しみも、きっと世界から無くなっていく。
無駄な犠牲ではないぞ。貴様らの死はすべて俺の中に吸収して力に変え、世界の未来のために使ってやる。そう思えば浮かばれるだろう?
「ダンジョン」
『…はい』
「…俺はやるぞ。あなたのダンジョンマスターを」
『えっ』
「俺はこの場所で、敵が誘い込まれるを待ち構え、すべてを屠り続け、あなたと俺自身の力とすることを約束しよう」
『…あっ…』
「いついかなる時も、嘲笑う黒幕も、与する者も、無知なる傀儡も、罪なき走狗も」
ライオブレイカーはそっと、己が胸に手を当てて、厳かに宣誓する。その声は静かで強く、それでいて暗い予感をともなう不吉なもののように響いた。
「あなたと俺を踏みにじり、狙うすべてのものを敵とし、力を尽くし、この命ある限り、すべての敵を打ち砕き」
「…殺し続けることを、ここに誓おう」
『…ああ…ああ!』
喜びに打ち震える女性の声が甘美に響く。
『今日この佳き日を迎えられたこと、私は本当に幸せ者にございます!』
「私につくせ、ダンジョン」
『はい…はい!』
心の何処かが引っかかっている。本当にそれでいいのか。剥がれ落ちそうな声がそう訴えかけている。
なれば心よ。俺の心よ。止めるだけの根拠を私に示してみせよ。